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第12話 素晴らしきテンプレ

 


 突っかかってくる冒険者を実力で追い返せない俺は、とりあえず下手に出ることにした。俺は自分が弱いということを知っている人間だ。実力以上のことはしない。


「見ての通り新人ですよ、先輩。俺は、受付の方に用があるので、しばらく受付嬢の方を貸していただけないでしょうか。それほど時間はかからないのですが」


 これなら大丈夫だろう。自分を低く見せすぎると、逆に馬鹿にしていると受け取られかねない。


「なんかまどろっこしいこと言いやがって。ああん?」


 先輩、敬語通じない系男子だった。そうだ、ここは中世ヨーロッパ風世界。学がない冒険者に敬語使っただけで嫌味になるのかもしれない。


 そんなにまどろっこしくないんだけどなぁ。


「マリオさん。仕事をしないといけないので……」


 受付嬢さんが間に入ってくれた。この冒険者、マリオって名前なのか。柄の悪いマリオは初めてだ。


 カールさんは髭がなくてもいいおじさんだったけど、このマリオは土管に潜りそうもないし柄も悪い。


 不良マリオは、しぶしぶカウンターを離れた。平和に終わってよかった。現代っ子は痛いのが苦手なのだ。


「それで、なにか御用ですか?」


 改めて見るときれいな受付嬢さんだ。うちの近所に住んでいたロシア人の美人さんみたいだ。でも、受付嬢さんは金髪だ。(ロシア美人さんは銀髪だった。失われた日常は尊い……)


「実はギルドカードを作りたくて……」


 俺は、さっきカールさんに話したカバーストーリーを話した。もちろん、メジエールの話は大幅カットだ。ここで廃墟の詳細を語れば、周りをドン引きさせることは間違いない。


「なるほど。だいたい事情はわかりました」


 俺の話は伝わったみたいだ。2度目だったから前回よりもわかりやすく話せたと思う。


「ご事情は同情いたしますが、王国と帝国のギルドは正式には異なります。しかもギルドカードもなくて支部も壊滅ということになると、カードの再発行は難しいです」


 ヒルデさんがそう言った。ヒルデというのは受付嬢さんの名前だ。近くでおとなしくしている不良マリオが別の冒険者に言っていた話から情報を得た。


 やっぱり、盗み聞きは素晴らしい情報収集だ。決して俺がぼっちだからではない。


「やっぱりそうですよね。わかりました。では、新しいギルドカードをお願いします」


「申し訳ありませんね。読み書きは可能ですか?」


 俺が問題ないと答えると、ヒルデさんは数枚の紙を差し出してきた。冒険者ギルド加入申請書、個人スキル・ステータス申告書などと題されている。後者は見たところ任意申告のようだ。スキルとステータスをわざわざ加入のたびに調べることはできないのだろう。


 俺は申請欄を埋めていく。何度書いても、日本語を書いているつもりなのにこの世界の文字になっているのは奇妙だ。せっかくなら、神様はこの違和感も消してくれればよかったのに。


 俺は書き終わった書類をヒルデさんに渡した。


「ええ、問題ありません。って、ええ!?治癒魔法持ちですか?しかもこの歳でレベル3!」


 ヒルデさんが静かな声でとても驚いている。大声を出していたら他の冒険者たちに気づかれていた。ギルドの教育は思いのほかきっちりしているのだろうか。


「そんなにめずらしいですか?」


 俺は本気でわからず聞き返した。メジエールでの廃墟あさりでは、スキルレベルの相場はわからなかったのだ。みんなわざわざ紙に書かないということだ。


 ヒルデさんは当たり前だという顔をする。そして小さめの声で話した。


「16歳でレベル3というのはめずらしくありません。めずらしいのは、そんな人が安定した教会ではなく、危険な冒険者ギルドに来ることです。なんで教会に行かなかったんですか?それとも司祭崩れの方ですか?」


 そうか、教会は親方日の丸みたいなものなのか。確かに教会が潰れることはないだろう。この世界でも宗教は粘り強い金持ちらしい。


 俺はさも深刻な過去があるというような顔で曖昧な返事をする。俺的にはあの森での出来事は途轍もない事件だったから、簡単なことだ。


 ヒルデさんは触れてはいけないことに触れたと思ったのか、俺に謝った。俺は気にしないでくれと言ったが、ヒルデさんはまだ気にしている素振りだった。荒くれ者の多い冒険者ギルドの受付嬢なのに優しい人だ。


 気にしすぎることがないよう、俺は代わりにおすすめの宿を聞いた。野宿はもうこりごりだし、危険な安宿はできれば避けたい。


「それなら、東という宿がおすすめです。その名の通り、東門の近くにあります。ご主人は気のいい人で、価格も良心的です。食事も美味しいですよ。部屋にも空きがあると思います」


「それは良さそうです。今夜はそこにしますよ」


 ヒルデさんは笑顔になった。癒されるなぁ、金髪だけど。金髪だけど。(大事なことなので以下略)


 話しているうちに奥でギルドカードができたようだ。木でできた簡素なギルドカード。しかし、不思議な魔法がかかっていて壊れず、ギルド以外で書き換えもできない仕組みだ。昔の異世界人が作ったオーパーツらしい。


 俺はそんな自分のものになったギルドカードを見る。


「ランクがEランクですね」


 確かGランクは子供の見習いで、普通はFランクからだったはず。


「試してるんですか?治癒魔法持ちはランクEからですよ。王国でもそうだったでしょう?」


 どうやらそういうことらしい。聞き方によっては、俺が冒険者ギルドに登録したことがないとバレかねないところだった。危ない危ない。


 俺は疑ったことを謝りつつ、足早にギルドを去った。俺にイチャモンをつけてきた不良マリオは、なぜか俺には話しかけてこなかった。そっちの方がいいので俺としては何の不満もない。


 ギルドを出てから、俺はきた道とは反対側に向かって歩き出す。俺が夕方通ったのが西門のはずだからだ。


 もう陽が沈んでいて道に面する店の多くは閉店している。小さな街だから夜に営業する必要がないんだろう。灯代も高いから、酒場くらいしか開いていない。


 俺は早歩きで宿へと向かう。まだ春になったあたりなので、まだまだ夜は寒い。


 そう、今は春の初めなのだ。これもメジエールに行ってから知ったことだ。こんなことも教えてくれなかった王国は、すごい不親切設計だったとわかる。


 門がだいぶ大きく見えてきたとき、右手に、東と大きく書かれた看板が見えた。隣にベッドのマークが描かれているから、ここが例の宿だろう。


 俺は扉を開けた。


「いらっしゃいませー。こんな時間に来るとは、新しい旅人さんですか?」


 俺に声をかけてきたのは、受付らしき机の向こうにちょこんと座っていた幼女だった。繰り返すが、宿屋の受付には幼女がいた。推定5歳。かわいい。が、ケモ耳ではない。銀髪でもない。髪の色はブロンド。


 俺は怪しまれないように普通に返事をした。


「冒険者なんだがな、わけあって宿を見つけるのが遅くなってしまった。まだ部屋は空いているだろうか」


「はい、空いてますよ。夕食と朝食付きです。夕食はもう冷めちゃってますけど。個室なら1泊大銅貨2枚です」


 俺は個室を頼んだ。幼女の思惑に乗った気がしないでもないが、幼女の思惑ならむしろ乗りたいまである。


 確認だが、俺は子供が好きなのであって、ロリコンではない。健全な紳士なのだ。


「お父さん、個室に1名さま入ったよー」


 その声に合わせて出てきたのはゴツい男ととても優しそうな女性だった。この男が幼女の父親だとでもいうのか。女性はともかく、この男が。


 俺は歓喜している。またもテンプレである。この街に来てから、全てがテンプレで構成されていると言っても過言ではない。王国はテンプレを待つ俺にとっての貧乏くじだったのか。


「俺が父親だとは信じ……てるな、これは。信じてくれるんならいいんだ、信じてくれるなら」


「あらあら、あなたったら、照れちゃってかわいい」


 女将さんが自己紹介をしてくれた。女将さんはジュディス、大将はドミニク、幼女がエレン。3人は夫婦とその子供。まあ、見た通りだな。


 俺はよろしくお願いする旨、礼儀正しく伝え、残っている夕食からスープとパンを食べた。日本や王宮のものよりも不味いはずだが、家庭的な味で俺の舌にはよく合った。


 人のものとは思えない、あの激マズの保存食をずっと食べていた俺には、三つ星レストラン級の食事だった。俺は夢中になって食べた。


 その様子を女将さんに微笑ましく見られていた俺は恥ずかしくなり、食事のお礼を伝えた後、さっさと部屋まで案内してもらった。簡素な部屋だったが、大銅貨2枚ではこんなものだろう。


 2日続けて歩いたし、ここ数日苦労の連続だった。俺は久しぶりに熟睡できる環境に、ベッドで横になってすぐに夢の世界へと旅立った。




上田洋介 Lv.2

HP:12/12 MP:54/54

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.2

    治癒魔法 Lv.3

    剣術 Lv.1 

    観察術 Lv.2


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