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夜は夜に、夜らしく。

作者: 居道

キーワードやらジャンルやら、わからん。兎に角よく寝ろ。

0,

 あら、数奇なお客様。

 こっちがわかる?よく見えない?音ならどうかしら、ぱちぱちって音、聞こえてこないかしら?

これね、暖炉じゃあなくて焚火なのよ。外にいるの。たった一人で、とっても寒くて、真っ暗な場所に。風がちょっとあるから、ね。あなたも寒かったでしょう。もっとこっちへ降りてきて。怖がらなくていいわ。暗くても、寒くても、死んじゃったりなんかしないから。ここってそういう場所なのよ。・・・そう、そう、側に座って。私の顔はわかる?目は、鼻は?暗すぎてなんにも見えない?それなら、それでもいい。あたたかい焚火が話しているとでも思ってちょうだい。さ、ここまで来るのに疲れたでしょう。ゆっくりと息を整えてみて。少しずつ、少しずつでいいから。落ち着いてみなくちゃ、辛いだろうから。

 ここに来たってことは、あなたもきっと夜に迷っているのでしょう?何かに追い立てられて来たのでしょう?大丈夫、大丈夫。逃げることなんてない。胸に手を添えてみて。そおっと、触れてみて。騒がしい?いたいくらい?大丈夫、大丈夫。鼓動に耳を澄ませてみて。今はいたくても、くるしくても、案外それの根っこって、とっても優しいものよ?

 聞こえた?


1,

 おい、聞こえるか?聞こえるな、聞け。わしが来た。わしが来たのだ。胸の高鳴りが伝わるか?鼓動のような早鐘が聞こえるか?うむ、そうだ。いかにも、わしこそが早鐘だ。わしが来たのだ。何度でも言うぞ、何度でも鳴るぞ。わしが来た。お前はわしの声を、耳に、頭に、心に受け入れねばならない。賢いお前はきっと、わしが無駄な存在であると勘付いているのだろう。ああ、全く、そうやもな。だが早鐘はどうだ?去ったか?もう音すらしないか?いいや、そう簡単ではないはずだ。まだ去っていなければ耳を寄せろ。どこに、と?馬鹿め。お前の胸の早鐘にだ。今すぐに!


 いいか、大人しく早鐘を受け入れるのだ。嫌か、気に食わないか?なら謝ってやろう。謝ってやる、わしは偉いからな。それに失敗は何者にだってあることだ。何度も何度も、嫌と言うほどに向き合わねばならないことなのだ。だから重く気にするよりも、次なる成功を祈る方がマシなのだ。わかったか?なら、あとはわかるな。わしは非を謝ったのだ。無論、許してくれるな?

 さあ、さあ。では聞け。いいか、早鐘たるわしにも間違いはある。なにせ、わしは、お前のような夜に迷う多くの人間のために、昼夜を問わずに世界を飛び回っているのだ。夜と言いながら、なぜ昼夜と思ったか?それはな、わしらの夜が、必ずしも暗いうちにあるとはかぎらないからだ。理解し難いか?ならば、お前の夜はお前だけのものではなく、わしの夜でもあるとだけ覚えておけ。お前が目を瞑り、そこに早鐘が鳴ったなら、少なくとも、その時はわしらの夜なのだ。早鐘が邪魔か?こうも五月蠅くては一向に夜が終わらないと嘆くか?仕方がないだろう。わしだって、できるならば美しい声音のオルゴールに生まれたかった。だが、それではいけないのだ。それでは、お前は気付けないのだ。早鐘を聞け。じっと寄り添え。それが鳴りやむまで、跡形なく過ぎ去ってしまうまで、身を丸めて抱えてやるのだ。


 寄り添うのが嫌か?わしと過ごす夜が退屈か?じっとしてはいられないか?ああ、そうか、わかったぞ。いつものアレだな?良くないことを考えた。そうだな?悪い事ばかりを思い出した。そうだな?だから早鐘が聞こえる。そういうことだろう。

 焦っているのだ、単純なことだ。泥沼に足を取られ、足掻くばかりの日々にくたびれて。他人の足並みを気にして、疲れを癒そうにも、目を瞑ることにも落ち着けずにいる。足掻くことに飽きたか?そりゃあ、こりごりだろう。気を失ってしまえれば一瞬か?そりゃあ、瞬く間のことだろうな。だが、泥沼の内で眠ってしまえば、次の朝は泥の底だ。二度と太陽は拝めまい。いいか、まずは呼吸を整えろ。少しでも手を動かして、僅かにでも登ってみるのだ。それだけでいい。たったのそれだけで十分だ。できるだけ目線を高く保て。転がる土や石、草の根ばかりでなく、その上にある花や蝶を見つけるのだ。なんてことはない。たったの少し見渡すだけで、愛らしいものや美しいものが見つかるはずだ。時には風も良い。上を向く勇気があるなら空も良い。なんでもいいのだ。心から望んで、触れたいと思えるものが一つでもあったなら、それでいいのだ。


 どうだ、寄り添えるようか?少しは目を瞑れたか?闇に息を落ち着かせることができたか?闇はいいものだ。あれはなんでも受け入れてくれる。当たり前と思っていた光を、一層に愛しく輝かせてくれる。・・・ああ、そうだ。ちょっと試しに拳を作ってみろ。どうだ、なにか握ってはいないか?ポケットの中はどんなだ?我武者羅の間に掴み取った宝石を貯め込んでいたやも知れんぞ。おお、なんと、お前さんよ。浮かない顔だな。

 闇が悪い空想を映したか?忌々しい過去だろうか、よからぬ予感の具現だろうか?いずれにしても馬鹿々々しいことだ。断言するぞ。馬鹿々々しいことなのだ。特にそれが過去だったならば、格別に馬鹿らしい。なんたってお前は、一度はそれを乗り越えて、しっかりと今を生きているのだからな。まあ、だがな。過去というのは良し悪しに関わらず、しつこく付き纏う。ふとして笑えたならいいが、そうとも限らないよなあ。だからな、無理に闇に浸からずともよいのだ。お前の闇が快適でないならば、な。

 さて、だ。目を開けていると決めたならば退屈になるだろう。ここはひとつ、茶でもどうだ?白湯も良いな。早鐘や闇と向き合うには十分な準備がいる。心だけでなく、身体にもだ。心身を潤す用意ができたなら、さっそく何か探してはみないか?見える限りの中で、最も愛らしく美しいものを見つけるのだ。何があったかな?わしはな、豊かな緑の景色が好きだが、他にも炬燵と、旨い煮物と、甘い焼き菓子も好きだ。生憎、景色以外は、今は手元にないがな。今すぐに求めるならば、どれも空想の中になってしまう。だがな、たまには空想も良いものだ。空想の中でなら、煮物にも菓子にも合う茶を煎れられる。炬燵にも相応しい、七色の茶だ。空想や夢でなければ味わえない、希代の一品だ。お前はどうだ?夢にまで見たい一品はあるかな?一つぐらいはあるだろう。あるはずだ。


 そろそろだいぶ落ち着いて来たのではないか?なに、やっぱり早鐘が鬱陶しいとな?そもそもわしの所為で息すら整っていなかった?それは困りものだな。だが、言っておくが、それはわしの所為ではないぞ。いいか、腹に息を溜めて、吐き出す。今すぐにこれを繰り返してみるのだ。これはな、わしの経験に基づいたスバラシイ助言だ。それで安らぐ。安らがないはずがない。息が整うまで永遠に繰り返せ。間違いなどない、これは絶対に正しいのだ。疑うか?ふむ、ならば信じてみろ。物は試しだ。わしを信じてみるのだ。お前ならできると、わしも信じているのだからな。


 なに、息が苦しかっただけではなく痛みがあると?歯を食い縛らねば耐えられぬと?唸らねばままならぬと?痛みは不条理だと嘆くか?ああ、そうだな。わしも、その痛みの主がお前であるべき理由はないと思う。とても必要な事とは思えない。だが、だがな。一つ思うにな。心身の痛みとは、きっと宿命なのだ。今もお前が確かに痛みを背負っているのは、お前が誰よりも勇ましく、力強いからだ。痛みを負って生きることは、お前の強さの証明なのだ。それでも辛いものは辛いだろうな。今は耐えろ。いずれ来る暁の、天の光明を想うのだ。なんだと、空が晴れないと?光明どころか雨が心配とな?ならば心に花を飼え。心の空を曇らせず、常に晴れを願い、心の花を愛でることだ。そうなれば、まずは快晴に咲く花を見てみなければな。早速、どうだ、夢に期待してみないか?


 どうだ、夜を眠れそうか。既に眠れたなら、もう早鐘は聞こえないのだろうな。みんなそうだ。わしが苦労して付き添ってやったのに、用が済めば夢の中だ。挙句には夢を繰り返す中で、早鐘のことなど欠片も思い出さなくなるのだ。何に苦しんでいたかすら。・・・まあ、だがな、それは良いことだ。この上なく良いことだ。それでも、ゆめゆめ忘れるなよ。早鐘はお前の胸が鳴らすのではない。お前の胸の、内なる声が呼んだものなのだ。もしかすれば夜が過ぎてもまだ、早鐘が騒いでいるかもしれんな。安心しろ。わしはいつでも、お前とともにある。いつかすっかり忘れ去ってしまうまで、ずっとだ。

 また会った時には、せめて今よりわしを親しく思え。早鐘を友の声として受け入れるのだ。誰よりもお前を知る者が呼んだ声なのだから。


0,

 どうだった?わかりあえたかしら。覚えがない?まあ、そういう人もいるでしょうね。いいのよ。だって、それって幸せな事だもの。

 疲れてない?私は疲れちゃったわ。他の人といることって久しかったから。ちょっと目を瞑った方がいいのかも。朝のためにも、ひとまず夜は休まなくちゃ。そうでしょ?だって、朝はその日の一番の時間でなくちゃ損だもの。

 朝になっても、あなたはそこにいてくれるのかしら。そんな訳ないわよね。きっとあなたにはちゃんと行くべき場所があるもの。浮かない顔ね。大丈夫よ?少しずつ登っていくだけ。一歩ずつでも、進んでいくだけ。とりあえず来た道を戻ってみて、それから、あたたかいものを探して、見つけたら、寄り添ってみたらいいわ。そこがあなたの場所になるから。そこが、私たちが目指すべき場所だから。

ほら、夜だもの、休みましょう?深く息を吸って、もう一度、目を瞑ってみて。ゆっくり、そう、ゆっくりと。繰り返して、そっと、ゆっくりと。


あれの続編、山場まで到達はしましたがぶっちゃけ捗ってません。

ごめんね!

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