待って欲しい!
パーティーは終盤に入り、酒に酔う者、優美な音楽に耳を傾ける者。夜も遅いので帰り支度をする者。多種多様な人間たちの行動の中で、国王と皇帝はパーティーを締めくくるべく、閉会式を始めた。
普通のパーティーなら適当な時間に開始して「あとはごゆっくり~」的な感じでラフにお開きにするものだが。一応親睦を深めるパーティーなので、きちんとした段取りがあるのだろう。
壇上にあがり、2人はそれぞれが閉会の言葉を述べる。内容は要約すると、これからも友好国として関わりが深くなるノエル王国、シレーヌ帝国。互いが手を取りあい、切磋琢磨して行こうねという前向きな言葉だ。
貴族たちはアルコールも入っているからか、歓声と拍手を鳴らし、パーティーを締めくくる――が。それに水を差すものがいた。
「――父上!少し待って頂きたい。この場を借りてご報告したいことがあるのだ!」
貴族の人混みの中から、骨ばった長く、白魚のような手がにょきり、と生える。国王はその人混みから声が下した方向を見れば、自分の息子、アシュリーの者であるということを認識するまで時間がかからなかった。
怪訝の眉を潜め、「どうした」と聞き返す。……心底迷惑そうだなぁ。
私も人のこと言えないけど、アシュリー親子ってそういう「ウザい」と言わんばかりのマイナスな表情って隠せないよね。
シン……と静まり返る会場。数拍置いて、貴族たちが「あれはアシュリー王子?」「もうパーティーが終わるのに、どうしたのかしら」と首を傾げた。
アシュリーは国王、そして皇帝からの発言の許可を取ると、マリアの手を引き、壇上へ上がる。
「隣の淑女はどなた?」
「普通のご令嬢に見えるけれど……婚約者ってミリアーナ様よね?どうしてアシュリー様は別の女性の手を引いているのかしら」
事情を知らない貴族は余計首を傾げるばかりだ。国王は依然として眉間に皺を寄せていた。これから何をしでかすのか、予想もしていないのだろう。
マリアを連れている時点で察してもいいものなのだが、意外に国王ってアレなのかな?
「皆、聞いて欲しい。俺はミリアーナ・アーテル公爵令嬢との婚約を破棄し、マリア・クライゼル子爵令嬢との婚約……いや!結婚をここに宣言するッ!!」
「「は?」」
突然発表に国王も皇帝も目が点になる。いきなり割りこんだと思ったら婚約破棄に続き、婚約相手より遥か下位の子爵令嬢との婚約を発表するんだもん。そりゃあびっくりするわ。
貴族たちは「急に?」「両国の親睦パーティーで言うこと?」と口々に言う。至極ごもっともな意見。突然の発表にただのどよめきだと思ったのか、会話が聞こえていないのか。
アシュリーは自分に場の支配権があると勘違いして「静粛に」と言葉を投げかけた。しかし、騒ぎが小さくなっただけで、未だにあっちこっちからひそり、と話し声が聞こえた。
「俺はマリアと日々を過ごしていくうちに、人を思いやる優しさに触れ、彼女の魅力惹かれていった。もう、彼女と愛を育む以外にはなにも考えられないんんだ!……認めてくださいますよね、国王陛下。そしてアーテル公爵」
「……ぷっ、くくく。ああ、そうなのか」
少し離れた場所にいたお父様は手で口元を押さえ、肩を震わせていた。ショック……ではなく、まるでコントを見ていて笑いをこらえる様子に近かった。
手に持っているグラスは未だ振るえている。それをなにと勘違いしたのだろうか、アシュリーは堂々とした態度で糾弾する。
「公爵!ミリアーナには不義理を働いたと自覚しているが、そもそもはミリアーナが婚約者としての責務を全うせず、貴族らしからぬ態度を振舞ったせいだ!」
「というと?」
顎に手を置いて首を傾げるお父様。知らないのか、と得意げな顔をして、ありもしない私の悪い噂を並べ立てるアシュリー。
「マリアがクラスで人気者だという理由でおまえが彼女に陰口を言ったり、教科書を隠したり……階段から突き落そうとしたり。その他色々とマリアに危害を加えている!この現状をどうお考えか!このような人間としてあるまじき振舞いをしている人間が、この俺の婚約者としていいわけがない!」
会場に響き渡り、耳に声が残るような大きな声で捲し立てるアシュリー。会場全体が唖然とした。彼が口からこぼした事実ではない私の悪い噂でなのか。そもそも親睦を深めるパーティーなのに己の思うように行動をする無礼なアシュリーに向けてなのかはわからないが。
とにかく、いい思いを抱いていないことは参加者の顔色から伺えば判断できる。
そんな状況でもお父様は。
「……だ、そうだが。ミリアーナ、なにかいうことはあるかい?」
勇気づけるように背中を押してくれる。なにがあっても自分たちが守ってやる。そんな強い意志が込められた眼差しを送ってくれた。それだけで、私は十分に勇気を貰えた。
「お父様、お父様は私の言うことを信じてくれますか」
このまま言われっぱなしでは、私と仲良くしてくれる周りの人間に危害が及ぶ。そんなの嫌だ。ここは私が反論をするしか事態の収拾はできない。
これから、私は人生で一番の大勝負にでる。私がミリアーナと変わったきっかけ。その元凶である人間に立ちはだかる。その結果、もしかしたらお父様たちに迷惑がかかるかもしれない。
……それでも。
「当たり前じゃないか!おまえは私たちの娘なのだから。それにそんな根性がひん曲がったことをしないと私たちは信じている。というか、するわけがないからな。こちらに遠慮せず、はっきりいってやりなさい」
「そうよ。なにがあっても私たちが守ってあげるわ。親として当然のことでしょう」
お母様とお父様が両脇に立って、両肩をぽんと叩いた。
足元にレタ。後方には姿は見えないけど、クリフォード様もいる。……私、1人じゃないんだ。
「……わかりました。あの、もし大ごとになったら、一緒に火消しを頼みますね」
一度深く深呼吸をして気持ちを整える。……よし!この際だ!言いたいことは全部言っちゃえ!と、人生で多分一番の邪悪な笑みを浮かべた。
「――ふふふ。私がマリアさんに嫉妬?そんなわけないじゃない」




