考え
「ヴェスター殿、ちょっといいかな?」
「国王陛下!ええ、丁度決済が終わったところですので。…...それで、こんなところまで、なんの御用でしょうか?」
王城執務室。ヴェスターが今度開かれる夜会の決済業務をしていると、ノック音が鳴る。許可を出して開かれた扉の向こうには、この王城――否、国の主である国王が護衛を連れて立ていた。
ヴェスターは立ち上がると臣下の礼を取ると、国王は座るように促す。
「ここに来たのは他でもなくてな、……その、愚息のことを裏口担当の見張りから聞いて……な」
気まずそうに頬を掻く国王。ヴェスターはああ、と頷く。アシュリーとの裏口での出来事。ミリアーナに失礼な態度を取ったことに対して、国王自ら謝罪に来たのだろうか。
それは自分にではなく、ミリアーナに向けられるものだとヴェスターは内心で国王を睨んだ。
そんな内心をおくびに出さずに言った。
「アシュリー様のことは今に始まったことではありません。娘の学友によると、学校生活中もあんな感じらしいですから」
皮肉を交えると、国王はサッと顔色を青くする。実際婚約破棄をされると困るのは国王側もだ。国内の勢力、王族派、貴族派、中立派。王族の勢力を確立させるためには平民からの支持も強いアーテル家の存在が不可欠だ。
アーテル家の王妃候補を家から出せるのだから、と高を括っていた国王だが、実際問題、本当に婚約破棄をされるようなものなら、不安定なこの王座も揺らぎかねない。
お互いに利益しかないにしろ、国王的にはアーテルの機嫌は損ねたくない相手だった。
しかし、実際問題目の前のヴェスターは顔色には出さないが、言動から今回の件に関することで気持ちよくないのは馬鹿でない限りは、わかりきっている。
彼の機嫌をどうにかとろうと、慌てた様子で言った。
「うちの愚息がミリアーナ嬢に対して本当に失礼なことをしたと思っている。いくら愛人を作るにしても、結婚をしてからと、口酸っぱく言っているのだが……」
「……そういう問題ではありません。陛下、うちの可愛い娘をなんだと思っているのでしょうか?王子は自分の地位に胡坐を掻き、傲慢に振舞いながら、ミリアーナを卑下するような言葉をかけ、愛人殿もそれを静観なさる。馬鹿にするのにもほどがありましょう」
父親の表情で国王に苦言を呈すヴェスター。返す言葉もなく、ただ「よく教育しておく」と言葉を返す。
そして、ヴェスターは先日家族会議でまとまった話をここでしておくのがいいと思い、口にした。
「後日、正式的な書簡を提出しますが、ミリアーナとアシュリー様との縁談をお断りさせていただこうかと思っております。ああも気性が荒く、女性関係にもだらしがないのであれば、うちの娘にはふさわしくないので」
「……ッ!王族との縁談を断るというのか!たしかに、アシュリーは器量も良くないが、身分的には双方問題はないはず」
「……その人間性に問題があると申しているのです。うちも1人娘で跡取りもいませんし、少し身分の低い者からあたらしい相手を探そうかと思っています」
「しかし、それでは……貴族派はどうすれば……」
泰然とした様子で見据えるヴェスター。意思は変わらないようで、国王はうなだれる。どう回答を返せばいいのかわからないからだ。
国王はミリアーナとアシュリーの縁談を推し進める理由はあるが、破棄する理由はなく、デメリットしか発生しない。
結婚というものを道具としてみれない彼に、ヴェスターの心情など理解できるはずもなかった。
「婚約破棄をすれば、ミリアーナ嬢は瑕者として扱われ、容易に相手は探せなくなるぞ」
「……それでも娘が酷い男に嫁いで毎日泣く未来を歩むよりはマシでしょう。陛下、あなたは子供を自分の地位を確立するための道具としか思っていないようですが、僕にとっては娘はなによりも代えがたい宝物なんです。貴族派だの、王族派だの。……大切な人を守るためなら修羅の道だって歩んでやります。それが僕が彼女の親としてやってあげるべきことですから」
用事は済んだと言いたげに、ヴェスターは立ち上がって恭しくお辞儀をすると、仕事に戻っていった。
王も立ち上がると、護衛をつれて浮かない顔で部屋を去った。




