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転生嫌われ令嬢の幸せ漢飯(日常)  作者: 赤羽夕夜
学園祭編

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学園祭の前日。男同士の話し合い

「公爵殿、少し話があります」

「どうしたんだい、クリフォード殿。こんな夜更けに。明日は学園祭ではないのかね?……まぁ、いい。入りなさい」

時刻は23時を過ぎている。

クリフォードは風呂に入った後なのか、少々水気が残る髪の毛を揺らし、アーテル邸の屋敷の主であり、ミリアーナ・アーテルの父、ヴェスター・アーテルを訪ねた。


アポイントなしの自室の来訪者にヴェスターは驚きはしつつも、他国の王族を立たせたままにできずに自室に招き入れる。

部屋の中にあるシンプルでシックな皮張りの黒いソファーに座らせると、呼び鈴を鳴らして使用人に飲み物を持って来るように命じる。


その間にと本題へとクリフォードは入った。


「俺の留学も後半年へと差し掛かりました。俺が公式に王国にいられるのも、ここに滞在できるのも後半年。その間に俺がすべきことをしなければと。こうして公爵殿にお時間を割いていただいた次第です」

「話が見えてこないな」

と淡々に公爵が答える。

本題の核心に触れていないのだから当然ではある。クリフォードはヴェスターの様子を伺いながら、入れてくれたアールグレイに口をつけた。

そして意を決したように話す。


「元々この留学にはノエル王国の文化を学ぶとともに、目的がありました。それは……」

「ああ、知っているよ。シレーヌ帝国の事情を知っていれば想像に難くない。同盟国であるノエル・シレーヌを含む十か国。その中でもシレーヌは歴史が浅く、国際会議間などは発言権は弱く、議題や意見が後回しにされがち。武力以外で劣るシレーヌは、財力にせよ自給力にせよ、より同盟国の中でも強化が必要な国だ。外部の強い力を持つ有力の令嬢、あるいは姫と婚姻してシレーヌをより発展させていきたいというのが目的だろう。ノエル王国に来たのはノエルの中でも有力な令嬢、ミリアーナに目を付けたから……かな?」

クリフォードは迷いなくうなずいた。

しかし、打算的な考えをミリアーナの父親であるヴェスターに吐露したことで、居心地の悪さと罪悪感から歯切れが悪くなる。

「そう……です。アーテル家はノエル王国の貴族社会の中で王族を除けばトップクラスの家柄。そして公爵は宰相という地位についていらっしゃいます。はっきりいってしまえば、他国の王族と婚姻できる家柄としては申し分なく、婚約者としても扱いやすい。だから、目を付けました。例え自国の王子と婚約していても、外交的な意味ではシレーヌの方に嫁がせた方がノエル王国にも利がありますから」

「で?君は国力強化のためにミリアーナにシレーヌに嫁いでほしいという気かい?アシュリー殿下という婚約者もいるのに。婚約者奪取はそれこそ国際問題に発展しかねないよ?」

最初はミリアーナをうまく丸め込んで自分の虜にしてやろうと思った。

ミリアーナを道具のようにすら思っていた節もクリフォードにはあった。

しかし今は違う。


ミリアーナと同じ飯を食べて、同じ家で暮らして、同じ学校に通って、行事を体験して、日常を過ごした。

その中でクリフォードには確かな情が芽生えた。

最初は好奇心。次に友情に近い親しみの感情。そして......。

胸をじりじりと焼くような、もどかしくて、衝動的で、愛おしいと思うような……そんな感情。

彼女の濡れ羽色のさらりと流れる髪が視界に揺れる度、ルビーのような輝かしい瞳が記憶に焼き付く度。

彼女と新しい日常を過ごしていく度にコップに水を注ぎ、満たされるかのような感覚。


彼には今までにない体験だった。

これが人を好きになる気持ちなのだと、ミリアーナと日々を過ごす度に噛み締めた。

だから......。

「ミリアーナに無理強いはしません。嫌がるのならこの思いを胸にしまう所存です。だから、俺に彼女をくれるチャンスを頂けないでしょうか。彼女と思いが通じることがあれば、その時はアシュリーとの婚約を蹴って、俺との結婚を許してください」


クリフォードは婚姻を申し込むような折り目正しい態度で頭を下げる。

そこまではいっていないのに、まるで結婚を許可しいて欲しいと言っているような真剣さを感じ、つい驚いてせき込んでしまった。


「……失礼。まさかクリフォード殿が娘のことをそこまで思ってくれるとは思ってなかった。けど王族と婚姻解消はそう簡単にできるものではない。私も彼のミリアーナに対するあの態度と学園のことを考慮して解消したいのだが、なかなかうまくいかなくてね」

「知っていたのですか?」


顔をあげたクリフォードが今度は驚く番だった。

ミリアーナが隠してきた学園での嫌がらせの数々、マリアとの一件。彼女が両親に言わずに隠してきたことを彼は知っていた。

そしてそのことをずっと黙っていて、干渉しなかったことに。話題にすら触れなかったことに。


「自分の娘のことだ。親である私たちが知っていて当然だ。それに公の場でもミリアーナに対する冷たい態度はいくら鈍い人間でもなにかあったと勘づく。学園のことも思った以上に知っているよ。けど、学園の中のことを貴族社会に持ち込むわけにもいかないし、思春期はとくに複雑だと感じて、僕たちは彼女のことを見守ることを

選んだ」

ヴェスターはホットワインを煽り、喉元から笑いを漏らした。

なにもできない自分がもどかしくて、娘になにかしてやりたくてたまらない、親の顔をしていた。

「変に干渉すれば傷つくのはミリアーナだ。本当に嫌なら僕たちに相談する選択肢もあったのに彼女は我慢することを選んだ。で、あれば時が来るまでは彼女の意思は尊重しなくてはいけないだろ?これでも僕も相当腸が煮えくり返っているんだ。……だから今、状況を打破してくれそうな人間から、しかもミリアーナに対する本気の気持ちを聞けてほっとしている」

「公爵……いや、お義父上」

「あ、それは本当にやめて。ミリアーナはまだ嫁に行くのは早いし、結婚もしていない男に

そういわれるのはしんどい」

「も、申し訳ない。勢い余って......」


感情のこもらない視線をクリフォードに送るヴェスターと、本気で嫌がっているのが伝わって自分の言葉を訂正するクリフォード。

まるでの娘を嫁にやらんという父親とそれに食い下がる婿のような図だった。


ヴェスターは空になったホットワインのグラスをほこりひとつないガラスのテーブルの上に静かにおいた。


「考えるとあの子は本当に変わった。中等部に上がる頃から高等部になるまで、まるで道具のように無機質で感情のない瞳をしていた。だが、自分の趣味に正直になってからまるで子供のように爛漫になって、明るくなった。料理があの子を笑顔にして、あの子の料理が私たちを幸せにしてくれた。どこか溝のあった僕たちの繋がりをほぐし、より強固なものにしてくれたんだ」

「ミリアーナが趣味に打ち込む姿は見ていて楽しいです。町娘のように自由で、令嬢のように優美だと思います。もし帝妃になった暁にも趣味に打ち込む楽しさを忘れないでいて欲しいです」

「……まだ嫁にやるとはいってないんだけど?ちょっと遠慮なくなってないかな君」

「気のせいです。ですが、ミリアーナを思う気持ちはヴェスター殿には負けません」


ヴェスターのジト目にクリフォードは知らぬと視線を逸らす。

ミリアーナのことになると必死になるなと思った両者はついクスリと口から笑いがこぼれた。


そしてヴェスターは椅子にもたれながら言った。


「……まぁ、君の提案は考えておく。もとよりミリアーナの意思を僕は尊重する気でいたしね。あの馬鹿王子と婚約を破棄したいというのなら、僕はハンカチを振り回しながらよろこんで許可するよ。ただ、彼らとの関係についてはミリアーナから言わない限りは行き過ぎたものがない限りは干渉はしない。……冷たいと思うかい?」

「変に介入されるよりかはいいと思います。ですが、ミリアーナはなんでも一人で抱え込んでしまう性質。干渉しすぎないのはかえって彼女のためにならないかと」

「……そう、だろうな。けど僕はこれしか接し方がわからないんだ。この婚約の件、学園の件に関してはまた対策を講じるよ。今日はもう寝なさい。明日からは学園祭だろう?」


ヴェスターは再び呼び鈴を鳴らして茶器とグラスを片付けるように命じた。

「わかりました。けど、思いの丈は伝えさせていただいたので、これからは俺も自分の気持ちに素直になります。それだけ心に留めてください。……あと、知っているかと思いますが、うちはクレープ屋なるもを出店します。1日300食、3日間限定なので時間があれば立ち寄るとミリアーナも喜ぶと......」

「いや!それは聞いていないぞ!なにか出店を出すとまでは聞いていたが……!ああ、最終日に顔を出そうとしていたが、初日からクレープを食べなければ......んん”。娘の様子を見なければいけないじゃないか!」


学園祭の出店情報につい食い気味になってしまうヴェスター。

今度はクリフォードが飽きれた表情を浮かべる番だった。

時刻は23時50分。

クリフォードは今度こそ「では、おやすみなさい」と挨拶をすると部屋を去って行った。

その表情はどこか晴れやかな表情だった。

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