破棄への流れ
「ああああああ~!もう!私のバカバカバカ!お父様にあんな弱音を吐いてしまうなんて!」
ミリアーナは自室に戻るとベッドで足をバタバタさせ、気持ちを抑えようとごろごろ、と転がる。
今まで堰き止めていた気持ちを父に吐露したことが恥ずかしすぎて、1人部屋で気持ちを発散中のミリアーナ。部屋付近を歩いている使用人たちに奇怪な声が聞こえており、苦笑されている事実に気づいていない。
身体が疲れたころ。枕を抱きしめて気持ちを落ち着かせる。
「はぁ~~……でも、アシュリーとの縁談破棄してもいいなんて。……ちょっと気が楽かも」
いままでの悩みの種がそっくりそのまま無くなるのだから、肩の荷が降りることに安堵の反面。このまま婚約破棄をしてもいいものなのか考える。
アシュリーとマリアとの関係性と、学校での虐めとかの証拠を集めれば婚約破棄の十分なネタになりそうだ。
王国は浮気には厳しい国柄。愛人関係はともかくとして、婚約関係時点での不貞は白い目で見られる。王族が無自覚だとしても虐めの加担をしたとなれば大きな問題となるだろう。と思考を巡らせた。
「せめてお父様たちに迷惑は掛けないようにしないと。……それから……」
うとうとと瞼を閉じる。
夢の中はアシュリーと婚約破棄して団欒と過ごす家族の風景が。それが現実になればいいなと思いながら、微睡みの中に落ちていった。
★
「まぁ、ミリアーナがそんなことを……」
「ああ、あの子には殿下との婚約で無理を強いていたようだ。それで、縁談がさらに進む前に婚約破棄をしようと思うのだが」
時刻は午前1時過ぎ。夜勤の使用人たちを除けば、普通であれば屋敷中の人間たちは寝静まる頃……。
ヴェスターとシャンデルはワインとつまみのチーズを食べながら、夕方に起こった出来事の話し合いをしていた。
ミリアーナの婚約の話。これからのアーテルの未来を決める話ではあるが、話の内容は既に結果は見えており、淡々とした様子で結論を出した。
シャンデルはやっぱりね、と頷くとワインを傾けた。
「ミリアーナとアシュリー様は釣り合わない。常々ミリアーナにはよりふさわしい相手を、と思っていたからせいせいしたわ」
「おや、王子様に対して手厳しいね。君は婚約破棄に反対だと思っていたのだが」
「身分的なことを言えば申し分ありませんわ。けれど、結婚というのは一生に一度。女にとっては人生の分岐点ですもの。身分のみの政略結婚なんてもう時代遅れ。身分も大切ですが、人間性でどうにもならなければ結婚したところでうまく行きません。王位継承権はあるアシュリー様ですが、第一王子ではあるけど、絶対王になれるとは限らない。戴冠式までに勢力が動くかもしれませんし。仮に王になれなく、公爵家当主になるとしても、あの性格じゃあ、上に立つものとしてふさわしくないでしょう」
「女に狂い、感情的で、傲慢……愚者の典型的だからねぇ、彼」
ヴェスターはアシュリーに対しての嘲笑を浮かべる。
シャンデルは次にチーズをちびちびと噛み、舌で撫でる。咀嚼と共にヴェスターの言葉に頷くと口元をハンカチで拭いた。
「それにしても、あの子が泣くほどまで思いつめていたのを親として知らなかったなんて、情けない限りだわ。もっと早く婚約破棄の話題を出すべきだった。それに、慎重に選ぶべきだとも思ったわ……」
「世間的な目もあるから仕方ないよ。君だけの責任じゃない。あの子は1人で問題を抱え込むからね。僕たちはそれを支えることしかできない」
「そうね。あの子の幸せの為にサポートしてあげなくちゃね。私たち、いつもあの子に笑顔を貰ってばかりだから」
このチーズもミリアーナが作ったスモークチーズだった。料理を通して、この家の料理事情もいい方向へ変わりつつある。
ミリアーナが作った料理が、考えたものが。いまではこの家で笑顔を作るきっかけになっていた。
1年前のあの日、貴族は料理をするものではない、と反対はしたが、許可をしてから、さらに活き活きと、キラキラとミリアーナは輝いて見える。水を得た魚のように、趣味に打ち込む彼女を見ると親の身としても嬉しく感じるヴェスターと、シャンデル。
あの笑顔を守らなければと、強く拳を作った。




