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第10話 生きる決意

 


 この森に来てから3日目の朝、俺は火葬した3本の腕と金属鎧を穴に埋めていた。マルクさんたちのお墓にするためだ。


 この世界のメイン宗教テバノラ教の死者の扱い方はわからないが、テンプレなら土葬するとアンデットになってしまう。俺はそう考えて、火葬することにした。


 火をつけるために、俺は雷魔法を使った。雷が落ちることで火災が発生することがあるなら、雷魔法で火をおこすこともできると考えたのだ。


 試行錯誤の末、なんとか木に火がついた。木が湿っていたのでなかなか火が強くならず、腕を燃やすのに苦労した。もし全身を燃やしていたら、かなりの時間がかかっていただろう。


「よし、これで完了だ」


 俺は作った穴の上に大きい石を載せて目印にした。まあ、ここに来ることは2度とないだろう。俺は手を合わせてから倒れたテントの方に向かった。


 俺は今日、ここから馬車の跡をたどって街を目指す。ここにいても仕方がないし、安全な時間はそう長くはないからだ。


 今は魔物がいないが、いつスタンピードに行った魔物が戻ってくるかわからない。俺が相手できるのは、ゴブリン1匹が限界だ。やつらと会えば死ぬしかない。


 ここで何日か訓練したとしてもあまり効果はないから、奴らが戻ってくるかもしれないここから早く離れるべきだと思ったのだ。


 俺はテントの残骸から、非常食と水をアイテムボックスに入るだけ補充し、お金も入手した。大銅貨2枚、小銀貨4枚、大銀貨1枚だ。思ったより少ない。


 騎士団の人たちは貴族出身だからお金はあまり持ち歩いていないのだろうか。お金を使う予定がないから持ってこなかったという説も普通にある。


 ちなみにこの国のお金は小さい方から小銅貨・大銅貨・小銀貨・大銀貨・小金貨・大金貨で、10枚ごとに上の単位に移る。小銀貨1枚=大銅貨10枚=小銅貨100枚という感じだ。


 王宮メイドのアンナさんによれば、小銅貨1枚で黒パンが2個買えるそうだ。


 だから、俺の現在の財産は黒パン2840個分ということになる。うん、黒パンを基準にしてもよくわからないが、街に着いて金欠で困るということはないと思う。アイテムボックスに入れれば盗まれることもありえない。


 俺はまたしても不退転の決意でこの森を旅立った。殺されかけてから、そんなことの連続だ。


 でも、生き残るためにはやるしかない。大したスキル・ステータス・ジョブではない俺だって、覚悟ぐらいは人並みでいたいものだ。




 森を出て、4時間ほどが経った。途中、魔物と遭遇することもなく、平和な移動だった。


 そして、俺の目の前には、破壊された門がある。騙すメリットがないと思って本当だと思っていたが、森の近くに街はないという情報は嘘だったということになる。なんで嘘をついたんだろう。


「でも、これは門だし、その先にあるのは街だよなぁ」


 俺は街の中に入っていった。街からは魔物の存在を感じないが、人の存在も感じない。街は破壊されていて、あの魔物たちに襲われたと判断できる。


 ただ、同じような造りの建物でも比較的無事なものもあるから、何か襲撃の基準があるはずだ。彼らに知性があるとは思えないから、人がいたかどうか、食べ物の有無というあたりだろう。


 俺は10分も経たずに街の反対側まで来てしまった。あまり大きくない街のようだ。中世ヨーロッパみたいに街の人口が少ないのかも。俺のラノベ知識がそう言っている。


 俺は街の中心部に戻って、崩れ無さそうな丈夫な建物に入る。


 床にはジョッキが散らかり、奥には樽に入ったエールがあった。もう1度見てみると、テンプレ酒場という雰囲気もある。


 入り口は西部劇みたいなウェスタンドア。安っぽいエールを飲む荒くれ冒険者たちで賑わっていたという想像が広がる。


「おいひよっ子、お前は家に帰ってママに甘えとけ、みたいな」


 テンプレを1人で言いつつ、俺は酒場(跡地)を出て、中心部の1番大きな建物に入った。塀で囲まれていて門の側に詰所のような建物があるから、おそらく領主か代官の屋敷だ。


 屋敷の前に庭がある。しかし、今では花を踏み潰されてただの芝生となっている。もう元に戻ることはないかもしれない。


 屋敷に入ると、マンガやアニメで見た貴族のお屋敷を思い出した。正面の階段が左右に分かれる両階段。まさか現役のものにお目にかかるとは。


 俺は階段を登っていく。2階の廊下には肖像画がたくさんあった。歴代の領主・代官だろうか。


 俺は角の部屋に行き着いた。俺のイメージだが、こういうお屋敷は最上階の角部屋に一番偉い人の部屋があると思ったからだ。分厚い扉を見ると、王宮の図書室を思い出す。


「金持ちって、異世界でもすげー」


 俺はつい、声を漏らした。高そうな家具がいくつもあり、執務机の上には書類が積み重なっている。


 王宮にもこういう部屋があったんだろうが、俺は自分の部屋・食堂・図書室にしかほぼいなかった。今思えば、もっといろんな部屋を見ておくべきだった。


 俺は試しに高級ソファーに座ってみる。うん、座り心地はニ○リのソファー並みだ。まあ、技術水準が低いから期待しすぎはダメだな。むしろ、この中世ヨーロッパ風世界でニ○リのソファーが作れるのは素晴らしいことだろう。


 そこで、俺は目の前の長机に散らかっていた書類を手に取ってみた。領主の仕事って、ちょっと興味あったんだ。


 今年の税収?商人からの陳情?他所の貴族からの手紙?


 しかし、その内容は俺の予想を完全に裏切るものだった。


「異世界人有効活用計画って、なんだよ……」


 その書類には、異世界人有効活用計画の実施についての最終確認と書かれていた。


 俺はその部屋から書類を全て集めて、夢中になってその関連書類を読んだ。わかったのは、この国の上層部が企てた恐ろしい計画だった。書類から考えた俺の推測は次の通り。


 この国の選民思想を持つ上層部は腐敗しており、民衆を圧政で苦しめていた。自分達の安全を確保できる使い勝手の良い、負けることのない強力な駒を求め、異世界人に目をつける。


 宮廷魔術師たちに俺たちを召喚させると、魔王討伐の偽依頼を出す。訓練期間にスキルを見極めて問題が生じないように計画を修正。わざと強い魔物が多い森で実地訓練を行い、俺も殺して危機感を煽る。


 その上で王宮に戻ったあと、強力なアイテムだと言って個別に隷属の首輪をつける。どうも無理矢理つけるのではダメらしい。


 あとは、俺たちを有力貴族や王族で山分けする。うまくいけば、勇者召喚を何度か繰り返す予定だそうだ。


 要するに、これまでの話は全て嘘だったということだ。


 俺たちを隔離していたのは、他の貴族に計画が露見したり、俺たちが余計な情報を入手したりすることを防ぐため。


 訓練は俺たちの使い道や計画の安全性を測るため。


 俺が殺されかけたのは、ただのスパイス。


「なんなんだ、これは。こんなこと、許されるのか」


 ここで声に出して怒ってもしょうがない。こいつらは自分達以外の人間は道具としか思っていないんだ。俺がこうして生き延びられたのは、むしろ運がいいことだったのだ。


 小川たちは奴隷にされて、民衆弾圧や性悪共の護衛をすることになる。誠も奴隷にされて毒味に使われるだろう。いや、状態異常無効だから、変な薬の人体実験に使われるかもしれない。症状が出て死ぬ直前にスキルを使えば、元の通りだからな。


 彼らのことを考えると、とても嫌な気分になる。こんな奴らの奴隷になることが、俺たち日本人に耐えられるだろうか。


 自らの力で圧政者を助け、民衆を殺す日々。解放されるのは自分が死んだときだけ。どう考えても精神がもたない。でも、俺が彼らの処遇をどうこうすることはできない。


 俺は、考えるのをやめた。


 俺が王宮に戻るのはいよいよ困難になった。王国にいることも危険だ。俺は書類の中にあった、地図をもう1度見る。


 実は、ここは王国の辺境で、ブルグント帝国なる国との国境らしい。制約条件が多すぎて、訓練が王都からこんなに遠くになったのだろう。だが、今の俺にはそれが好都合だ。


 どうやらあの森が強い魔物たちと一緒に自然国境になっていたようだ。しかし、その魔物たちはスタンピードで出払っている。平時で歩いて3日弱というから、魔物との戦闘が極端に少ない今なら2日で到着できるはずだ。


 俺は深呼吸をして、自分の決意を声に出して固める。


「誠、小川、クラスのみんな、あと和田。俺はこの世界で、俺の人生を生きる。ささやかだが、小さな幸せがある人生だ。お前たちの奴隷生活はとんでもなく悲惨なものだろう。俺はその事実から目を背ける。知り合いなのに助けもしない。でも、仕方ないじゃないか。俺に、大したスキルも知識もない俺に、いったい何ができるっていうんだよ。許してくれるよな?」


 言い終わると、俺の脳裏に誠が思い浮かんだが、誠は右手の親指を立ててはいなかった。誠は、俺に優しくても甘いやつじゃないよな。


 その日、俺は情報収集のため、街の中の丈夫そうな建物を太陽が沈むまで回った。


 冒険者ギルド、商業ギルド、酒場、教会、この屋敷。


 この世界の常識を知って、この世界の人間として生きていけるように隈なく調べた。結構、この世界に詳しくなったと思う。


 でも、陽が沈んでお屋敷のふかふかのベッドで横になったときでさえ、クラスメイトたちの悲痛な叫び声が聞こえている気がして、俺は、自分が罪人であるかのように感じていた。


 それでも俺はその思いを振り切って、眠りへと入っていった。眠りこそが心に対する最大の薬だと思って。




上田洋介 Lv.2

HP:10/12 MP:42/54

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.2

    治癒魔法 Lv.3

    剣術 Lv.1

    観察術 Lv.2 


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