学園祭の話し合い
フィオーレ学園では年に1回、秋の季節に3日に渡って生徒たちが露店または催し物を計画する、いわゆる学園祭なる企画があった。
この期間は友好国の来賓も招き、学園の生徒たちの成長を見てもらう機会であった。
つまるところ、学園にとっては一大イベントにひとつ。
そして授業のないお祭り期間でもあるので、生徒たちも浮足立っていた。
いつの時代も祭りというイベントは心躍るものだ。
……と思うのは学園祭の実行委員以外の言い分だ。
実行委員は運営から管理まで教師の監督の元で準備から安全管理まで自分で行わなければいけない。
つまり学園祭準備期間中、本番まで気の抜けない役回りだった。
さらに言えば学園祭においてのクラスのまとめ役ともなるため、準備からクラスの催しものに携わらなければいけなく、授業以外の全ての学園生活において学園祭のことを考えなければいけなかった。
今回、ミリアーナは教師の推薦の元でその実行委員に選ばれてしまった。
成功すれば内申点にも関わるので一概に断ることができなく、ただうなずくしかなかった。
しかし懸念点がいくつか彼女には残っていた。
彼女はいわゆるクラスの嫌われ者。
経緯、実際は自分の本意でない噂が流れているとはいえ彼女の言うことを大人しく聞く生徒がいるのかは疑問だった。
そこで彼女のサポート役としてヨシュアが名乗り出た。
実行委員をするのはデメリットばかりでもないし、他のなによりもミリアーナの力に慣れると意気込む彼は彼女と共に学園祭の準備を進めるべく、力を合わせて困難を乗り越えようとするのだった。
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「では、学園祭の催しものを決めたいと思います。例年通りに行けば劇、露店、発表会。さまざまなジャンルがありますが、やりたいものはありますか?」
黒板の前で石筆で「学園祭の催し物」と書く。
ざわっとクラスの生徒たちが「なにをする?」「劇とかありきたりじゃないかしら?」と話を咲かせているなかで、一人の少女......このクラスの姫的存在であるマリアが手を上げた。
「はい!私、食べ物の露店を開けばいいと思います。皆で力を合わせられますし、他のクラスは劇や発表会が主なので目新しいかと」
「露店……ですか?例えばどういった露店を開くの?」
学園祭限定の出店を出店するというアイデアはいいとは思うが内容による。例年通りに行けば食べ物系やクラフト系が多いだろうが、それは知識があるものが中心となったから成功するわけで。
料理もしない貴族が店を出したところで調理して食べ物を提供しなければ意味がない。クラフト系といっても手先の器用な女子ができるが針仕事をしない男性陣は馴染みがなさすぎる。
具体的にどういう案を提示するのか私には見当がつかなかった。
その斜め上の回答が来るまでは。
「これから考えればいいと思います!お店といってもやりたいもの沢山あるし……パン屋さんとか、ケーキ屋さんとか……」
「そうだな、準備といってもこれからだ。準備をしながら内容を考えていく……マリアらしいな」
元気よく自信満々に答えるマリア。そして横槍を入れて大きくうなずくアシュリー。
いや......内容を決めないと準備のしようがないし、自分たちができもしないものの準備を進めたところでできなかったら意味がないだろう。
と素直に言ったところで受け入れてくれるかどうか。言い方に迷っているとヨシュア様はメモ用のノートから顔を上げてマリアの方に視線を向ける。
そしてヨシュア様は言った。
「露店を開きたいという意見はわかりましたが、実際にどういった露店を開きたいのか提案してくれないと準備をするこちらが困ってしまいます。また、先ほどパン屋、ケーキ屋と提案されましたが、それらを作る知識、技術はマリアさんはお持ちなのでしょうか」
「例えばの話なんですけどぉ……。もしそれらのお店をするなら専任のシェフに頼めばいいんじゃないかな~と。そうしたら美味しいものを提供できますし、準備も容易かと」
「学園祭ではあくまで自分の力で計画し実行できる範囲までとされています。仕入先の業者と関わるだけならともかく、外部の人間の力を視野に入れるなど無責任では......?これをやりたいという意見ならまだしも、他力本願な意見はそもそも学園祭の度が超えています。こういった内容のない意見が実行委員側としては一番困りますので……。もう少し考えてから発言していただけますか?」
しぃんと教室が静まり返る。
私が言いたいことをすべて代弁してくれたその言葉。しかし、いつものヨシュア様と比べると敵を作りかねない冷たい声音だった。
現に怒りの沸点が低いアシュリーが勢いよく立ちあがってマリアを守るように声を張った。
「おまえ、マリアに向かってその言い方……ッ!」
「素直に聞き入れられない様子だったので事実とこちらの意見をはっきり伝えたまでです。それにこれ以上話をこじらすのも時間の無駄かと」
すぱんと切り返す。アシュリーがうぐッとうなる。
私は心配でどうすればいいのかわからず、ヨシュア様にこれ以上は……と言いたげな視線を送るがヨシュア様は静かにうなずくだけじゃなかった。
それ、なんの肯定?
空気が悪くなる中で、同じクラスのレティシア嬢が手を上げた。
「あ......あのぅ......」
「レティシアさん、どうぞ」
私はこの空気を換えて欲しい一心で彼女に発言権を与える。
では、とレティシアさんが立ち上がると私の目をみて言う。
「以前、アーテル家の主催の夜会で叔父がお邪魔したのですが、その時にミリアーナ様がその……お好み焼きなるものを振舞われたのだとか。その場で調理して食べられる立食パーティーがとても新しかったのだと。……ですので、その夜会をリスペクトした簡単に食べれて、私たち貴族が作れそうなものを提供してみる......というのはどうでしょうか?」
「俺もお爺様からその話聞きました。……案外いいアイデアかもしれませんね。貴族が料理をしてはいけないという決まりもないし、平民街では露店で食べ物を売るのは当たり前だし……レティシアさんのアイデアも考慮しましょう」
「ありがとうございます」
露店で食べ物を扱うということ。自分たちの力でとなると前の世界と同じような学園祭風景が脳裏によぎる。
たこやきとか焼きそばとか。ジャンクなものほどああいう場の空気に会うんだよね。
……じゃなくて。あの時の夜会、レティシアさんの叔父が来てるだなんて初めて知ったんだけど。
さすがにあの一見の話が広まるのは想定のうちには入っていたが、同級生の耳にまで入るとは......ちょっと恥ずかしい。
ひとまずは自分たちでできる範囲で露店、あるいは屋台を開くことで話が固まり、今日の話し合いは決定した。
これからは何を作るか。材料はどこで調達するのか。予算などの細かい話になってくるだろう。
その際は今日みたいな小さい諍いが起きなければいいなぁ……。




