仕入先を探そう
学園祭の準備が着々と行われる中、私たちのクラスは平民街でも最近流行りだしているクレープを作るという話に落ち着いた。
クレープは小麦粉で作った薄く延ばし、焼いた生地に生クリームを初めとしたさまざまな具材をのせた料理。
前世では比較的ポピュラーでジャンクなフードにカテゴライズされていたが、こちらのクレープはバターに砂糖といったいたってシンプルな屋台料理だった。
なので、前世で流行っていたクレープのようにさまざまな具材を乗っけて販売することにした。
クレープは素人でも作りやすいし、火を通していれば素人でも衛生的に扱いやすい。
ホットプレートなどの調理器具を用意すれば簡単に作ることができるだろう。
問題は食材の仕入れ、そして調理器具の調達方法だろう。
魔法調理器具は夜会で使ったものや、幸いにも家に何個かあるので、それを借りればいい。
問題は食材の仕入れだった。
学園祭では食材の管理から調達、片付けまで自分で行わなければいけなく、それも予算内に押さえなければいけなかった。
私たちクラスの手元にある金額は100銀貨相当。日本円でいうところの10万円相当のお金だ。
屋台に使う装飾品やクレープを包む包装紙、そして食材の調達はこの100銀貨内でやりくりしなければいけない。
学園祭で利益はそれほどないだろうが、利益を出すための露店を運営するには3日間で心配が残る金額だった。
例年通りに行けば、学園祭は生徒の家族、来賓を合わせると3日の間で3万人以上の人間が集まる。
1日300食売り上げるとしても3日で900食売る計算になるだろう。
100銀貨で仕入れても一般的なクレープを作るにもせいぜい400食分が限界だった。
どうせ作るのならばサラダ系のクレープやスイーツ系のクレープとかバリエーション豊富に作りたいものだが、現実問題で無理が生じる。
学園祭2週間前と迫った教室では私、ヨシュア様、勝手についてきたレタ、暇だからと会議を終わるのを待っているクリフォード様が放課後に残った。
「包装紙などは令嬢方の家から寄付してもらえることになりましたが、問題はやはり食材ですね。小麦粉を薄く伸ばした生地とはいえ、問題の中身でも予算が嵩んでしまいます......」
「油となるバターが高級品ですからね。それを販売するとなると......植物油でもいいのですが、やはり風味には負けてしまいますし……」
【近くの森から魚を取ってそれを具にすれば解決ではないか?金もかからんしうまいし、簡単だし良いことづくめだ】
「魚を入れるとなると臭みをとらなきゃいけないし、具にする時点で手間がかかるから量産する分には効率が悪いのよ。それに900食分の魚って軽くひとつの川の生態系乱れるし」
答えは決まらず話し合いは平行線。
ああ、なにかいいアイデアはないかな。
というかクレープが現実的ではなかったのだろうか。
他にも自分の中では焼きそば、たこやき、ホットドック、色々なアイデアはあったがこの世界では比較的マイナーな食材か市販されていないものも多いので、一から自分で作らなきゃいけないことが分かった。
手間もかかるから今回は露店の候補から外したというのに......。
「やはり原価を安くするしかないのではないか?シレーヌなら宰相の親戚に食品関係を扱うものがいるから融通させるぞ?」
「クリフォード様、それって私たちからすれば赤の他人どころじゃありませんよ。さすがに外部の人間の力を借りるのは……」
「ヨシュアは頭が硬い。こういう時にコネを使わずしてどうするんだ。それに生半可な予算で作ったクレープが舌の肥えた貴族相手に売れると思うか?」
「それは……」
クリフォードさまはやれやれと肩をすくませて椅子に腰を掛け直す。
実行委員じゃないのに話し合いに真剣に取り組んでくれる彼に対して感謝しかないが、話し合いは未だに進まない。
「それにクラスの者にクレープを作らせるならそろそろメニューも決めて練習をさせなければいかん。メニューの試食も必要だ。ズルでもしないと俺たちのクラスだけ出し物がない状態になるのでは?」
「……はぁ、そうですよね。いっそのこと販売数をもっと減らすしかないのかしら。900食でも例年の来場者数と食品系の露店の販売傾向からかなり減らしたつもりなんだけど......」
「最終手段はそれしかなさそうですね。王国内に予算内で仕入れる業者がない以上どうすることも……」
【おまえたちにそういう食材を扱うのに長けた人間はいないのか?ミリアーナの家にいるドリーのように業者と懇意にしているものに相談すればよいのでは?】
解決策がなく言葉い詰まりかけた頃、レタが大きなあくびをしながらそう言った。
そういえば、私たち貴族の家にはお抱えのシェフがいた。
シェフと言えば貴族の家の食材管理も行っており、大人数の食材の仕入れも行っているエキスパートではないか。
自分たちの力でということばかりが頭に入っていて盲点だった。
クリフォード様もヨシュア様も顔を見合わせて、私たちはそろいもそろって歓喜のあまりに席から立ちあがった。
「「「...…それだーーーーーーーー!!!!」」」
私たちはさっそく荷物をまとめて帰宅の準備をする。
目指すはアーテル家の厨房。今頃ディナーの準備をしているであろうドリーの助言を求めて私たちは帰路に着く。
★
「……というわけなんだけど、銀貨70枚~80枚このレシピ300食分ずつの食材の仕入れ先でないかしら?」
家に帰るとさっそく厨房によってディナーの用意をしていたドリーに件を伝える。
ドリーは顎を触りながら考え唸ると力なく首を横に振った。
「...…ほかならぬお嬢様の頼み、このドリー叶えて差し上げたいのはやまやまなんですが、どれも原価が高い食材ばかりでちょいと難しいですねぇ......。特に乳製品は最近値上がりする一方ですし、レタスなどの葉野菜も今年は不作で高いんですよぉ。うちで育てている野菜を提供できてもせいぜい20食分がせいぜいですし」
「そうよね、難しいわよね……。ごめんなさい仕事中に。相談に乗ってくれてありがとう」
さすがにアーテル家といえどもそんな都合のいい仕入先なんてないか。
目の前の仕入れ問題を解決できないことに重たいため息を吐きたくなる。
でもそんな態度を取ってしまうとドリーに心配をかけてしまうので、なんとかこらえて笑って見せる。
「いえいえ。アーテル家御用達の業者なら幾分か安く仕入れることができる食材もあるので、その際はぜひお声がけください。あ、早めにしていただけると融通が利きやすいのでそこだけ留意してくださいね」
「ありがとう、考慮するわ」
厨房を出て広間の方に出ると一緒について来てくれたヨシュア様が入れたての紅茶をすすりながら待っててくれていた。
私の顔をみるやソーサーにカップを置いた。
「やはり難しそうでしたか?」
「そうね。やはり乳製品が......。どうしても予算ギリギリは超えてしまうようね。ちょっとくらいなら負担してもいいけど学園祭で使うものは学園で支給された予算内で扱うのがルールだし……」
ヨシュア様の期待にこたえられずに申し訳なさを覚える。
ごめんなさい。力に慣れなくて。そういうとヨシュア様は「ミリアーナ様のせいではありませんよ」と励ましてくれる。
……ヨシュア様、どうしてそこまで優しく接してくれるの?
ヨシュア様の柔らかい笑みに癒しを感じていると広間の花瓶の水を替えにきたメリーと目が合った。
「どうしたんですか、ミリアーナ様」
「メリー、それが......」
話し込んでいるのに興味を持ったメリーが話かけてくる。
手短に説明をすると小難しそうに声を伸ばした。
「あ~、それは厳しいですよねぇ...…。それにドリーは貴族専門のシェフなので扱う食材はどうしても高級志向になっちゃいますし。……あ、あ~~~~~~ッ!」
「なにかいい案が?」
妙案ひらめいたと言いたげに手を叩く。
「はい!とってもいい案があります!ちょっと時間もらってもいいですか?明日までに聞いてきますので」
「なにを?」
「食材の仕入れと言えば野人の酒場ですよぉ!平民街でお店を経営している分、節約という観点でもおじさんとおばさん、やりくりうまいですし、なにかいい情報を持っているかも!」
野人の酒場……!そういえば1ヶ月くらい行ってなかったから忘れてた……!平民街で店を構えていて飲食店を経営している彼らからすれば食材の仕入れは業務のひとつ。限られた資金の中からやりくりをし、平民向けの業者と懇意にしている彼らなら、もしかしたら......。
「たしかにシレーヌの知り合いに頼むよりも効率もいいし、平民街の勝手も知っている。近いから意思疎通も取れるな」
ヨシュア様と真向かいの席に座ってくつろいでいたクリフォード様が相槌を打つ。
「ミリアーナ様がよければこの話をおじさんたちにもっていってもいいですか?」
「本当!ちょっとお願いしてもいいかしら?無理にとは言わないから……」
「もちろん、午後休だけ申請して明日なるはやでいってきます。急ぎなら学園まで直接お伝えしに行った方がいいですか?」
「お願いできる?」
「俺からもお願いします」
私たちのお願いにメリーは嫌な顔をひとつすることなく元気よくうなずいた。
花瓶の水を変えながら......。
「もちろんです!その前にヨシュア様、ごはん食べていかれますよね?使用人たちにその旨を伝えてこないと」
「ああ、御手間を取らせて申し訳ありません。お願いできますか?」
「はい!じゃあ、ミリアーナ様。明日の吉報お待ちくださいね!」
メリーの妙案のおかげで仕入れのことはなんとかなりそうだ。
私はほっと胸をなでおろしながらヨシュア様の隣を失礼して座る。
「……おい、何故俺の隣に座らない?」
「え?いや、だってクリフォード様、一人で座ってらっしゃるから」
え、急にどうしたの?クリフォード様はむすっと何故か頬を膨らましながら低めの声で私に問う。
一国の王子と侯爵の孫息子、どちらかの席しか空いていないなら普通に考えて身分の低いものの隣に座るだろうし、別に深い意味はなかったのだが。
それにクリフォード様、一人で長椅子の真ん中に座っているからわざわざ「座りたいからどいて」なんて言えないし。
「どけと一言言えばいいだろう。ここはお前の家なんだぞ」
「……わざわざ王子様をどかしてまで座っている席を取り上げるなんて行為、そんな失礼な真似私にはできないのですが……」
「いや、そうじゃなくてだな......!ヨシュアの隣に座るくらいなら俺の隣に座って欲しかった……じゃない、座ればいいだろう!」
どこかきょどってるような態度に違和感を覚える。
どうしてそこまで慌てているのか私にはよくわからない。
なにか私、失礼なことをしたのかな?
ヨシュア様は困った表情を浮かべながら肩をすくめた。
「クリフォード様、今回は諦めた方がよろしいでしょう。これ以上は話がこじれるかと」
「あ......いや、そうじゃなくて……ああ。もういい。茶が空になった。新しい茶をもって来させてくれ」
「……?はい。でもそろそろご飯なのでほどほどの方がよろしいでしょう」
「もうそんな時間か。時間が立つのは早いな。じゃあ、最後の一杯にしておこう」
私は使用人にお茶のおかわりを頼む。その30分後には広間にいって晩御飯をヨシュア様を含む5人で食卓を囲んだ。




