第11話 メルツィヒ
俺が王国の街メジエールを出てから2日目の夕方、俺は帝国への玄関口となる街メルツィヒを視界に捉えていた。ここまでの道のりは、あの森からメジエールまでの移動よりも楽だった。
あのときは、前をいくスタンピードの魔物やそれに取り残された魔物に襲われないか、どれくらい歩けば街に着くのかということが全くわからなかったからだ。
俺は昨日の早朝、メジエールを出発した。もう少し滞在しても良かったが、できる限り早く王国から出たかった。
小さな街だったから大方の情報をすでに入手し、いる必要性が薄れたというのもある。食料以外にも役に立ちそうな道具をアイテムボックスに入れることもできた。
ちなみに昨日の夜は、あの森の木の上で寝た。森といっても街から見て一番遠い辺りだから、野営地とは場所は違う。魔物はいないと思っても、平地では安心して眠れなかったのだ。
おかげで今日はずっと腰が痛かった。その前のお屋敷のベッドがふかふかだったから、余計森の木は硬く感じた。
そして、いよいよ、俺はこのメルツィヒに入る。今、俺は、不自然に思われないようにこの世界の住人風の格好をしている。
革鎧は血がついた元のやつのままだが、酒場に落ちていたマントをつけ、腰には水筒をつけた。もちろん、剣も持っている。俺のイメージが正しいなら、これで冒険者に見えるはずだ。
俺は街の入り口、門に到着した。ここは西門だろう。王国は帝国の西にあるからだ。
「そこの冒険者。王国から来るとはめずらしい。しかし、それにしては腕が立つようには見えぬ。どうやって境の森を抜けてきた。訳を話すが良い」
兵士風の男が怪訝そうな顔をしている。おそらく街の門番だろう。俺は昨日から考えてきたカバーストーリーをつらつらと話す。すると、兵士の顔は次第に驚きで埋まっていった。
「お前の話を整理するとだな。お前は故郷の街で嫌なことがあり、遠い辺境のメジエールまで来て新人冒険者になった。4日前、お前は、1人で薬草採取の依頼に行った。ゴブリンに奇襲されて怪我を負ったお前は、森で一晩過ごした、そうだな」
俺はうなずく。
「次の日に街に帰ると、街は魔物に襲われて廃墟となっていた。その日と翌日、お前は街で生存者を探したが見つからず、街には誰も来なかった。そこで、2日かけてこの街まで来た、途中でギルドカードは落とした、と」
「はい、そうなんです。信じてください」
俺は嘘とわかりながら信じてくれと言うことにためらいもあった。俺の素性が間違っているわけだから、門番的には大問題なのは間違いない。
だが、正直に異世界人だということはできない。頭がおかしいと思われるのがオチだ。
「そうはいってもだな……」
やはり信じてもらえないか。まあ、予想通りだ。それなら、ここはプランBだ。この言葉、1度言ってみたかったんだよね。
「仕方ありません。私はここでしばらく拘束されても良いですから、情報だけは上役の方にお伝えいただけませんか?」
「なるほど、確かにそれはそうだな。よし、ハンス、お前がお屋敷まで行ってこい」
慌てて返事をして、隣にいた若い兵士が街の方へ向かっていった。それを見送って俺たち2人は門の側にいた詰所に入った。石造りの無骨な建物で、家具も簡素なものだ。入ってすぐの机のところに座る。
「おまえ、名前はヨースケだったか。ずいぶん変わった名前だな?」
事前に予想していた質問だ。というか、ステータスの表記を変えられない以上、避けては通れない問題だ。
「実は、私の先祖が勇者さまと関わりがあったという話で。どこまで本当の話かわからないですが、名字を頂いたそうです。それで名字に合わせて代々異世界風の名前を名乗っているのです」
「ああ、王国ではそういうことがあると聞いたことがあるぞ。街に1家族はそう主張する奴がいると。あの噂は本当だったのか。だが、名字・名前も合わせるとは本格的だな」
兵士さんが笑っている。これは呆れられたか?名前までやるのはやりすぎと思っただろう。俺も兵士さんの立場ならそう思う。これを人に会うたびにやるのか……。
「兵士さんのお名前は?」
「言ってなかったか?俺の名前はカール。メルツィヒ生まれメルツィヒ育ちだ。長いことこの街で衛兵をやっている。お前を牢屋に入れることにならないように祈ってるぜ」
牢屋云々はこの人の持ちネタなんだろうか。面白くはないが、愛想笑いをしておく。空気を読むのは日本人の基本スキルだ。この世界の俺のスキルにそんなものはなかったが。
それにしてもカールか。カールなのにひげもないし麦わら帽子もかぶってないな。当たり前だけど。異世界だし。
それから、俺たちは報告した上役から命令が来るまで話をした。世間話だ。
カールさんは40代。代々この街で衛兵をやっている家の出身。子供は2人。息子もこの街で衛兵をしていて、娘は隣街の衛兵と結婚したという。本当に衛兵一家だった。
俺の方から話したのは、カバーストーリーだ。
王国東部の普通の農家の出身。閉鎖的な村で人間関係に悩み、遠く離れたメジエールに来た。兄が2人いるので後継は大丈夫。幼馴染たちも当然ついてきてくれなかったし、あまり人を信用できなくて街では1人で活動していた。
疑われることもなく、すんなり信じてくれた。カールさん、衛兵なのに大丈夫か?
その後は、冒険者の話をした。野草の採取をよくやったとか、まだまだ身体・スキルレベルが低くてゴブリンを相手にするのも大変だとか。
俺は少ない経験をすごい盛って話した。魔物なんて3体しか倒したことがないから、バレないようにかなり必死に話した。
カールさんは、俺にも弱い時代があったという感じで話を聞いてくれた。自分の若い頃を思い出して懐かしくなっているのだろう。俺の話は思いのほか、この世界の常識とマッチしているようだ。
当然、メジエールの状況も話した。俺の申告が正しいとわかれば、詳細な報告書を作る必要があるそうだ。中世ヨーロッパ風世界でもお役所は文書主義だ。
「失礼します、カールさん」
あの若い兵士、ハンスが詰所に戻ってきた。カールさんの側に寄って、2人でコソコソと話をしている。部外者の俺には聞かせられない話も多いだろうから、当然だ。
カールさんが席から立った。
「別ルートから、メルツィヒに関する情報が入った。ヨースケの情報が裏付けされた。お前は解放だ、よかったな。報告書はもう作れるから、さっさとギルドに行って身分証を作ってこい」
俺は、この街の冒険者ギルドの場所を教えてもらってからカールさんにお礼を言い、この詰所を後にした。
目指すはこの街の中央にある冒険者ギルドだ。身元不明な俺が身分証を作れるのは、冒険者ギルドしかない。
異世界ファンタジー小説御用達の冒険者ギルド。基本的な設定はだいたい共通だが、細部は作品ごとに異なる。この世界の場合は、結構テンプレに近い。
ギルドの制度は共通で連携もするが、運営はあくまで国ごと。街ごとに支部がある。ランクはA〜Gまであり、Aが一番強い。
依頼はなんでもありで、推奨ランクが設定されている。依頼をクリアしていくとランクが上がっていく。
どうやら冒険者ギルドに着いみたいだ。陽が先ほど沈んだというぐらいの時間だからだろうか、中は仕事帰りの冒険者たちであふれている。俺はウェスタンドアを通る。
ギルドの中の喧騒はすごい。冒険者たちが立ち話をしている。今日はどういう依頼をしたかとか、魔物が強かったとか、その手の話だ。
俺は彼らの注目を浴びながら受付嬢のいるカウンターへと向かう。
「あいつ誰だ?見たことやつだな」
「よその街から来たのか?誰か知ってるか?」
「でも、装備は新しく見える。動きも新人っぽい」
このメルツィヒもそれほど大きな街ではないから、全員が知り合いみたいなもんだだろう。現代日本でも、田舎では他所者がくるとすぐに噂になるらしい。(本当かどうかは知らない。都会っ子なので)
「あのー、どいてくれませんか。カウンターに用があるんです」
カウンターにもたれかかって美人な受付嬢さんに話しかけている男に言う。これは口説いているのだろうか。とても熱心に話しかけているのは間違いない。
だって、こんなにすぐ近くにいるのに俺の声が全く聞こえていない。わざと無視していんじゃないかと思ってしまうほどだ。
「あのー」
さっきよりも大きな声を出す。すると男は受付嬢さんに話しかけるのをやめてこちらに向いた。よかった、俺の声が聞こえたみたいだ。
「お前、見たこと無い顔だな。新人か?ここはお前みたいなガキがくれるところじゃねえぞ。ひよっ子は大人しく家に帰ってママに甘えとけ」
テ、テ、テンプレだ!今や絶滅危惧種ともいえるテンプレだよ。テンプレすぎるくらいテンプレだ。
やばい。すごい興奮してる。この世界に来て王女さまたちを見たときと同じくらい興奮してるよ。
俺はここまで興奮して気づいた。
俺、何にもテンプレ返しできないぞ、と。
上田洋介 Lv.2
HP:12/12 MP:54/54
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.1
観察術 Lv.2




