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一章11話『目覚め』


「…………ここは?」

 

 見知らぬ天井、見知らぬ壁、見知らぬベッドの上で悠真は目が覚める。


 異世界転生した時のように、目を開けたら喧騒溢れる中世のような世界観の街中で突っ立っている、という訳ではなく、王の寝室と言わんばかりの巨大な部屋のベッドで寝ていたらしい。


「また、死んだのかな……?」


 起き上がろうと両腕を動かそうとすると、激痛が走る。

 少なくとも痛みを感じたということは、この世界は夢では無いのだろう。転生してからは随分と痛みから実感を得ることが多くて困る。


「腕が痛い…………って事は、《マスターゴブリン》と戦った後……?」


 少しづつ記憶が蘇っていく。《マスターゴブリン》とサモンを引き合せる為に、外でヒットアンドアウェイをしながら時間を稼いで、その時に両腕ともに赤紫色になってありえない方向に曲がってしまうくらいのダメージを負った、そんな記憶がある。


 それだけでは無い、内臓や肋骨にもダメージが入っているのか、意識が覚醒してからは全身にじんわりと痛みが広がる。アドレナリンで動き回っていたが、体に残ったダメージは想像以上に甚大なものだったのだろう。


 だが、今は逆にその痛覚が、「エルルシャでまだ生きている」という安心感に繋がる。2回目の異世界転生では無さそうだ、と考えると安堵のため息が零れる。


「じゃあ……ここは?……というか服は…?」


 それではここはどこなのだろうか。病院、と言うにはあまりにも豪華すぎる。王の寝室と言われても納得できる部屋だ。


 壁に掛けられた装飾品は金色の煌びやかな美しさがあり、ベッドも天蓋付きで、3人くらいで寝れそうなほど巨大なベッドだ。ベッド脇の小机には花瓶があり、毎日手入れをされているのか新鮮な花が甘い香りを部屋に漂わせている。


 そして何よりも部屋が広い。この巨大なベッドを置いてなお余裕しかないのだ。それもただの寝室に。


 こんな高級そうな部屋で、こんなに大きなベッドで、こんなに綺麗な場所で全裸で寝ているとは、随分と贅沢な生活では無いだろうか。開放感は確かに凄まじいが、そもそも服はどこへ行ったのだろうか。


「服はとりあえずさておき、ここは本当に王様の部屋……?じゃないよな、王様なんて見たことも無いし」


 確かにバルモンド王国は、紛うことなく国王がすべているが、ここはその中でも辺境エルルシャだ。わざわざ一国の、ましてや大陸の半分を占める王国の国王様が、無名の白ランクなどを家に泊めるはずもない。そもそも悠真からすれば顔も知らないし縁もない。


 つまりは国王とかでは無いのだろう。そもそも庶民的生活を送り、実質スラムのような家庭で育った悠真にとってはこの部屋が豪華すぎるのだ。低予算の宿ですら感動してぐっすり眠れるというのに、この布団と枕だと眠ったまま永眠できてしまうかもしれない。


「お客様、お目覚めでしょうか」

「うぉわっ!?」


 辺りをジロジロと見回していると、いつの間に現れたのかメイド服を着た女の人がベッドの脇に立っていた。音もなく現れたからか、驚きで変な声が出てしまう。ドアの開く音すらしなかったのに、というかノックとかもしてない気がするんですが。


 横に経つ女性は、シェアラより少し身長の高い人だった。体型は小柄だが曲線美があり、シェアラの銀髪に良く似た白髪を腰まで下ろした美人だ。佇まいは並外れた努力を感じる程に洗練されている。が、目つきは悪く常にジト目で睨まれている。


「とりあえず……いくつか質問をしたいんだけど……僕は君を何とお呼びすればいいですか…?」

「失礼、自己紹介をしていませんでした。お初にお目にかかります、当屋敷にてお客様のお世話をさせていただく、使用人のシータと申します」


 シータ、と名乗るメイドは、自己紹介をしながら優雅な挨拶を始めた。どうやらこの屋敷の使用人のようだ。

 そしてどうやら、知らないうちにこの屋敷の中で世話をされるということが決まっていることもわかった。


「僕は田辺悠真。とりあえず一つだけ質問、いいかな……?」

「はい。なんなりとお申し付け下さい」

「…………なんで僕は裸なの?」


 人前では、やはり服が無いと恥ずかしい。

 

──────────────────────

 

「なるほど、つまり不可抗力だったと」

「はい。代わりのお召し物は今他のものに走らせているので少々お待ちいただければと」

「ありがとうね……」


 シータからの話を聞くとどうやら、《マスターゴブリン》の騒動が終わってから悠真はこの屋敷に運ばれてきたらしいが、身体の汚れを落とそうとするも負傷が酷く、服を脱がせることが出来なかった為に、服をそのまま切ってしまったらしい。

 

 特に前世の服に思い入れはなかったので切られても捨てられても特段困りはしないが、目が覚めて全裸は流石に恥ずかしい。世の中には全裸で寝る人も居るが、少なくとも悠真は異なる。

 

 そして何よりも人に洗われた、もしくは拭かれたというのが、仮に男の使用人にされていたとしても恥ずかしい。酒で介抱される人はこのような申し訳なさを抱くのだろうか、と悠真はふと考えてしまった。


 というか、ささやかな至福の時間だった風呂や食事は今後どうすればいいのだろうか。


「シータさん、もう一つ聞いておきたいんだけど」

「はい、なんでしょう。一応申し上げますが、お客様の裸は見てませんよ」

「いやそうじゃないよ!!今は裸の話はしてないよ!!……えっと、銀髪で碧眼のちっちゃい女の子、見てない?」


 服の問題が解決した今、1番気掛かりなのはシェアラの事だ。シェアラを庇う形でターゲットを引き受けたので恐らく怪我もないと思うが、洞窟内で何かあったかもしれないと考えると安否が気になる。


「シェアラ様の事ですか?多分そのうちいらっしゃると思いますが…………と、その前に、お目覚めになった事を確認したので旦那様をお呼びしますね」

「あ、はい。行ってらっしゃい……?」


 優雅に深々と一礼すると、シータはパタパタと足音を立てながら部屋から消えてしまった。

 

 どうやらシェアラは無事らしい。そのうち来る、ということは五体満足なのだろう。安心からか、肺から空気の塊が溜息として幾度も出てくる。それは命あって生きているからこそ、そしてこの空間が平和だからこそ出るものだ。


「よかった……あ、ハイベルさんはどうなったんだろうか、それに……」

「……まずは自分の心配をしなさいよ」

「あ、シェアラ、おはよう」


 やれやれ、とでも言いたげな顔でシェアラが部屋に入ってきた。相変わらず眩しいくらいの笑顔だが、目端が赤くなっているのが見えた。


「もしかして……泣いてた?何かあったの?」

「それは…!!悠真が3日間ずっと目覚めないから!!心配して…!!」

「3日……??」


 本当に3日も経ったのかと聞き直すと、シェアラは泣き腫らした瞳から再び涙を溜めて顔をくしゃくしゃに歪めながら強く頷いた。

 

 さすがに人生で3日間ぶっ通しで寝ていたことは初めてなので、相当の疲労もしくはダメージを負っていたのだと、その異常性を理解する。それはパーティメンバーであるシェアラも泣くほど心配してくれるわけだ。そんな姿を見ていたら、釣られて悠真も目頭が熱くなる。


「でもほら、生きて帰ってきたし、泣かなくてもいいのに」

「ごめん……ごめんねぇ……」


 緊張の糸が切れたように滝のように泣き出し、謝罪しながら泣き崩れてしまったシェアラを、何とか宥めようとするも両腕が使い物にならない。頭を撫でることも抱き締めることも出来ない歯痒さに苛まれる。出来ることなど、言葉をかけてあげること位しかないのだ。


「それに、謝る理由もないでしょ。あの時洞窟の中に行けって言ったのは僕なんだし」

「でも……」

「でもじゃない。あの時シェアラの代わりに僕が行っても、【敵探知(エネミーサーチ)】は使えないからサモンさんの所に最速で辿り着けなかったし、【疾走脚(スプリントエア)】だってシェアラの方が精度が良いんだから。あの場で時間稼ぎをする適任は僕しかいないでしょ?」


 あの瞬間、咄嗟の判断でシェアラを洞窟に行かせた。

 勿論、初手で腹をぶち抜かれそうになり、防具が防具の意味を成さなくなるくらいボロボロにされた時点で、女の子のシェアラを盾にしたくなかった、という気持ちが強かったのもある。


 小枝のように細い体はきっと簡単に折れてしまうし、いくら悠真より戦えたとしても、一方的に嬲り殺されてしまうビジョンがあった。それほど《マスターゴブリン》は強かったから、苦しみを代わりに引き受けようと動き回ったのも事実だ。


 けれども、感情的な考えを抜いて現実的に考えても、あの場でシェアラが残る方が悪手だったと胸を張って言える。そもそも何をするにもシェアラは悠真の格上なのだから、悠真にできることなど精々邪魔にならないように時間を稼ぐのが精一杯だった。


「それでも…悠真を死なせるところだった。それは変わらない」

「いいのいいの、困った時はお互い様だよ。ほら、黒狼の時は僕が助けてもらってるし」

「黒狼と《マスターゴブリン》とは格が違うでしょ……」

「結果は一緒、でしょ?」

「一緒、とはいかねえんだなぁ」


 突如として部屋の入口から見知った男の声が聞こえて振り向くと、相変わらずのガタイの良いサモンが腕を組みながら困ったような顔をしていた。もっとも、顔はボコボコになっており痣だのたんこぶだのが沢山浮かんでいる。


「えっと……サモンさん…?その傷は……?」

「まあちょっとな。それより調子はどうだ?よく寝れたか?」

「はい、それはもう死んだようにぐっすりと」

「こら!」


 冗談のつもりだったが、満更でも無い顔をしたシェアラに頭を叩かれる。よく見ればシータもサモンの横でお辞儀をしていることから、この屋敷の主人がサモンであることがなんとなく伺えた。


「ここは……サモンさんの家、ですか?」

「ん?ああ、家って言うか別荘だな」

「べ、べっそう?」

「そう、別荘」


 一瞬、脳がフリーズする。薄汚れたギルドに基本的に常駐しているイメージをサモンに対して持っていたため、このような清潔感と高級品に囲まれた生活をしているとは思わなかった。

 別荘という事は家はまた別にあるという事でもあるのだろう。金持ちだったのか。


「話を戻すけど、兄ちゃん。この前はすまなかった。本来ならもっと厳粛な場で謝罪をしなきゃならない事なんだが……」

「ちょっと待ってください、なんで謝るんですか!?…というか、厳粛な場で…ってどういうことですか?」


 突然、サモンが真剣な顔をしながら深々と頭を下げる。正直、悠真の中では当然謝られる筋合いも無い。

 ましてや、厳粛な場で謝るという事は相応の何かがあったのかもしれないが、そんな何かを成し遂げた記憶も無い。


「そもそも、優占種(ドミナンス)討伐に君達を連れて行けたのは、俺にギルドからの信頼があったからだ。本来であれば、白ランクが優占種の討伐作戦に参加するなんてあってはならない事だからな」

「受付の人がサモンさんなら問題ないって言ってたのってそういうことなんですね」

「ああ。だが、今回俺は大きな判断ミスをしてしまった。結果命に別状が無かったとはいえ、優占種と白ランクを鉢合わせてしまったのは俺の判断ミスが原因だ」


 確かに、一緒に洞窟に潜るか、それとも外に残るかを選択肢として聞かれた記憶はある。

 だが、合理的に考えれば敵の巣窟にお荷物2人をぶら下げて本陣に突撃するなど、危険極まりない行為だ。ましてや広大な土地ならまだしも、暗くて狭い洞窟の中でなど危険極まりない。

 サモンの判断は決してミスとは言えない。


「判断ミスなんて……」

「いや、判断ミスだった。《マスターゴブリン》が外にいる可能性を計算に含まなかった時点で、な」


 軽率だった、とサモンは口惜しそうにぼやく。確かに、あの時は悠真もシェアラも最奥部から出ていないという確信があった。予想外だったのは仕方がない、と悠真は割り切っていたが、サモンにとっては割り切れる問題ではなかったのだろう。


 実際、結果としてギルドからの信頼を損なうような事になってしまった事には変わりないのだから。


「とにかく。本当にすまなかった」

「でも結果的に僕達は生きてますから、頭を上げてください」

「私からも、謝らせて悠真。本当にごめんなさい」

「シェアラまで!?」


 2人から頭を下げられて、居た堪れない気分になる。

 他人から見ればそういう問題では無いのかもしれないが、悠真自身は特段問題なんて感じていないのに、こうも立て続けに謝罪を浴びるのはむず痒い気分になる。


「と、とりあえずお腹空いたので……ご飯が食べたいです…」


 悠真は、大きく鳴った自分の腹の音で居た堪れなさを誤魔化しつつ、なんとかこの空気を打開しようと無理矢理話を転換するのだった。


──────────────────────


「完っ全に忘れてた……」

「仕方ないよ、大人しく食べさせてもらうしかない」


 悠真とシェアラ、そしてサモンは館の食堂のようなところに会して、食事を取ろうしたのだが悠真の腕は相も変わらずまともに動かすことが叶わない。

 なんとか腕を上下にあげることは可能なのだが、物を握るという何かしらの動作をするのがきつい。それに加えて包帯を分厚く巻かれて強く固定もされているのだ。


 着替えに関しては、後から駆けつけた10歳くらいの男の子の使用人が浴衣に近いようなバスローブに良く似たパジャマを持ってきてくれたおかげで、なんとか全裸から脱却することは出来たものの、年下の子供に着替えを手伝ってもらうのは中々に気が引けた。


「この腕は回復魔術でなんとかならないの…?」

「私の【治癒(ヒール)】はあくまでも、肉体の生命力を活性化させる事で治癒能力を高めてるだけなの。これ以上やったら悠真の生命力がなくなるよ」

「私の……って事は違うパターンもあるってこと?」

「王国の軍隊のヒーラーや本職の医者なら可能だろうが、普通の冒険者は嬢ちゃんのように体内魔力に干渉した【治癒】を使うって感じだな。だから基本は応急処置がメインになる」


 さすがは歴戦の冒険者と言うべきか、サモンは魔術は使えないものの魔術のセオリーなどに関しての知識にも詳しい。だが、エルルシャにはヤッコブのような本職の医師が居たはずだが、どうしてそういう人達には協力を仰がないのだろうか。


「今、ヤッコブのジジ……爺さんの事を思い浮かべたな?」

「え?あ、はい」

「あの爺さんの本職は教官だからな、回復魔術の上級なんて使えないぞ」

「教官……?というか上級……ってことはマナを生命力に変換するってそんなに難しいんですか?」

「悠真は吸った息を吐く時に炎のブレスにできる?それくらい難しいのよ」


 シェアラの例えが分かりやすく、「なるほどそりゃ無理だ」と頷く。だが逆に上級回復魔術を使用出来る人はそれと同じ芸当ができてしまうと考えると、この世界の人間は本当に人なのか疑わしくなる。


 そもそもエルルシャにおいて医者という人間を見た事がないが、確かに冒険者がシェアラのように応急処置ができたり、多少の傷を治せるのならそもそも医者の価値も低くなるのだろうか。


「医師ってのは基本的に王都に集まっちまうからな、エルルシャには居ねえんだよ……っと、飯も来た事だし兄ちゃん達も食べな」


 雑談をしていると、食卓には豪華な食事が丁寧に並べられていた。勿論悠真にはその食材が何であるのかなど全く分からないが、パンとシチュー擬き、そして見知らぬ野菜のサラダと初めて嗅いだ香りのスープと、驚いた事にケーキまである。

 横ではシェアラが豪華さに目を輝かせており、悠真もその贅沢さに唾を飲み込んだ。


「お客様、失礼致しますね」

「失礼してるのは僕なんだよなあ……」


 悠真の隣にはいつの間にかシータが立っており、食器を持って悠真の食事の介抱の準備をしていた。

 どれから食べようかと考えていると、悠真の心を読んでか偶然か、一番最初に目が向いたパンを口に運ばれる。

 

「悠真、女の子があーんしてるんだからなんか感想とかないの?」

「感想と言われても……あの、恥ずかしいです」


 いくら手が使えない、とはいえやはり食べさせてもらうのは恥ずかしいし居た堪れない。

 しかし食べないと人は死ぬ。ここは恥を忍んで受け入れるしかないのだ。ましてや三日ぶりのご飯なのだ、ただでさえ空腹で死にそうなのだから我慢せずに食べなければ。


「どうだ、エテューは口に合うか?」

「すごく美味しいです。お肉も野菜もゴロゴロ入ってて、口当たりも柔らかくて……優しい味ですね」

「そうだろうそうだろう、存分に食ってくれ!」


 家が褒められて上機嫌なのかサモンはとびきりの笑顔を浮かべながらガハハと笑う。

 エテュー、恐らくはシチューなのだろう。煮込まれた野菜と肉は強い塩味の中に甘味を纏っており、優しく包み込むような暖かさを感じる家庭的な味わいをしている。


 さすがにパンにエテューを付けるのはNGか、と思っていたが、サモンは豪快に、かつ丁寧で綺麗な仕草でパンにエテューをかけながら食べていた。この食べ方はやはり万国共通の美味しさがあるのだろうか。

 それと同時に、繊細さと行儀の良さがあったサモンは育ちが良いのだろうか、と感心する。


「サモンさんって貴族だったんですか?」

「いや?俺は庶民の出だよ。ただちょっと体質が特異で、少しばかり羽振りが良いだけだ」

「少しばかり……??」

「ガッハッハ!!細けえ事は気にすんな!!」


 全く細かくもないが、庶民の出には感じられないほど食事に器用さと丁寧さがある。食事中マナーを守るのは当然だが、その上で仕草の一つ一つに優雅さがあるのだ。シェアラといいサモンといい何者なんだ。


「ま、兄ちゃんの怪我が治ったらギルドに行かねえとだな」

「え、それはさっきの謝罪でチャラなのでは…?」

「それはなんつーか……判断ミスだけが問題じゃねえと言うか……」


 先程までの穏やかな笑みから反転、真剣な顔つきに変わる。恐らくはかなり重要なことなのだろう。


「人と会話ができる魔物を初めて観測したからな、恐らくは兄ちゃんも証人として呼ばれると思うんだ」

「《マスターゴブリン》ってみんなあんな感じじゃないんですか??」

「んな馬鹿な。確かに死にゆく人の言葉を録音して再生する魔獣とかは居るんだが、あそこまで明確に意思疎通が図れたのは初めてだった。俺も長いこと色んな魔物と相見えてきたが初めてだ」


 死者の遺言を録音して再生する魔獣、恐らくは死者の遺言を疑似餌にして人を誘い込むようなタイプなのだろう。その魔獣の話も気にはなるが、それよりも《マスターゴブリン》と意思疎通が出来たと言うことの方が問題らしい。


「そもそも意思疎通ができた事の何が問題なんですか?」

「それだけの知能があるってことだ。優占種の成り立ちについては何となく分かってるんだろう?」

「生命力が異常なまでに蓄積されて強くなる……でしたっけ」

「その通り。基本は肉体が強化されることが多いが、知能まで成長したってことは、恐らく相当長いこと存在が認知されていなかったってことだ」


 ハイベルが言っていたエルルシャ樹海の解説でも、未だ未開の地が多いと説明を受けた記憶が蘇る。


「つまり、エルルシャのギルドは今回の件を機に開拓を進めるってことですか?」

「あぁ、それも精鋭の多い大規模な開拓部隊を作るだろうな。今回みたいなヤバい優占種が現れても戦えるような」


 そう言ってサモンはスープを啜る。

 確かに、エルルシャにおいては今回の問題は未開拓が招いた不幸と捉えることもできる。何も全くもって小さい問題では無いのだ。


「まあ、兄ちゃん達はそこまで関係ないだろうけどな、でも《マスターゴブリン》と会敵した以上、ギルドマスターから根掘り葉掘り聞かれるだろうよ」

「シェアラも一応会敵したんですが」

「私はもう行ったよ、一昨日。とはいえ悠真みたいに直接戦った訳では無いから話す事も少なかったけど」


 そういえば3日も寝込んでいたんだっけか。それなら確かにその間に細かい用事は済ませているだろう。抜け目のない子だ。


「あと悠真の装備品も買い換えないとね」

「勿論それは俺がお金を出すから安心しな」

「そこまでしなくても……」

「いいや、ギルドから相応の補償をしろと言われてるからな。こんなんじゃ足りないくらいだ」


 そう言うと、相も変わらずサモンは豪快に笑い出す。今のどこに笑う要素があったんだ。


「俺は用事があるからちょっくら出かけてくる。兄ちゃんはとりあえず1週間は絶対安静で、何かあったらシータに頼るといい。シータ、よろしく頼んだ」

「畏まりました」

「わ、分かりました」


 いつの間にか食事を終わらせていたサモンは時間が無いのか慌てて諸連絡を一気に押付けて、そそくさと食堂からどこかへ行ってしまった。

 随分と食事が早い、と思っていたが食べ終わってないのは食べさせてもらってるから食事のペースが遅い悠真だけで、シェアラも既に手を合わせていた。


「私にも頼りたい時は頼ってね、私も隣の部屋にいるから」

「助かるよ。じゃあ早速なんだけど、今日の夜かなんかに文字の読みを教えて欲しい」

「あの、前から思ってたんだけど随分と勉強熱心なのね。……まあそれくらいならお安い御用よ、任せてちょうだい」


 腕が使えないなりに出来ることはある。少しずつでも文字を読めるようになってきたら、依頼を自分から受けられるようになるし、何よりこの世界で今後生きていく時に生活が豊かになる。本も読めるようになれば知識も増える、そんな予感がしていた。


 頼られ方が地味で少し残念そうなシェアラと笑い合いながら、悠真は久しぶりの人に囲まれた食事を楽しんでいた。

 まずは五体満足で帰還できたことを、素直に喜ぼう。



サモンかボコボコなのは、死ぬ1歩手前くらいまでヤッコブに殴られたからです。


ヤッコブ「てめぇ!!なに新入りを死なせかけたんじゃボケェ!!!!」

サモン「ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」

ヤッコブ「お前半殺しじゃ済まさねえぞ」

サモン「ヒェッ」


って事があったとか。


誤字脱字文脈がおかしいとか言葉の使い方がおかしいとかございましたら報告お願いします。

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