神獣遭遇??
……ぐきゅるるるるるるる
胃の縮小する音で目が覚める。濃紺の星空で彩られた外は白み始めあたりは明るくなっていた。
お腹が空いた。昨日はなにも食べてないからよけい固形物を食べたいと食欲が湧く。
一体どれくらいの時間がたったんだろうかと寝ぼけた頭で考えて、足の痛みでようやく半日立ったのだと気づいた。
身動きが取れないとなにもすることがなくて2日くらい寝込んでいたんじゃないかという錯覚にもなってしまう。
平和すぎた人生を送ってきたのでそれもそうかと自己完結した。
魚釣って適当に食事もとりたいけど、疲れててその気力も起きない。
昨日より足の痛みも増した気がして満足に立てる気がしなかった。
気力の問題と言われればそれまでだが、折れてるかもしれないしとても痛いので歩いて変に悪化したらそれはそれで最悪な結果だろう。
緊急用の札は不調なのか起動しなかったし、私、これからどうすればいいんだろう…...。
はぁ…...。今頃、クリフォード様たちなにをしているのかな。
――ガサガサ、ガサガサガサ
呑気にそんなことを考えていると、私がいる洞窟(というか洞穴っぽい)から対岸の茂みが大きく動いた。
な、なに?熊かなにか?
木々の揺れ肩が大きい。身動きが満足に取れない身体が、迫り来ようとする恐怖に身震いする。
やだ、怖い...…、誰か助けて!
そして木々が揺れてから数秒後、その姿を現した。
【なんだ、面白い気配がすると思って辿ってみれば。こんなところに人間なんて珍しいな】
目の前に現れたのはホッキョクグマのような白い毛並みを持つ熊だった。
熊は人間の言葉を話す......もとい脳内に直接話かけてくるように、声が反響して聞こえる。
熊の口元は言葉に合わせて口が開いたり閉じたりを繰り返し、私たちを隔てる川を難なく泳いで、こちらまで渡ってきた。
その瞳は野生のそれではなく、きちんと物事を判断し、処理ができるような理性の宿った賢そうなものだった。
それだけで、安堵で胸を撫でおろすには十分な要素だった。
会話ができるということは話し合いが通じる相手であるということ、ひとまずの危機は回避できたのだと思うと気持ちも徐々に冷静になっていく。
しかし、逆にこの得体のしれない熊な何者なのか気になって仕方がなかった。
「あの......あなたは?」
【俺はこの森を根城にしている神獣のレタだ。生まれたときからこの森に住んでいて、ここ周辺は俺の領域でもある。ここは人除けの結界が張ってあるので一般の魔法使いでもここには入ってこれないのだが、珍しい気配がしたので出向いたのだ】
「私はミリアーナと申します。神獣ってなんですか......?喋る動物って生まれて初めて目にするものですから…...」
【神獣とは、強い魔力を生まれ持った動物が何百年と生きることで至る生き物だ。神の使いとも呼ばれているらしいが、原理とかは知らん。強くて喋れる不思議な生き物と思っておけ。......で、次はおまえが質問に答える番だ】
すぅっと細められた目は得体の知れない人間に対しての警戒からなのだろうか、声音も固くなるのを感じた。
熊といえば、肉食の猛獣というイメージが強いので、いくら理性のある動物といえども、敵意を少しでも見せる様子に少しだけ恐怖を感じる。
けれど、聞いてくれる余地はあるので、私は嘘をつかず、ここに学園行事でここに来たことと崖に落ちた経緯を簡単に説明した。
理解力の早いレタは大きな体躯を降ろし、飽きれたように前足で耳裏をかいた。
【はぁ…...人間とはかくも面倒臭いものなのだな。というかこの崖から落ちて生きているなど奇跡だろ】
「私もそう思います」
【まぁ、この時期はフィオーレ学園の生徒が毎回くるし、おまえのそれも王国のドレスだし。信じるには値するだろう。それにその怪我じゃ満足に身動きも取れまい。......仕方ない】
「え、......ちょっ」
そういうとレタは私の腫れあがって赤くなった足に鼻先を近づける。それをべろりと肉厚の舌で数度舐めとると腫れはひいていき、打ち身で痛かった足も痛みが引いていった。
「い、痛くない......!?」
【俺は神獣だからな。唾液や体液、血液には生命の活動を活性化させる力が含まれている。治癒能力を上げて傷を治すのは造作もないことだ】
「ありがとうございます......、でもなんで私を助けたのですか?」
いくら神獣で人間に疎いからといっても、損得なしに知らない人間を助けるという行為はどうしても私には信じられなかった。
怪訝な顔色で意図がわかったのだろうか、得意げに鼻息を鳴らすと牙をにぃっとむき出したレタは前足を私に差し出した。
【無論だ。おまえがどこで野垂れ死のうと構わないが、知性のある動物に合うことが珍しいからな。おまえを奴隷にして俺の身の回りの世話をさせようと思っただけだ】
「え、ええ......?そんな展開あります?というか、私なんにもできないのですが」
【奴隷になることに関しては否定しないのか?】
「助けてもらったお礼に見合うのが労働力で、それで払えとなるのなら仕方がないことでは......」
命はひとつしかない。生きることは簡単に捨てられるが、生き返ることはできない。
私にはどんなに過酷でも、なにもなくても、家族のためにまだまだ生きていたい。
それで命を長らえさせるのは安いものだ。
【ふ......ふははは!面白い思考をしているなおまえは。普通の人間なら保身に走って抗議をしているところだぞ?】
「そうですか?あ、でも無茶難題と一生この森で生活をするのだけはちょっと......。家族のもとに帰りたいですし」
【それにわがままでもあるな!いいだろう。たかだか骨折を治したくらいで過酷な労働は強いれん。だが奴隷にするといってもなにをさせたらよいものか......】
――ぎゅるるるるるるるるるるるるる
間抜けな腹の音があたりに響く。
レタが考えていると、先ほどから空腹状態の私の胃が緊張感が取れたせいで大きな音を鳴らした。
【そうだな。まずは飯にするか。魚を調達するから待っていろ。......ああ!そうだ】
とレタは勢いよく立ち上がった。
【人間の食文化は野生のそれより発展していると聞く。俺も100年前だったか、俺の姿をみて逃げ出した旅商人が焼いていた魚を食ったことがあるのだが、あれはなかなかにうまかった。俺はこんな身体だから火がうまく扱えんくてな……。おまえなら魚を焼けるだろ?】
と言われたので、そりゃ……魚を焼くくらいはという意味でゆっくりとうなずいた。
するとレタの表情がぱぁっと明るくなる。
【ほほぅ!ならおまえは薪や木の枝を集めてこい!魚を焼いて食うぞ。いやぁ……まさか焼き魚が食えるなんて思ってみなかったなぁ】
とラフな物言いがデフォルトなのだろうか、レタは揚々と川の中に入っていき、魚が取れそうな場所へ向かっていった。
バックの中で無事な塩などの簡易的な調味料を出した後、私はレタの言う通りに薪や木の枝や、植物図鑑を片手に料理で使える香草を探しに向かった。




