第1話 異世界召喚
アクセスして下さり、ありがとうございます。
鎌倉権五郎景正と申します。
本作は、構想の段階ではかなり長い作品です。
エタらないように頑張りますので、皆様、よろしくお願いします。
よければ、ブックマーク・高評価などもお願いします。
ちょっぴり不運なだけ一般人、俺こと上田洋介には、現在、大きな危機が迫っている。
10分以内に数学の課題を完成させなければならないのだ。
数学の鈴木先生は授業の初めに課題を集めるので、授業が始まる10分後には完成している必要がある。まだ大問が3個あるから、今日は本当にやばい。
あれ、必要条件と十分条件って、どっちがどっちだ?
昨日の6限に課題を出された後、クラスで浮いている俺はすぐに家に帰った。部活がなかったからだ。
問題なのは、鈴木先生は俺が所属する数学研究会の顧問だということ。
部活がなかったのはバレているし、数日前、部活の活動中に世間話で風邪を全然引かないと言ってしまった。
まさか、マンガを一気読みして徹夜しましたと言う訳にはいかないだろう。
もう授業までに課題は終わらないし、言い訳を考える方を頑張るか。鈴木先生、課題忘れると怒るからなあ。なんとか良い言い訳を考えなければ。
やっぱり風邪か?全然引かないけど昨日は引きました、みたいな。
そもそも、なんで鈴木先生がこのクラスの数学を担当しているんだ?山本先生の担当が1・2・4組で、鈴木先生の担当が3・5・6組。
これには悪意を感じずにはいられない。山本先生はゆるくて優しいって評判なのに。
俺はこういうところ、不運なんだよな。
「なんか魔法陣みたいなのが見えないか?」
俺が課題未提出の言い訳を考えている間に、小川のやつがすごい非科学的なことを言い出した。なんかイラついてきたな。
やはり、イケメンは社会に悪影響をもたらすのか。くそ、イケメンめ。(ただの寝不足)
小川達也。
イケメン、気配り上手、学年トップクラスの学力という万能人間。
運動神経も良く、サッカー部では1年生ながら早くもフォワードとして活躍中。
クラスの中心メンバーで女子にモテる一方、男子にも慕われている。
まさに物語の主人公のような人物。あと、イケメン。(大事なことなので2回言いました)
だが、俺はそんな小川が苦手だ。悪い奴ではない。むしろいい奴だと思っている。
しかし、あまりにも眩しすぎる。見ているだけで俺に劣等感を抱かせてくるんだ、あいつは。
「達也くん、すごい!」
「やっぱり、普通の人とは違うんだね」
あと、こういうところも苦手。なんであいつは褒められているんだ!?ここは引かれて関係に隙間ができるところだろ。教室で魔法なんて大声で言った日には、翌日からクラスメイトの対応がよそよそしくなって、メンタルが無事に死亡するはず。(ソースは俺)
しかも、あの2人は1-3女子可愛さランキング(俺調べ)1位の木村洋子と2位の山下由美だ。
これがイケメンの力か。こんな奴が同じクラスにいたら、俺に振り向く女子なんていない。本当に不運だ。
おかしいな、目から汗が出ている。課題が大変だったからかな?うん、きっとそうだろう。
決して、俺にもともと魅力がないわけではない。俺は強く生きていく。
「てか、ほんとになんか光ってね?」
今喋ったのは和田元。うちのクラスの中心メンバーの一人。小川の幼馴染らしい。今の口調からも薄々察せられるが、こいつはお調子者だ。
そして、俺はこいつが嫌いだ。別にお調子者なのが悪いという訳ではない。こいつのせいで、俺がクラスから浮くことになったからだ。
4月、俺はこの市立北高校に入学した。俺の家はこの高校から離れているから同じ中学から進学した人も少なく、この1-3には知り合いがいなかった。
あまり喋るのが得意ではない俺は、入学初日、やることがなかったので暇つぶしに新しく入れたソシャゲをやっていた。
そのとき、俺のクラスでの立ち位置を決めてしまう一言を言ってしまったのだ。
「やべー、この火属性魔法すげー」と。
別に今時、漫画やアニメが好きな高校生は山ほどいる。ソシャゲが好きなやつも。このクラスにもきっといるはずだ。
だが、和田はそうではなかった。むしろ、その手のものを嫌っているタイプの人間だった。
高校に入ったばかりで話のネタがなかったからだろう。小川がトイレに行ったり、他のクラスの人と話したりしているときに、面白おかしく俺のことを話した。
小川は初日から早くもこのクラスの中心になっていた。その隣には、当然のように幼馴染である和田がいた。知り合いが少ないのは俺だけではなく、みんな同じだ。
和田がそういう態度をとったから、和田に目をつけられるのを避けようとクラスメイトたちは俺に話しかけてこなかった。あいつを除いては。
まあ、自分が一番大事なのは俺も同じだ。長いものに巻かれろ主義なのもよくわかる。和田には大した悪気はなかったと思う。俺も運が悪かったと諦めている部分もある。
だが。そうだとしても。
頭ではそう理解できるが、心は違う。
だから、俺は和田が嫌いだ。
それにしても、床が光っているように見えるが、きっと太陽光の反射だろう。いきなり床が光るなんて、俺が通学途中に読んでいた異世界召喚ものでもあるまいし。
いや、でも本当に床が光っている気がする。俺は確認を取ろうとして、後ろの席のあいつに声をかけた。
「お前も床が光っていると思うか?」
「今日は見ての通り曇りだ。でも、俺の目にも床が光っているように見える」
こいつが、俺が唯一このクラスで話す人間、山口誠だ。
和田が俺のことを馬鹿にした後に「初日から教室で魔法だなんだって話すとは、すごい奴だな」と言って、気さくに話しかけてくれた。
正直、救われた。こいつがいなかったら、学校生活は俺にとってすごく退屈なものになっていたと思う。友達のありがたさを15歳にして初めて理解したよ。
「ワックスを塗ったという感じでもないし、なんだろうな?」
周りを見渡すと、みんな不安そうな顔をしているな。いや、和田は違うな。この状況でも「ダチに送るわ」とか言って、騒ぎながらスマホで動画をとっているみたいだ。
まあ、どうでもいいか。
「学校が関わっているなら鈴木先生が何か説明するだろうし、そうじゃなければもしかすると授業がなくなるかも。よかったな。お前、課題やってないだろ?」
誠、なぜそれを知っている?俺は別に何もいってないぞ。
「いや、朝から数学の教科書開いているうえ、すごい眠そうに見えるからな。数研の部員といっても、別に数学がそんなに好きじゃないんだろ」
「どうせ、徹夜して漫画読んでたとか、アニメを一気見してたとかだろ?」
「いや、だから俺の心を読むのをやめろよ。あってるけど。」
そうだった、こいつは俺の心を読んでくるんだった。誠曰く、俺は顔に出やすいんだと。中学まではそんな風に言われたことなかったんだけどな。
誠のコミュ力は侮れない。
「俺のコミュ力に感嘆するのもいいけど、言い訳を考えた方がいいんじゃないのか?」
くそ、また読まれた。いや、それは置いといて。
あと5分もすれば数学が始まってしまう。課題は結局終わらなかったから、鈴木先生の俺への評価を下げないため、引いては俺の数研での立場を守るため、効果的な言い訳を考えなければ。
祖父が急病で→俺が今日出席している時点でダメ。
弟の夜泣きがひどくて→俺に弟はいないから、後で絶対バレる。
英語の課題があって→他の奴らはどうしたって話になる。
うーん、あまり良い言い訳が思いつかないな。ここはG○OGLE先生に聞くしかないか。
そう思ってスマホを制服から取り出したそのとき、1-3の教室はほとばしる強い光で包まれた。