食材を買いに街へ行こう!②
平民街の中でも食品を扱うお店や飲食店が集中する市場に到着した。
人々の活気ある声が路に響き、主婦や商人たちが軒先に並ぶ食材たちを興味深そうに見ている。
いつも家にいるからなかなか来れなかったけど、こうやって市場まで来て自分で食材を選んで買うという行為に楽しさを求めている自分がいる。
食材を選びながら何を作ろうか迷う時間は市場に来ないと体験ができないからわくわくするなぁ。
とお店の野菜に目移りをしていると、野菜を見ていたお店の隣から甘い匂いが漂う。
......この芋っぽくて甘い匂い......、なんだろう。
想像はつくけど本物を見るまでは答えは出さない。
甘い匂いがするお店に目を向けると案の定カボチャを鍋で煮込んでいた。
夏にカボチャ!?カボチャの収穫時期はもうちょっと先じゃないのかと思ってつい鍋を掻きまわしていたおばあさんに聞いた。
「おばあさん、その鍋の中身カボチャよね?夏のカボチャって甘味がなくてなかなか調理が難しいって聞くのだけど......」
「ああ、これは品種改良された夏カボチャっていう種類だよ。春に実をつけて夏に向けて甘くなっていくんだ。冬のカボチャよりさっぱりとした甘味は濃厚さを重視すると物足りないがこうしてちょこっと花蜜を加えてペーストにするとおやつにもなるし、ごはんの主食にもなるんだよ」
おばあさんはカボチャがついたしゃもじを指で掬い私の口元に差し出す。
行動に甘えて口を開けるとカボチャのふんわりとした甘みと花蜜......?のほんのりとしたフローラルな香りが不思議な感じで美味しかった。
「ん、これは美味しいな。甘すぎず、ほどよい甘み。芋っぽいが、嫌な芋っぽさじゃなくて俺は好きだな」
試食をしたクリフォード様もアンもメリーも絶賛した。
このカボチャ、スープで使えないかな?
お店にならぶ黄緑色の鮮やかな見慣れないカボチャを買おうか迷う。
......いや、今の私はお金持ちの一家だ。1個1銅貨にも満たないカボチャを購入するのに何をためらうのだろう。
欲しければ......。
「おばあさん、このカボチャ3つちょうだい!」
「はいよ、毎度あり!うちは配達サービスと提携していてこのままお嬢さんの家にまで送ることができるけどどうする?」
「お願いします!木札とペンをもらえますか、住所を書くのでそこに送って下さい」
「はいよ」
おばあさんは足元にある木箱から石筆と札を取り出して私に渡す。
受け取った私は住所を書こうとしたが、アンに取り上げられてしまいアンが書いてそれをおばあさんに渡した。
「お嬢様、私たちはお嬢様の従者なのですからそういったものは私たちが書きますから!お嬢様はただ食材を選びを楽しんでください」
「あ、......はい」
一人で手配をしようとしただけなのに、自分たちの仕事を奪わないでくれと怒られてしまった。
たしかにアン、メリーの仕事を取ってしまうのは彼女たちに悪いと思ってしまったので言葉を返すこともできなくて、素直に頷く。
貴族って難しい。
★
「ミリアーナ様、そろそろ休みませんか?市場を歩いてそろそろ2時間は経ちますし......」
「もうそんなに時間が経つの?全然気が付かなかったわ」
太陽の位置が真上から少し西に傾けかけた頃、調味料を見ていた私にアンが声をかける。
腕に着けている時計を見ると時間が経っていたので、そろそろ休憩を取るべきだとアンに提案される。
メリーは私の鞄を持ってにっこりと笑う。
「ミリアーナ様、料理のこととなるととても楽しそうで、食材を選ぶときもドリーさんが食材を仕入れる時と同じような目をしてて......私もなんだか嬉しくなります!」
「そ......そう?でも、食材を選ぶ時は楽しかったわね、いつもは屋敷の中で自分の足で食材を見て歩くことはなかったし」
ミリアーナ時代では何度か平民街に来たことはあるが、その時は生前の記憶がなかったのでいくとしても雑貨屋や広場で旅芸人の催し物を見るかくらいだ。
それに夜食会なんてなかったし、ずっとミリアーナだけだった頃の私に仕えてくれたアンやメリーにとっては新鮮なのだろう。
私もミリアーナ時代のことはうっすらと覚えているがあの時は特段趣味もなにもなかったし、今の方がおいしいものを作りたいという目的があるから日々が楽しい。
そういえば料理のおかげでお父様やお母様とももっと交流を深めるようになったし、クリフォード様ともヨシュア様とも仲良くなれた。
生前時代の趣味がラーゼン侯爵との友好のきっかけになった。
パーティーで危機も救ってくれた。
私、何気に自分の料理で助けられているんだな。
やっぱ美味しいものって正義。
「ノエルの胡椒などのスパイスや香草はシレーヌにないものが多かったし興味深かった。喫茶店もスパイスが料理で使われている店がいいな」
「いいですわね。この辺にいいお店はないかしら?」
調味料が売られている屋台から目を離し、思案顔で提案するクリフォード様。
スパイス......だったらカレーとか食べたいな。あるのか......と考えながら私も深く同意をしてうなずいた。
アンとメリーは私たちの要望に顔を合わせにんまりと笑って自信あり気に声を揃えていった。
「「だったらおすすめのお店があるんです!夜は酒場なんですけど、昼間は喫茶店として営業しているお店なんですけど......」」
なにそれ、絶対料理がおいしい予感がする営業形態のお店じゃん......!と生前の勘を働かせながら食い気味に「そこに行きましょう」と言ってみる。
アン、メリーの案内の元、市場の一本の路地裏に入ってそのおすすめのお店とやらに向かう。
表の通りほど人は少ないがちょっと薄暗くてじめっとしているので、ちょっと怖いな......。
と思っていると私の歩幅に合わせて歩いてくれていたクリフォード様は不安な様子に気づいたのか、そっと私の手に......。
「うひゃあっ」
指を絡ませてくるので、びっくりして裏返った変な声を上げてしまう。
暗い路地に気を取られていたので余計に神経が過敏になっているのか、クリフォード様が触れた指の間がねこじゃらしに撫でられたかのようにくすぐったい。
「変な声を挙げるな。ちょっと怖がっていたようだから手を握ろうとしただけだ。やましいことは…...少しはあるが、おまえを心配してのことなので、誤解しないように」
「いや、今やましいことがあるって......」
「ある。男だからな」
私に気を使ってのことなら嬉しいのだが、言動の中のいらない単語で折角の気遣いが台無しじゃないか。
やましいことと言われると、まぁ、女性的にはイケメンにそう思われるのは嬉しいのだが、未婚の女性としては多少なりとも危機感を抱かないといけないわけで。
「......気遣いは嬉しいのですが、離れてください。身の危険を感じます」
揶揄い半分で言うと、それを本気で受け取ったのか慌てるクリフォード様。
「おい、おまえを守ろうとしただけだ。変な勘違いはするなと言ってるだろう」
何故、触れた側のクリフォード様が頬を赤くしているのかはよくわからない。予想としては照れているのだろうか。
ちょっと言葉的に焦りも見えるが、でも反応的には本当に心配をしてのことだったのだろうと自分で納得をしてクリフォード様の手を握った。
「............!」
好意を持って握ってくれたのだから、否定してばかりだとその好意を無駄にしてしまうし、優しさ自体は嬉しかったので甘えることにする。
「「ふふッ......」」
なんかほほえましいものを見る母親のような軽い笑い声が前方から二人分聞こえる。
前を見ると先を歩いているアン、メリーに二人がほほ笑んでいた。




