珍味
「ミリアーナさん、ようこそいらしてくださいましたわ。今宵は帝国でも一流の腕を持つ料理人に作らせましたの。お口に会えばよろしいんですけど」
「ご厚意に感謝いたします。嫌いなものは基本ありませんので、ご心配なさらないでください。――これは」
イザベラ様に招かれた部屋には円形の食卓の上にさまざまな光輝く料理が並んでいた。北京ダックのようなアヒルを丸ごと調理したもの。豚の頭を煮詰めたもの。イナゴの佃煮やコオロギのお吸い物。カミキリムシの幼虫の素焼き。トノサマバッタやセミの素揚げ……。昆虫食やゲテモノ料理と数えられる料理がずらりと並んでいる。
和、中の料理中心だ。あ、スズメバチの幼虫まである。
「この土地古くからある昆虫を使った料理です。ノエルの方は食べなれないものと言えば、思いつくものが昆虫食でしたらから」
昔おばあちゃんちで嫌々食べさせられたのを思い出すなぁ。見た目はアレだけど、味は美味しんだよねぇ……。この世界でも昆虫食が食べられるなんて思ってもみなかった。
こちらを気遣って料理を考えてくれたことがなによりも嬉しくて、胸がきゅうっと締め付けられる。
「お気遣いありがとうございます。私もシレーヌ帝国での文献を見てから昆虫食に興味をもっていましたの。ここで食べられるなんて夢にも思いませんでしたわ」
「――ッ!こちらで、お出ししておいて何なのですが、その、抵抗とか、ありませんの?」
「……?この国の文化なのでしょう。なら先入観で食さないわけにも行きませんわ。最初に否定してはお肉もおさかなも食べられませんもの」
箸を手に取って、まずはイナゴの佃煮から。口に含むと、さくりと気味のいい音とエビのような風味とイナゴが口ほどけていく。醤油の優しい香りが口の中に広がって美味しい。
カミキリムシの幼虫も見た目がグロいけど、噛めば噛むほどマグロのトロのような濃厚な味が溶けだしている。
「――美味しいですわ!たしかに見た目は褒められたものではありませんけど、シレーヌ帝国特産の調味料と素材の味が生かされていますわね。こんな素敵な料理を作っていただき感謝申し上げますわ」
「そ……そう、それはよかったわ」
なんだか歯切れが悪そう。もしかして食べたいけど、私がいるから手を出しにくいとか?
イナゴの佃煮を小皿に取り、イザベラ様に差し出す。
「よろしければイザベラ様も召し上がってください。この佃煮、味が出ていて美味しいですわ」
「――ッ!わ、私は……」
もしかして、昆虫自体が苦手なほうだったのか?なら悪いことをしたのかもしれない。
様子を身ながら皿を下げる。
「……もしかして、イザベラ様は昆虫がお嫌いだったのでしょうか?気を使わせてしまい申し訳ありません」
イザベラ様はびくりと肩を震わせた。不愉快な気分にさせてしまったのだろうか。申し訳なく思えてきて視線をそらそうとすると。
「……ああ!もう!食べる!食べればよろしいのでしょう!だからそんな叱られた子犬のような反応しないでください!」
イザベラ様はふんだくるように皿を取ると、勢いのままにイナゴを口に抛りこんだ。大丈夫なのかな?拒絶反応的なもの起きたりしないだろうか。
「……ん、んん?あれ、美味しい……」
肩の力が抜けると、またひとつ、ひとつとイナゴを口に入れるイザベラ様。その所作のひとつが優美さを感じさせる。
イザベラ様と美味しいものを共有できることがなんだか嬉しくなる。
「ね、美味しいですよね!あ、この蜂の子も食べてみてください!ぷりぷりしてて美味しいですよ」
「見た目から生臭そうな感じがして避けてきたのですが、見た目以外なら普通に食べられますわね。ご飯が欲しいです」
「ですよね!このコオロギとかはせんべいや乾燥物で食されることが多い――と文献では書かれているのを見かけましたが、お吸い物にしても出汁がでていて美味しいんです!」
「そうね、私は佃煮の方が好きだけれど、この出汁も悪くはないわね」
昆虫食談議で盛り上がっていると遅れてクリフォード様と一緒についてきてくれたレタが遅れて登場した。レタは換毛期なので、一旦お風呂に入れてブラッシングしてもらってからの登場だ。もふもふ、ふわふわしてて可愛い。
「うわっ……母上、これはどういうことでしょう?」
「……なにっておもてなしの宴料理でしょう。見てわかりませんか?」
「あんまり食べられていない珍味料理ではありませんか!賓客に対して出す料理では――」
「クリフォード様、落ち着いてください。イザベラ様は私が食べなれていない、珍しい料理を気を利かせてだしてくださったのです。私も貴重な体験ができましたし、怒りはお納めください」
「しかしだな――ひっ」
「ほら、カミキリムシの幼虫の素揚げとかいかがです?濃厚で美味しいですよ」
「いや、俺は……」
【何だ、食べないのか?この蝉の素揚げも美味しいぞ】
そういえば、クリフォード様、ミールワームに抵抗あったんだっけ。仕方ないので、カミキリムシの幼虫は私が頂こう。
「……母上と高位貴族の令嬢が虫料理を囲んでるなど......俺は夢でも見ているのか」
こうしてシレーヌ帝国での初めての夜は更けていく。イザベラ様と昆虫食談議が出来て私は大満足だ。不安が多いが、イザベラ様もやさしく接してくださるし、留学期間、安心して過ごせそうだ。




