面白い女
――面白い女。
二度目に顔合わせをしたときに感じたある令嬢の印象だった。
端麗でありながら貴族という立場所以の気の強さを持った女。どこにでもありふれた俺が見たことのあるその辺の女(令嬢)というのがついさっきまでの俺の彼女に対する評価だった。
しかし、その実で人目を盗んで使用人たちと食卓を共にしていることや、彼女自身も食事を作る。しかもその料理が美味しい。
普通の貴族の家庭風景とは違うし、趣味も庶民的で素朴。貴族の令嬢が興味を持つものとはずいぶんかけ離れたものだ。
なにより淡々とした反応ではあったがいちいち喜怒哀楽が声色にでたり、ときたま表情に出る姿が胸にぐっとくるものがあった。
それだけで俺が彼女――ミリアーナ・アーテルに興味を持つには十分な出来事だった。
――もう少し彼女のことやこの家で行われている謎の食事会のことを知りたい。
人生で初めてだ。こんなしようもない出来事で他人に興味を持ったのは。
だから。明日から少しだけ、足を踏みとどまるのではなく。自分から進んで他人に興味を持ってみようと思った――。
★
「なぁ、夜食会はやらないのか?」
クリフォード様が滞在して数日経過した。
夜食会のことがバレたこと以外は特になにも進展はなく、夜食会も人数がそろわないのであの夜以降はまだ行われていない。
庭の花に視線を向けていると、クリフォード様がちょうど中庭から現れて夜食会の有無について聞かれた。
「申し訳ございません。夜食会については人数が集まらないため開く目途は経っておりません。なにより1週あるうちの3日までの制限がありますので......。開催するときはおって連絡を差し上げますね」
「俺はお前のあの不思議な料理が食べてみたいんだ。滞在日数も無限ではない。早く夜食会を開いてもっと俺が食べたことのないものを食べさせてくれ」
「そんなこと言われましても取り決めは取り決めですので......」
「......そうだ。いいこと思いついた」
クリフォード様は口をニッとあげ、なにやら企んだといわんばかりの視線を向けた。
「別に夜食会を待たずとも、お前が俺のためになにか作ってくれ。それなら構わんだろう」
「......いえ。だからそれができないんですてっば――んん、......できません」
しまったつい砕けた言葉が出てしまう。目の前にいるのは他国の次期王様なので、急いで口調を正す。
クリフォード様は相変わらず読めない表情を崩さない。いや、なぜかどこか楽しそうな表情な気がしないでもない。
「令嬢としての体裁を気にしているのだろうが、この家の中では家中におまえの趣味はバレているのだろう。それに一度、おまえ皆の前でその腕前を披露したそうじゃないか」
「......その話をどこで聞いたのですか」
「エリザベス嬢だ。彼女は王族だからたまに話す機会があるんだ」
「エリザベス様が......。そうですか。その、なにか他にいってませんでしたか?とくに、私の行いについて、とか」
「とくに何も?話す機会があるといっても積極的に話すかといわれれば違うしな。ただ、おまえのことは絶賛していたぞ。奇抜なアイデアでパーティーを盛り上げた気立てのいい令嬢だってな。......というか、周りの評価などどうでもいい!おまえの質問には答えたのだからだな......」
ただパンに具材を挟んだ料理がそんなに印象に残ったのだろうか、クリフォード様は依然食い気味に私に料理を作らせようとする。
......そんなに食べたいと思ってくれるのは実は悪い気はしないし、作りたいなとも思ってしまう。こんなに食い気味にいってくれるのかが謎ではあるが、私もそろそろ我慢できないし、リクエストに応えても......いいかな?
「わかりました。では今夜部屋でお待ちください。お母様にも一度報告してから厨房を使わせていただきますわ」
「......!そうか、やっとその気になってくれたか!」
「王子様がこんなに求めてくれているのですもの。お答えしないのが無礼というものです」
今までのクールな表情から一変して美形の顔が柔らかく笑む表情へ崩れる。
まるで花が開いたかのような、華やかな表情に一鼓動が高鳴った。




