薄氷を優しく、溶かすように
注:深夜テンションで書きました。ゲロ甘い可能性が大小二つのサイコロを投げた時出た目の数が偶数なぐらいの確率であります。
まぁ、でも、折角だから。
読んでみてね!
「足、邪魔」
「……」
「ていっ」
「痛っ!おい、蹴るなよ」
「こたつの中のスペース取りすぎなのが悪いんです〜」
「俺の方がデカいんだからしょうがないだろ」
「正論は嫌いだぁ!せい、」
「ちょ、おま」
足の裏と足の裏を合わせて押し合う。
ただ、一度でもやったことがある人なら分かると思うが。
これ、お互いが張り合うと綱引きみたく引いたり押したりとは中々ならない。
大体の場合。横だっり上だったりにズレるのだ。
そんなのをコタツの中でやっていたら。
「痛っ!しかも熱い」
こたつの天井に当たってしまった。
俺の方が足がデカいから俺の足だけぶつかったし、理不尽だ。
一応火傷などをしていないかこたつから足をだし少し確認する。
まぁ、問題はないのだろうけど。
「ふふふふふ」
「勝ち誇った顔すんなや」
ムカついたのでこたつの布を持ち上げて空気の通り道を作ってやった。
「何やってんの離してよ。寒いじゃん」
「死なば諸共」
そう言って今度はパタパタと扇ぎ出す。
暖かい空気がどっかに行って足元が寒くなってきた。
「あー!パタパタしないでよ。折角、冬場なのにサービスでショートパンツ履いてあげてるのに。可愛い彼女が風邪ひいたらどうするのさ」
「サービスならもっと見せてくれよ。それと、風邪ひいたときは俺も一緒にひいてやる」
「せめて、看病してよ〜」
「看病とか何すれば良いか分かんね」
「あはは、頼りなーい。まぁ、でもそれもそっか」
そう言って彼女は姿勢を変え読んでいた漫画の続きを読み始めた。
俯けになって俺を背にする形になった彼女の足がこたつの中に見える。健康的な白い肌の太ももは確かにサービスだった。
でも、刺激が強いのでこれぐらいに。
俺が持ち上げていた布を下げたところで何気ない質問のように彼女は聞いた。
「ねぇ、私のこと本当に好き?」
漫画からは顔を上げずに。
本当に何気ない、朝ご飯に何食べたのか聞くような感じで。
「え、す、好きだけど」
「そっか」
「……それだけ?」
「え?まぁ」
「……びっくりしたぁ。やめろよ。別れ話かと思ったじゃん」
「違うよ、ちょっと気になっただけ。好きな女の子に対する態度それであってるのかなぁって」
「まぁ、俺の好きな女の子は別にお姫様じゃないから」
「ひど〜い。女の子はみんなお姫様でしょ?」
「へいへい、そうですね。マジで、世界一可愛くて、俺には勿体ないぐらいの最高のお姫様だと思ってますよ」
急にクルッと振り向いてこっちを見る彼女。
「そう?」
「マジ」
「……みかんむいてあげよっか?」
「チョロ」
「あぁー!チョロって言った!もう知らないから、口も聞きませーん」
「ダルっ。どうせ話相手いなくて寂しくなって話しかけてくる癖に」
「別に話相手なら居るよ。ネットに……」
「そっすか」
「あ、そういえばさ」
「ん?」
「この前ネッ友に告られた」
心がざわつく。
コイツは、まったく。
人を不安にさせるのが上手いようで。
「いつ?」
「一昨日」
「そうなんだ」
思った以上に最近だった。
「うん、どうしたと思う?」
「どうしたと思うって。俺に言ってるってことは普通に断ったんじゃないの?」
「うん、彼氏がいるからって断った。そしたら、『そうですか。そうですよね』って。でも、今日、証拠見せてくださいって来たんだよね」
「わー、全然諦めきれてないじゃん」
振られてるんだから、証拠も何もないだろうに……。
まぁ、確証がないと諦めきれない気持ちも分かるけど。
彼女が漫画を閉じて立ちこっちに来る。
「何?」
「脇、よって」
言われた通り脇によると彼女は隣に座ってきた。
付き合ってるとはいえ、いきなりこの距離は少し緊張する、それにこうも唐突だと。
やっぱり良い匂いがするな。
不慣れ丸出しな自分がなんだか恥ずかしくて。
顔を背けないで真っ直ぐ前を向くようにしていると彼女がスマホを取り出した。
「え、何してるの?」
「ツーショット。ほら、証拠写真」
「お前、ソイツに自撮りとか送ってんの?」
「ううん。でも顔は加工して隠せば良いでしょ」
「ダメ。それに、そんな見せつけるような真似しない方が良いでしょ」
「確かに。それもそっか」
俺が無表情を取り繕ってそっぽを向いていると。
彼女がニマニマとしながらこっちをみてくる。
「何?」
「いや、彼女取られるのが怖かったのかなぁ? って思ってやきもち的な?」
「別に……」
「別に?」
「そこまでじゃないけど。ただ、」
「ただ?」
「あぁもううざったいな。ニマニマすんなや。ただちょっとネトゲアンチになりそうなのと自分の彼女が改めてモテるんだなって思ってちょっと不安になっただけだよ」
「ふふ、可愛いー」
「やめろよ……」
あぁー、恥ずい。
顔が火照ってきたのはこたつに入ってるのとエアコンの温度が高すぎたんだろう。
きっとそういうことだ。
「ねぇ」
「何?」
「私達なんで付き合ってるんだっけ?」
「何?! マジで別れ話?」
「良いから」
有無は言わせず、良いから話せと言ってくる彼女。
「俺がお前のことを抱きついて、はちゃめちゃにして、食べちゃいたいぐらいに好きだから」
「それはキモい」
「酷くない?」
「ねぇ?」
「……何?」
「私たちいつから付き合ってるっけ?」
「ちょうど2ヶ月前」
え、これ記念日とかやっといた方が良かったやつか? とも思ったが彼女の質問はまだ続いた。
「どっちから告白したんだっけ?」
「俺から」
「ねぇ」
「…………何?」
「私には、俺のこと好きって訊かなくて良いの?」
俺は思わず、彼女の方を見た。
真っ直ぐな眼差し。
改めて見るとマジで可愛いなって思う。
まんまるな目の愛くるしい、純朴な瞳が。
今は少し恨めしい。
なんで、そんなこと。聞いちゃうかなぁ。
言えるわけないじゃないか。
だって、
お前は一度も俺のことが好きだなんて、
言ってない。
告白は俺からだ、お前は良いよと言っただけだ。
表面上。
いや、薄氷の上で。その下の深い深い海には踏み込まないで他愛もない話をして笑って。
別に心の底から楽しいのは変わらないんだ。嬉しいのも幸せなのも。だから、そんな。
薄氷を壊すようなこと、言わないで。
そんなことが聞けちゃう。
そんなところに惹かれたんだ。しょうがない。
眩しくて目を逸らしたくても、惹きつけられる。
目に、鼻に、指に、胸に、口に、唇に。
彼女のありとあらゆるパーツが俺を惹きつける。
「べ、別に────」
そっと、床に置いていた手に彼女の手が触れた。
そして優しく掴んで胸元に持っていく。
「君なら触れても良いよ?もっと、心の奥の方」
不安定なリズムを刻んでいた心臓が少しづつ落ち着きを取り戻す。そのかわり、血が熱を帯びているのが分かる。
温もりがゆっくりと手のひらから伝わってくる。
乱れそうになっていた息もいつのまにか収まっていた。
「ちょっと、待って」
「うん」
納得したならその手を離してよ。
そうは言えなかった。
俺の想定してたちょっとはそんな数秒じゃないんだけどなぁ。
許可、これほど分かりやすいものはない。
だってのに。まだ俺は震えてんのか。
冬ではあるが残念ながら俺はこたつに入っててエアコンも付いてる。
震える理由も怯える理由も彼女は残してくれなかった。
薄氷を自分の熱で溶かしていくように、でも、壊さないように。
優しく、彼女の頬に触れ。
「キス、したい?」
時間も呼吸も止まるかと思った。
てか止まって欲しかった。
彼女が立って自分の部屋へと駆けていく。
あぁ! 馬鹿か! 俺は、馬鹿なのか! キスしたい?(疑問系)って何だよ!!
はぁ、やらかした。
どうしよう。
反省と後悔と、よく分からない言葉に対してのよく分からない感情に、俺が悶え、頭を抱えていると。
彼女が戻ってきた。
両腕でギュッとクッションを抱えながら。
そのクッションの片面を俺に突き付けるようにして見せる。
そこには。
『YES』
俺がポカンとしているとまたクッションをギュッと抱え直す。
俺はあまりの可愛さにまた、頭を抱えるのだった。
Yes or No 枕、口では言えないけど思ってるよ感が可愛いと思います。
あと汎用性が高い。
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