孤児院で炊き出し!
休日。ミリアーナは暇を持て余し、野人の酒場へ行こうと思い立ち、アンとメリー、としてレタを連れてやってくる。
すると慌ただしい動きで調理器具を馬車に詰め込む、おじさんとおばさんの姿が見えて首を傾げた。
「こんにちは、おばさん、おじさん」
「おや、ミリアーナちゃん!いらっしゃい!」
「なにやら表に食材を積んだ馬車があるのですが……どこかへ出かけるんですか?」
持っている調理鍋に視線を落とし、おばさんは頷く。
「ああ、最近景気がよくてねぇ。仕入れるのはいいんだが、日持ちしない食材を仕入れすぎて余ることがあるんだ。捨てるのももったいないんで、仕入れてあまった食材は孤児院にもっていって、炊き出しをするんだ」
「まぁ、でも最近じゃ、子供たちが俺たちの飯を「うまい、うまい」っていって食うから嬉しくてな。趣味みたいなもんになっちまってるんだ」
「最近じゃ、じいさん、わざと食材を多めに仕入れるんだよ。困ったもんさ!」
「おまえだって「沢山食べて大きくなりなよ」なんていってまんざらでもねぇじゃねぇかよ」
おばさんは意地の悪い笑みでおじさんの胸をじゃれるように肘でつき、おじさんは照れくさそうに服の襟を触る。
ミリアーナは孤児院……と声を上げた。
「孤児院というと、王都から少し離れた孤児院のことでしょうか?100人以上の子供がいるから作るの大変では?よければ私も手伝いましょうか?」
「おや、いいのかい?でも、折角の学校の休みだっていうのに、なんだか悪いねぇ」
「いえ。おばさんたちにはいつもお世話になってますから、恩返しさせてください」
暇を持て余していたし、無駄に休日を過ごすより、だれかの役……というか、日頃お世話になっているおばさんたちに恩返しした方が有意義な過ごし方だろうと思い立つ。
おばさんたちは申し訳なさそうに首を振った。
「世話になってるのはこっちの方さ。これは俺たちの趣味のようなもんだから、気にする必要はないさ」
「公爵家の娘として、孤児院の内情がとても気になるっていうのもあるんです。孤児院にはいったことがないから。私の好奇心を満たすためのついで、というのはいかがでしょうか?報酬は炊き出しのご飯と……帰りは馬車で家まで送って行ってください」
断るところまでは見越していたのだろう。見返り要求をすると、おばさんたちは顔をつき合わせ、ひそひそとどうするか話し合う。すぐに話はついた。
「……まぁ、そこまでいうなら仕方ないかな?でも、結構きついよ?」
「はい、体力には自信が……あるというわけではないですけど、炊き出しにおいてはお力になれると思います」
ミリアーナは自信あり気に胸を叩くと、おばさんたちはありがとう、とお礼を言った。ミリアーナたちは馬車に荷物を詰め込むのを手伝い、孤児院へ向かった。
★
「あ、おじちゃんとおばちゃんたちだ~!」
「いらっしゃ~い!またご飯作りにきてくれたの?」
孤児院には公爵邸と変わらないくらいのレンガ作りの建物に、12歳以下の子供が保護されている。正面玄関に入ると、子供たちが出迎えてくれた。
おじさんと、おばさんに懐いているようで、懐いた様子で集まってきた。
おじさんたちは「おお、いい子にいしてたか」とまるで自分の子供に接するような眼差しを向け、子供たちの頭を撫でる。
「ああ、野人の酒場の……よく来てくださいましたね」
「シスターさんご無沙汰しております。お店の食材があまったんで作りにきました」
「ええ。ええ。どうぞ、助かります。いつものように厨房を使っても大丈夫ですから」
奥から妙齢のシスター服を着こなす女性がでてくると、落ち着きのある様子で頷く。おじさんと、おばさんと親しそうに挨拶を交わしていると、私たちに目を向けた。
「それで……こちらの方は?」
「こちらは……」
おばさんはどう紹介しようか、と言った様子で私を見た。まぁ、正直にアーテル公爵の令嬢、だなんて言うわけにもいかないだろう。
畏縮したりされても困る。アンもメリーも同意して頷く。
「申し遅れました。私たちは姪のミアと申します。こちらは幼馴染のアンとメリー。今日はおばさんたちのお手伝いに来ました。よろしくお願いします」
外行のスマイル全開で名乗ると、シスターは柔らかい笑みを浮かべた。
「まぁ、まぁ、そうなのですね。わざわざありがとうございます。シスターのマルテと申します。この孤児院の副院長を務めさせて頂いてますわ」
胸の前で手を組んで、「この出会いに神のご加護がありますように」と祈った。さすが神に仕える者と言うべきか。信仰心に揺らぎがない。
挨拶を交わしていると、7歳くらいの男の子2人が私のドレスの裾を引っ張った。
「ねぇ、お姉ちゃん。僕お腹空いた~」
「昨日からなにも食べてないんだ~もうお腹ぺこぺこ」
「昨日から?あなたたち、1日に3食ご飯を食べていないの?」
衝撃の告白に耳を疑う。彼らが怖くないようにしゃがんで視線を合わせる。おじさんとおばさんは「あ~」と気まずそうに頬を掻いた。
マルテは「お客様に失礼ですよ」と子供たちを嗜める。
別の子供たちが私の言葉に肯定した。
「うん。1日に1回か2日に1回だよ。孤児院は貴族の寄付で成り立っているから、寄付がないと買えるご飯もないんだって神父様がいってた」
「……あンの無能神父」
耳端で物騒な言葉使いが聞こえたような気がしたが、言葉がしたすぐにシスターが咳払いをした。
子供たちがぎゅるるる、とお腹の音を鳴らしている。
こんな子供がひもじい思いをしているといたたまれない気持ちになる。こういう子供は沢山いるのは異世界でも変わらないようだ。
目に見えないものには「ふ~ん、大変だね」と私にとっては済ませられる話かもしれない。だが、こうして目に見えてしまうとどうしてもどうにかしてあげたくなってしまう。
でも、私にできることは少ない。こうして来て話を聞いてあげるか、料理を作ってあげることくらいだ。
「……そっか。じゃあ、今日はいっぱいご飯たべよう。お姉ちゃん、頑張っちゃうから」
「うん!」
ごはんと言う単語に元気に頷く子供たちに可愛い、と思いながら、立ち上がった。
「アン、メリー!手伝って!子供たちがお腹いっぱい食べられるような美味しいご飯を作りましょ!」
と意気込むと、二人は「「おー!」」と腕を高らかに上げた。




