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転生嫌われ令嬢の幸せ漢飯(日常)  作者: 赤羽夕夜
深夜の秘密食堂(高等部)編

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26/90

未定

クリフォード様が滞在する部屋まで案内し、立ち去ろうとするがクリフォード様は「待ってくれ」と引き留める。

私、早く部屋に戻りたいのに......。

私の心情なんて露知らず。クリフォード様は言葉を続ける。

「俺はまだこの国のことをよく知らなくてな。なにせ政務の時しか来たことがないからだ。よければ夜食を食べている間、傍らで簡単にでもいいからこの国のことを語ってくれないか」

「かしこまりました」

クリフォード様の申し出を無碍にすることはできず、部屋に備え付けてあった椅子に座る。クリフォード様もその向かい側にあった椅子に座り、テーブルを挟んだ状態になる。

「国のことを語るといいますと具体的にはどういったものでしょうか」

王国の歴史なんて親交の深い帝国であれば座学で学んでいるとアシュリー経由で小耳にはさんだような気がする。

「なんでもいい。食事が来るまでの暇つぶしのようなものだからな。......どうしても話題がないなら自分のことでもなんでも構わない」

「......はい。わかりました」

急にこの国のことを語れと言われても話題がでてこない。絞り出すというのならこの国の特産物や食料事情、文化。あとおいしい魚が釣れる釣りスポットしか思いつかない。

こんなときに気の利いた話題のひとつやふたつ持ち合わせているのだろうが、生憎王国は平和な国だし特に目立った話題がここ最近ないのだ。

仕方ないのでここは正直に自分がわかる知識に範囲で話そう。

「王国の歴史や内政......は私の知識不足なためにお答えいたしかねることお許しください。そしてせっかくの夜食ですのでノエル王国の食文化について少しお話したいとおもうのですがいかがですか?」

「食文化か。王国の歴史は教育の中で学んだがそこまで触れたことはないな。......よし、その話題でいい」

「かしこまりましたではひとつお話を......。こほん。――我が国では小麦や大豆などの農作物の栽培が多いことから、主食はパンなどの小麦を使ったものが主流となっております。ですがこのパンの食べ方、貴族と平民とで食べ方が違うというのはご存じですか?」

「知っているとも。帝国でもそうだが、王国でも主食となるパンと主菜や副菜を一緒に食べないとは聞く」

「その通りです。我が国の貴族の一般的なマナーはパンはコースメニューのメインディッシュとともに出されますが、パンを皿についているソースで食べることやメイン料理と一緒に食べる行為がマナー違反とされています。対して平民たちの場合、ソースをつけて食べるのは許されていることですが、共通してメイン料理と一緒に食べることがタブーとされています。この理由としては諸説ありますが、食に困っていた時代の見栄の張り方の名残なんだとか」

「見栄の張り方......?食事の仕方にか」

「食糧の生産が盛んな王国では、食材に気を配れるということはそれだけその家の財源が余裕があるものだとされています。女性がドレスや宝石で身を着飾り体裁と整えることで周囲の視線を集めるように、食材に気を配れる=財源に余裕があると考えられます。財源に余裕があれば大抵のものは買うことはできますし、財源を作れる人間は優れている証拠ですもの。自然とその周りに有能な人間が集まりやすいですわよね?

......パンの食べ方の話に戻しますが、王国貴族のこの考え方から、厳選して用意した食材で作った料理とパンを一緒に食べる行為は「お金がない者の卑しい食べ方」という考え方が今日まで食事マナーとして残り続けた結果だとされています。対して平民はそんな貴族の食べ方をなんとなく真似て貴族の食べ方に近いものになったのだとか。

しかし、近年平民の間では、パンを主菜やソースと食べることは身体に必要な栄養が効率的に摂取できるほか食費削減にもつながることから活気的な食べ方とされております。この近代的な考え方が今貴族の中に広まりつつありますわ。......諸説ですが」

「興味深い考え方だな。確かに日々食べるものに気を使えるのは財力があればこそ。その財力を確保できるのも食糧生産が一役買っている。農作物の生産が多い貴国ならではの考え方だ。うまく世の中が回っているな」

「ありがとうございます」

クリフォード様が静かに笑い、私は一礼を述べて頭を垂れる。床の目が視界いっぱいに広がる中、安堵の息がひとつ零れた。


......本当は嘘だ。この1年、自分でごはんを作るようになってからそんな熱心に食文化の勉強なんてしてこなかった。この知識は上澄みだけ救った王国の歴史と食事マナーの一部、平民と貴族のパンの食べ方をそれっぽく本当の話と混ぜて作った話に過ぎない。

何故そんな作り話をしたのか。

まずひとつ、貴族の食事マナー違反の塊であるサンドイッチを食べてもらうためだ。

私たち(貴族)は体裁を第一に考えなくてはいけない。食事マナーや食事然り。食事に気を遣うとされている王国では具材とパンを挟んだ食事なんて貴族の食べる物ではない。


帝国は近い考え方でありながら、やはり王国とは違う国なので今回のような物を出されてもこうして食べようとしてくれる。

しかし例えばクリフォード様が我が家で「パンを具材で挟んだ食べ物を食べた」と帝国の誰かに伝えたとしよう。その話が帝国に伝わり、万一王国の王族の誰かに知られたりすれば客人にふさわしくない食事を提供したとして、アーテル家の名に傷をつける結果になる。


なので見つかって提供することになったことは回避できない状況だとして「平民の中で流行っている新しい食べ方」なのだと認識させる必要があった。だからこの部分だけ付け加える形で話を盛った。


こうすれば貴族のマナーとしては違反しているけど、平民の間で流行っている食べ方で非公式に試作で作っていたところに王子様が食べてみたいとおっしゃられたと言い訳もできる。


もうひとつは私のわがままだが、形式にとらわれずサンドイッチを食べてみてほしいと思ったから。嫌な先入観をもたれて味の感想を言われて、最悪残されるよりは、正直な感想を言って食べてもらうほうがこちらとしても気持ちがよいものだから。


そんなふたつの意味を込めた嘘、クリフォード様は知る由もない。

換気のために開けているのであろう窓からは肌寒い空気が入り込む。その寒さにひとつ身震いをした頃にアンがサンドイッチと二人分の紅茶をもってきてくれた。

「お待たせいたしました。クリフォード様にはお夜食と温かい紅茶を。お嬢様には紅茶をお持ちいたしました」

ことんと食器が静かに置かれる。「ありがとう」とお礼をいうとアンは一礼をして「なにかあれば申しつけください」とトレーを片付けにまたすぐに部屋を退出した。


「――みればみるほどに面白い見た目のパンだな。中には......フルーツとこの白いソースはなんだ」

「バナナと生クリーム、もうひとつはヨーグルトです」

「牛の乳を加工したものか。初めて食べるな」

「もうひとつの赤いジャムと黄色いジャムはいちごとももです。甘いものは食べられますか?」

「好きだ。糖分は頭の働きをよくしてくれるしな。......それでこれにフォークとナイフがないようだが」

「そのまま、手で。がぶりといただいてください」

伝えるとクリフォード様は一瞬驚くが、すぐに理解をしてくれて手づかみでサンドイッチにかぶりついた。


「――これは面白い味だ。ふわりとした小麦の生地とフルーツ、牛の乳の甘味が優しくひろがる......美味しい。こっちのソースも、あまずっぱくて菓子のようだ」

「ありがとうございます。光栄の極みでございます」

「これをお前――ミリアーナが作ったのか。信じられないな」

「パンはうちのシェフが焼いたものです。私はただ具材を挟んだだけですわ」

サンドイッチは基本何を挟んでもおいしいものだが、こうして自分が作ったものを褒められるのは嬉しいものだ。「まずい」と言われなかったことへの安心と、ほんのりと頬に熱がこもった。

「パンだけでも淡泊で小麦本来の甘味を感じられるし、この国での食べ方にとくに関心もなかったのだが。この食べ方は挟む具材によっては好みによって味を変えられるし、なにより美味しく、腹にも溜まる。皿も食器も汚さないから忙しい書類仕事の片手間でも食べられる。......平民も面白い食べ方をするな。正直俺はこういったパンの食べ方の方が理にかなってると思うぞ」

息をするように瞬息と表現したほうがいいのか、みるみるうちに6個ほどあったサンドイッチはクリフォード様の口の中に消えていった。


「――ん。もう食べてしまった。まだないのか?」

「申し訳ございません。それで最後かと......。沢山作ってはいたのですが」

「そうか。それは残念だ。お前たちは使用人と集まって毎晩こういった食事をとっているのか?それがこの国の文化なのか?」

少し冷めた紅茶を嚥下するとクリフォード様と視線が合う。料理を褒められたことが嬉しかったので気分がよく、正直に答えたい気持ちになった。

「当家のみの秘密の会なので他の家ではやっておりません。毎晩ではなくて定期的におこなっております」

「ではこの家にいる間は今日の夜食のような面白い食事が食べられるのか?」

「はい、それはもう......。ん?え......??はい??今、なんと」

「それはよかった。あのような不思議な食事が滞在中味わえるのかと思うと胸が躍る気分だ。今度はいつやるんだ?やる際は俺を呼べ。いいな?」

つい勢いで答えてしまったが、待ってほしい。一国の王子であるクリフォード様が夜食会に参加するなんて王族に知られてしまえば、ちょっとした、いやかなり大きな騒動が起きかねない。

「え、ええ~~~~っ!ちょ、ちょっと待ってください!クリフォード様!夜食会の食事は料理の腕が拙い私が作るものになりますし、その秘密の会は使用人たちも参加するものになっております!高貴な身分であるあなた様が参加するのは…...、付き人も許さないのでは!!」

「非公式であり秘密なのだろう。ルールは守るしうまくやるさ。なにより俺は今日のような形式にとらわれない料理が気に入ったのだ。......で、あればそれを食べさせるのももてなしのうちにはいらないか?」

「そう......かもしれませんが、当家の体裁的にも許可できないものもありますし、使用人も参加しているので......」

遠回しに参加拒否を伝えるとクリフォード様は不機嫌に眉を下げ、テーブルに肩肘をついた。

「じゃあ、参加しないから料理だけ作って持ってきてくれ。とにかく俺は今日食べたような不思議な物が食べたい。――できないなら、そうだな。令嬢に今日のような食べ物を食べさせられたと帝国に伝えるしかないな」

「あ~~っ!それは、それだけはダメです......。――わかりました!お父様とお母様に相談させてください......。返事次第では参加できないものだと理解してくださるのなら話しをしてみます」

「よい返事だ。俺もそこまで薄情な人間ではない。この家の者の決定には従うし、秘密は守る。......いい返事を待っている」

クリフォード様は空になったカップをソーサーに置いたのでベルを鳴らす。

少ししてからアンが来たので「紅茶のおかわりを」と用件を伝えるとすぐに新しいポットを持ってきてくれた。


湯気がたつ温かい紅茶とは反対に、私の心はクリフォード様の無茶なお願いに内心冷えきっていた。

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