王国からの留学令嬢
クリフォード様が帰国して2週間、今度は私がシレーヌ皇国に留学するなんて……なんって運命的!醤油とか、味噌とか!日本食に使えそうな調味料や材料を生産してるし、作り方とか教えてもらったらこっちでも量産できそうだし!……ふふふッ!
シレーヌ皇国イザベラ皇后の名の元に、今度はミリアーナがシレーヌ国への留学生として招かれたのだ。友好国といってもまだまだシレーヌで使われている調味料とか、野菜とか流通していないし、これを気に一般的に流通するといいなと思いつつ、手あたり次第にトランクに荷物を詰める。
服類はアンたちが準備してくれているので、料理の本とか、釣り道具とか。レタはベッドの上で仰向けになって気持ちよさそうに寝コケているけど。
初めての海外に胸を躍らせつつ、明後日の出発に向けて準備を進めた。
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「シレーヌの文化について学ぶ機会を頂き、帝国の光であらせられる皇帝、皇后陛下のご厚情に感謝お礼申し上げます」
「ミリアーナさん、クリフォードの留学の時は大層お世話になったと聞き及びました。歴史が浅い国ではありますが、我が国の文化に沢山触れて、学んでいってくださいね。ここでは自分の家のように羽を伸ばして自由に過ごしてくださいね」
「とんでもございません。私もクリフォード様に幾度も助けられたことがありました。私こそクリフォード様に返しきれない恩がたくさんございますわ」
「まぁ、ふふ……」
両親に見送られ、シレーヌについて最初に謁見の間に通された。ところどころにこの国の守り神でもある龍の装飾がされている。中華ファンタジーの中に迷い込んだ気分だ。国自体の歴史は浅いと言うが、沢山の小国が合併してできた国ということもあり、その土地に根付く歴史自体は古く、シレーヌ帝国も引き継いでいることも多い。
……それにしてもクリフォード様のお母様って美人だな。整った顔立ちに萌黄色の長い髪の毛に中国のような民族衣装を着こなす異国の姫君って感じだ。クリフォード様のお母様ってことはうちのお母様と同い年くらいだろうけど。私よりちょっと上のお姉さんという感じで見た目がとても若い。
静かで優雅な所作も同じ女性として憧れる。
上座に座っているクリフォード様からの視線に気づいて笑顔で返すと、クリフォード様は小さく手を上げる。
「……今日は移動で疲れたでしょう。ささやかですが歓待の宴も用意しています。部屋まで案内させますので準備ができたらいらっしゃい」
「はい、ご厚意に感謝いたします。では、一旦御前、失礼いたしますわ」
…………。
「さらりと流れる黒髪に引き締まり煽情的な体躯、異国でも気圧されない静かな立ち振る舞い。あなたの良い人としてはまずまずということね」
「母上、ミリアーナは母上が思っているような女性ではありません。試すようなことをするのはどうかやめていただきたく思います」
「あら、仮にこの国に嫁ぐことになれば、側室たちを取り纏め、周囲の悪意から身を守る術を学ばねばいけません。生半可な覚悟ではあなたの嫁などやっていけないでしょう?それ以前に貴族から皇族になるのです、その覚悟たるや見定めるのも母の役目です」
「俺はミリアーナを傷つけたくないのです。もし、母上がミリアーナを傷つけるようならそれこそ、俺は母上を許せないかもしれません」
イザベラは他国で1人で嫁ぎ、側室からの嫌がらせを受けてはその強かさで返り討ちにしてきた。ある意味ではクリフォードを生むまでは苦労人だった。周りに信用できるのはクラファーダしかおらず、自分の使用人ですら疑ってきた人物だ。
クリフォードが生まれてからは落ち着いてきたものの、元来警戒心が強く、自分の懐に潜り込ませるならさまざまな難題をぶつけ、人を試す悪癖があった。
今度はそれをミリアーナに向けられることに、彼女の生い立ちから考えて仕方がないとしても、反論せざるを得ない。しかし、イザベラは改める気はないと薄い笑みを浮かべた。
「あら、まぁ、怖い。でも、これはあなたの為なのです。未来の伴侶となるもの、他者の悪意には打ち方なければいけません。……それになにも取って食おうというわけではありません。嫌がらせ、……少々課題をぶつけるだけです。手出しは無用ですよ?もしあなたが手出しをすれば私はミリアーナさんをあなたの未来の伴侶として認めませんから」
「……ッ!母上!」
イザベラは立ち上がるとクリフォードに背を向け、宴用の衣服に着替えるために去っていく。その背中に彼女を呼び止める以外の言葉を投げかけることができず、ただ立ち尽くしていた。




