王子の企み
シレーヌ、ノエル両国で行われる交換留学は国同士の文化を知り、より絆を深めることを目的としたイベントである。
しかしこのイベントの裏には隠された意図がある。それは他国の目ぼしい女をみつけ政略結婚させることである。ノエル王国の人間はおそらく気づいていない。いや、賢い宰相や一部の人間には気づかれているかもしれなく、関係悪化を避けて口にださないだけかもしれない。
歴史も浅く武力しか誇れるものがない我がシレーヌ帝国。
一昔前までの戦争ありきの時代であれば我が国も周辺諸国を帝国に取り込みあらゆる実権を握れたかもしれない。しかし、あいにく戦争も無意味な平和な時代なために武力だけの国と同盟を結んでも、その同盟の中では発言権が持てない。
発言権が持てなければ他国との交渉も法案も有利に進めないことからこの数十年帝国は歯がゆさを感じていた。
だからこそ、シレーヌ帝国が武力以外でも権力を持ち、周辺諸国、同盟国との発言権を大きくするには利益を生む国で育った女、それも爵位が高い家柄の女を娶り、より国力を強化していくことが重要だ。
今回の留学の件、俺が選ばれたのもアーテル家の邸宅に滞在することになったのも偶然ではない。
実は秘密裏に貴族派の王族と交渉をして、この国の中でも権力を持った家柄の娘の家に滞在できるようにした。
そして台本的にはその滞在中になんとか令嬢を虜にして……といったものだ。
王女でもよかったがそういった国家間の政略結婚となると結婚後の扱い方が難しいところがある。
だから今回はアーテル家のような直接国の運営に関わりながらもさらに上の地位にいる人間に逆らいにくい……つまり大切な場面で従順な駒(嫁)候補を作りたかった。
帝国は武力で国を治めてきた国であることから多くの国から恨みを買っているし、少しでも隙を見せれば他国に取り込まれかねない。
弱い立場だからこそノエル王国という大きい国とより親交を深めなければ。
――令嬢の見た目に関していえば、我儘でなければ醜女であろとどうでもいい。だがせめて男の言うことには従順でおとなしい性格であれば。
その点、アーテル家の嫡女は第一印象としてはいまいちだ。
漆のような艶やかな黒い髪、炎を思わせるような燃える瞳と幼さが残る表情。そして肉付きが程よい体躯。年齢の割には色気を感じさせる見た目で美しいとは思う。
だが、少々気が強く我儘そうなのだ欠点だ。客間に案内を任せたときも淑やか振舞いこそすれど言葉の節々がどこかぎこちなく、まるで自分の奧にある本性を隠そうとした所作だった。
まだ大した言葉すら交わしてはいないがそれらの立ち振る舞いから、俺がいままでかかわってきた女とさほど変わらない印象を抱いた。
そういう人間であれば程度は知れている。だから「人選を間違えたか」とらしくなく自分が留学に来たことを後悔した。
ただ今回は自分の好みの女を探しにきたのではなく、国に有益になる女を落としにきたのだ。前述のような女であれば与しやすく扱いやすいからよろしいのではないのか......。
そう自分に言い聞かせ、疲れている身体を最高級のベッドの上に沈めた。




