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転生嫌われ令嬢の幸せ漢飯(日常)  作者: 赤羽夕夜
野外合宿編

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33/90

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屋敷に戻って一息つくために紅茶を飲んでいると、クリフォード様は不機嫌そうに足音を鳴らしながら食卓に顔を出す。

今日はもものフルーツティーを自作で作ったので、一緒にどうかと誘うと「いただこう」といって定位置である私の席の向かい側の席についた。


ちなみに、フルーツティーといっても簡単に作っただけだ。まずはティーポットに茶葉とお湯を蒸らして蒸らしておく。

蒸らしたら茶葉を取り出してその中に皮を剥きタネを取り除いたももを入れて10分ほど置いておくだけ。

ぬるくはなるが桃の香りが紅茶に染みておいしくなる。ちなみに余ったももは後でジャムにする。


桃の香りが移るフルーツティーが入ったカップを手にとって口の中に含んだクリフォード様。

ほっと一息をつくとつぶやいた。


「――なんなんだあの無礼者は」

「無礼者とは誰のことでしょうか」

「あのマリアとかいう女に決まっているだろう。もっと腹立たしいのは周りを顧みないアシュリーだ。言葉で解決するのではなく暴力でなど野蛮人がすることだ。戦争ではないのだぞ」

「言葉ではなく暴力でしか自分の感情を表現できないのです。子供の稚戯にいちいち苛立っては紳士としいて余裕がないというものではないでしょうか」

なぜここまで怒ってくれるのかよくわからないが、その怒りが今の私にはうれしかった。同情や共感を強要することはないが、心寂しいと思っていたのでそのやさしさが心地よかった。

だからこそ、そんな負の感情をいつまでも抱いてほしくなくていつの間にかそんな強がりがこぼれた。

「いうではないか。おまえ、あんなのをよく今まで無視していたな」

「......最初は理不尽な行為を受けて反発はしたのですが、口でいっても行動を改めてくれないので何をいっても無駄かなと。くだらない言動や行動を起こす人間って無視が一番でしょう。かまってちゃんのあしらい方と同じです」

「かまってちゃんとは......?」

「常に自分を注目してほしいと思う人や承認欲求が強い人のことです。よく言えば寂しがりや、甘えん坊とかですかね」

「なるほど、その類の人間であれば無視が一番だろう。だがそれに勘違いや被害妄想の要素が加われば人一倍厄介だぞ。あのアシュリーが代表格だ」

たしかに。アシュリー様は人一倍思い込みが激しく、悪く言えばプライドが高い故にヒステリックなところがある。

だからひとつの意味に対して本人が納得いくように深く説明しなければいけない。

私にはそういった思考も配慮も持ち合わせていないので、つい無視という悪手で今日まで彼のことを避けている。


「今のところは家族に被害がないのでいいです。後2、3年すれば学園は卒業しますし。少なくとも学園の悩みの種のひとつであるマリアとは会わずに済むので。解決策が現状思いつかないので放置しているのです」

「......おまえ我慢強いのだな。――偉いな」

「――へ?」

クリフォード様からの突然の誉め言葉につい間抜けな声を漏らしてしまう。

クリフォード様は紅茶の中に沈んでいるももの欠片をスプーンで掬いながら言葉をつづけた。

「俺の知っている女たちなら発狂して文句のひとつを垂れたり、我慢できずに仕返しをするところだ。人の悪意ほど心を傷つけるものはない。だのにおまえは理不尽な悪意を我慢しつづけ耐え忍んでいる。戦場の英雄ですら中々できることではない」

「どうしたのですか、急に私を持ち上げるだなんて......」

「むっ。俺は強い女を褒めているだけだ。悪意に耐え、自分の役目を全うするなど俺でもできないことだ。それがいくら悪手で無駄な行為であろうともな。......よし」

クリフォード様がなにかひらめいたようにティースプーンを置いて立ち上がる。

「決めた。おまえ、俺の婚約者になれ」

なにがよし、なのか。どこから恋愛イベントが発生したのか。ツッコミたいことは山ほどあるがなにから返答すればいいのか困ってしまう。

「どこによしと思える要素があったのですか!というか婚約など!私にはアシュリー様という婚約者が......」

「惚れているのか」

惚れているかの質問についカッとなって衝動的に本音が漏れる。

「誰があんな幼稚園児を好きになるものですか――んん”!......じゃなくて好きかどうかの問題ではありません。王子と婚約することでアーテル家に利益が生まれるのが事実。私の一存で決められるものではないのです」

「それは家族の了承と利益さえ生まれれば俺との婚約を受け入れるという回答で間違いないか?」

まだ知り合って日が浅いのにどうして私と婚約をしたがるのかが謎だ。それにあの学校での光景をみて同情でもしたのか。彼への疑問は深まるばかりだ。

ただ婚約をしたいと口に出してくれた一点においては嬉しい。わたしだって女子だもの。こんなイケメンハイスペック男子に言われてしまえば疑う心と色恋に発生する情が揺れ動いてしまう。

そんな感情を抑えながら質問をした。

「......聞きますが、どうして私と婚約をしたいと思うのですか?」

「料理がうまい、面白い女。そして婚約すれば我が国とノエル王国の交友も深まる。婚約するメリットしかないところ」

なにを言い返せばいいのかわからなくなってきた。彼の言葉は嬉しい。けどアシュリーとの婚約で得られるアーテル家の発言権や後ろ盾のことを考えると私の一存では首を縦に振ることすらできない。

それが今日までアシュリーのおこないに対して我慢してきた大切なものだからだ。

そんな私の心を見透かしたのかクリフォード様は不敵な笑みを浮かべた。

「アシュリーとの婚約より俺との婚約の方が有意義だぞ?俺と最終的に結婚すれば王妃となり帝国での称号も与えられる。さらには友好国とのさらなる交友の架け橋となったアーテル家も自然と政界での発言も増すだろう」

「ですが、アーテル家のために......」

「今はおまえの意見を聞いている。ご両親への承諾の有無はそれからだ。第一おまえの身はアーテル家のものではない。おまえ自身のものだ。アーテル家は家のために自分を犠牲にするように教育するのか」

「違います!私は私の意志でアーテル家のことを思っているのです。私は今まで好きなことをさせてもらっていました。ですから、その恩返しを、苦楽を過ごしたこの家をこれからも存続させていきたいのです」

記憶は15歳でとりもどしたがミリアーナとしての記憶は残っている。だからずっとこの家で暮らしてきた感覚はあり、身体が、記憶が大切なものを覚えている。

そして、お父様やお母様、アーテル家の使用人である者たちはこの世界の令嬢としての異端な趣味や奇怪な趣向や行動を快く許容するどころか認めてくれた大切なひとたち。

そんな人たちが暮らす家を守っていきたいとミリアーナ(私)は思うのだ。

私の婚約が家族を守ることにつながるなら、我慢すれば手に入る幸せなら、我慢できるものは我慢しなければいけない。

守りたいと思う気持ちは私のたしかな気持ちだ。

その気持ちが伝わったのかはわからないが、クリフォード様は肩の力を抜いていった。

「......まぁ、いい。婚約の件はじっくりと考えてくれ。時間は有限ではあるが短くはない時間だ。この留学が終わるまでに答えをだしてくれればそれでいい」

「は、はい。あ、あの......クリフォード様」

「なんだ」

「ありがとうございます。私、どう返したらいいのかわからないのですが......。それでもここまで親身になって話を聞いてくれた同年代の人は初めてです」

家族にもいえない悩みや愚痴を誰かに漏らしたことで、少しだけ胸のもやが消える。自分の言葉を聞いてくれる人の大切さを改めて実感した。

クリフォード様はくすりと意地悪い笑みをこぼした。

「......そうか。その言葉覚えておこう。......しんみりとした話はここまでにしてだな、その言葉に嘘偽りがないなら少しばかし願いを聞いてくれないか」

「なんでしょうか。私にできることであれば......」

「それはだな――」

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