第13話 薬草採取①
翌朝、俺は心地よい目覚めを迎えた。こんなに良い目覚めは久しぶりだ。思えばこの世界に来てから、王宮ではレベルアップのストレス、実地訓練以降は生存のストレスで安眠できたことがなかった気がする。
俺はメジエールのお屋敷で入手した寝間着から冒険者セットに着替える。この寝間着が貴族が着るものなのか、とても着心地がいいのだ。これも快眠の理由だろう。
着替え終わった後、俺は朝食を食べに1階に降りる。昨日、夕食を食べた場所だ。でも、1階に降りても誰もいなかった。昨日の感じだと、結構、宿泊者が多いと思ったんだけど。
「おそようございます、ヨースケさん」
エレンちゃんが挨拶してきた。おそようございますって……。もうみんな出てっちゃったのか?厨房の方からジュディスさんが出てきた。
「もう8時ですよ、ヨースケさん。よっぽどお疲れだったんですね」
8時か。日本の土日なら多くの人が起きる、怠惰な大学生ならまだ寝ているような時間だ。もちろん勤勉な労働者諸君(社畜)は電車の中。
もしかして王宮では俺たち日本人に配慮していたのか?奴隷にする予定の奴らに配慮なんてできればしたくないはず。ただ貴族たちが怠慢なだけか。
「歩き詰めだったんです。1人だったのであまり熟睡できなくて。ええと、朝食をお願いできますか?」
とりあえず昨日に引き続き恥ずかしいところを見られてしまったという事実は脇に置いて、俺は朝食を頼んだ。別名、話題逸らしともいう。
ジュディスさんとエレンちゃんは目を合わせて微笑む。くそ、やっぱりめちゃくちゃ恥ずかしい。俺にそっちの趣味はないぞ。
ジュディスさんが厨房の方からパンとスープを持ってきてくれた。スープは昨日と同じシチューみたいなものだが、パンは焼きたてのものだ。
焼き立てといっても食べづらいので、シチューに浸して食べる。昨日はパンをそのまま食べたからあんなに見られてたのか。今、思い至った。
また、黒歴史を増やしてしまった……。
「ごちそうさまでした」
俺は手を合わせて言った。感謝を示すのは大切だ。席を立つと、エレンちゃんが変な顔をしていた。
そうだ、この世界ではごちそうさまとは言わないのだ。長々と神々に感謝を伝える儀礼はあるが、日本式のごちそうさまは翻訳してくれないのだ。
王宮では謎の異世界人マナーとして認められていたが、気をつけないとな。
席を立って、少し歩くと井戸に着いた。水筒に水を入れると同時に、非常用の水入れにも水を補充する。1日分しか残っていないから、万が一に備えないといけない。
俺は入れ終わってトイレに行ってから、受付に向かった。ちなみにトイレはスライムを使ったものが一定以上の家では普及しているから、思いの外、綺麗だ。
受付でジュディスさんに大銅貨2枚を払い、今夜も部屋を抑えてもらった。なんだかんだ、俺はこの宿「東」を気に入ったのだ。エレンちゃんに声を送られながら、俺は冒険者ギルドに向かった。
ギルドは閑散としていた。ギルドでは朝、掲示板に依頼が貼られ、早い者勝ちで受注できるからだ。依頼はあまり残っていなかったが、問題ない。
実は、常設依頼の野草採取をやろうと考えている。俺に1人で魔物を狩る力はないので仕方がない。
それに慣れない街での初めての冒険者生活。報酬は安いが安全な薬草採取はちょうどいい。
俺は薬草の特徴を聞きにヒルデさんの方に行く。隣街で冒険者をしていた俺が薬草の形を知らないのは少し不自然だが、薬草の種類なんて全く知らない。誤魔化すしかなさそうだ。
「このヤン草の特徴を念の為教えてほしいのですが」
すると、ヒルデさんが驚いた様子だった。薬草採取は低級新人冒険者のやる依頼じゃないのか?推奨ランクはE・Fになっていた。
「治癒魔法持ちなのにパーティーに入らずにソロなんですか?しかもわざわざ下積みのヤン草採取をするなんて」
どうやら希少な治癒魔法持ちがやるのは奇妙だったらしい。治癒魔法があろうと、下積みはやったほうがいいと思うけどな。
「いろいろあるんです。それで特徴は?」
実は昨日の加入申請のときに、雷魔法はLv.1で申告している。賢者ヒカリ以来誰も使っていない雷魔法がLv.2というのは嘘くさすぎる。
もし本当だとわかったら、それはそれで大騒ぎだ。どっちにしろいいことがないので虚偽申告をしたのだ。
それでもヒルデさんにパーティーに入ることを勧められたので、俺は剣を少しは使えること、安全を最重視する予定であること、今はまだ様子見をしたいことなどを伝えてなんとか説得できた。
実力的に助け合えるパーティに入ったほうがいいんだろうけど、パーティーに入るには隠し事が多すぎる。
ヤン草の特徴は要約するとユキノシタだった。異世界に、親戚いるよ、ユキノシタ。なんで俺、こんな面白くもないことを思いついてしまうのか。陰キャの罪は深い。(悟り)
俺はヤン草が生えているという森に行く前に、昼ごはんを買うことにした。この世界風にいうと、間食だな。今日の朝食と昨日の夕食で夕方まで持つとは思えないから、何か出来合えの物を買いたい。
街の中心にある広場の真ん中には、よくわからない人の銅像がある。ここの初代領主か何かだろうか。30代くらいのイケメンだ。
そして広場の外縁部に屋台が並んでいる。どうやら朝食向けのようだ。まあ、みんなが食べるなら間食とはいわないか。
俺はアイテムボックスがあるからどれを選んでも大丈夫だ。時間経過がないっていうのは便利だな。
屋台を見ていると、香ばしい匂いを感じた。その方向を見ると、あるのは串焼きの店。匂いに釣られて俺はその屋台の前に行く。
野菜と肉が交互に並んでいる串焼きだ。眺めていると気の良さそうな店主のおじさんが話しかけてきた。
「見ねえ顔だな。これはボーンラビットの肉だ。野菜はこの時期は保存しているやつだからそこまで美味くねえ。買うか、兄ちゃん」
「なるほど。いくらですか?」
値段次第だ。自慢じゃないが、俺の財布の中には他人の稼いだ金しか入っていない。低級冒険者の稼ぎもそんなに良くないだろうし。
「2本で小銅貨3枚だ。他所からきた冒険者か?」
「ええ、新人です。4本いただけますか?」
店主のおじさんは竹皮みたいなものに包んでくれた。時代劇でおにぎりを入れているやつだ。この世界にも竹があるのだろうか。
「商人みたいにしゃべる新人さん、頑張れよ。ついでに常連になってくれ」
俺は会釈をして広場を東門に向かって離れる。ヤン草が取れる森は東にあるからだ。
周りの目が少なくなったときにアイテムボックスに入れた。実は入らないんじゃないかって少し心配してたんだ。
東門に着くと、ハンスさんがいた。昨日、上役に報告していた若い衛兵さんだ。今日は西門ではなく東門の担当らしい。
「ハンスさん、こんにちは。無事に冒険者登録できました。」
挨拶は大事だ。これができないと、捕まったときに挨拶もしない、近所付き合いのない人でした、と言われてしまう。
「ああ、ヨースケさんですか。こんにちは。事情はカール隊長から聞きましたよ」
カールさん、隊長だったのか。確かに、40代で、代々衛兵をしている家出身で、この中世ヨーロッパ風世界で書類仕事をする立場だから不思議はない。いい人だったしな。
「今日はカールさんは?」
ハンスさんは気の毒そうな顔をした。
「今日は書類仕事をする日なんです。カールさん、この日は毎回すごい嫌そうな顔をしてるんです。俺もあんな文字ばっかりの書類の相手をすると思うと……」
カールさんは書類作業が苦手らしい。衛兵は仕事柄、体育会系の人が多いのだろう。衛兵の本分は治安を維持することだからな。
その後、俺はギルドカードを見せてから別れを告げ、街を出た。後ろに次の人がいたからやむなくだ。
ヤン草は東門を出て1時間ほど歩いて左手に見える森に生えているそうだ。俺は街の近くにある牧場や野菜畑を見ながら森に向かった。
野菜や肉は生のまま輸送することが難しいのか、ご飯が不味くなるじゃないか、というようなことをぼんやりと考えながら俺は歩いていた。
上田洋介 Lv.2
HP:12/12 MP:54/54
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.1
観察術 Lv.2




