来訪
黒塗りと金縁で彩られた豪奢な馬車が地平線の向こうかえあ走りくるのが見える。
軽快な馬の足音。馬車の車輪が回る音が我が家に近づき、ついにクリフォード殿下と対面する刻がやってきた。
「帝国よりはるばる我が国までようこそクリフォード殿下。アーテル家が当主、ェスター・アーテルでございます」
「うむ。出迎え苦労。改めてシレーヌ帝国が第一王子、クリフォードだ。今日からしばらく厄介になるぞ」
「光栄の極みにございます」
青みがかかった深い色のミディアムショートに黄金よりも輝かしく気高さを感じる金の瞳。シレーヌでも最も高貴な色とされている白い衣装を身にまとっていた。
一口でいえば美男子だ。ここにミーハーな女子がいれば多くの人が黄色い声をあげるだろう。それ以上に綺麗な容姿をしている男性だった。
隣にいるお母様も、私も使用人たちも王子の許しがあるまでは一礼の体勢を崩さない。
王子は数秒後「顔をあげてくれ」と許しを得て、やっと私たちも顔を正面に向けた。
「――さて、形式はここまでにしよう。今回は両国をより知るための留学に来たのだ。あなたたちも俺のことは一介の客人として扱ってほしい」
「深い御心に感謝いたします。善処します」
お父様は再度一礼すると、今度は私たちの方に視線を向けた。
「殿下ご紹介いたします。私の妻、シャンデラと娘のミリアーナです」
「ああ、あなたたちが......。クリフォード・シレーヌです。よろしく、夫人、お嬢様」
「よろしくお願いしますクリフォード殿下」
「よろしくおねがいします」
慣れた所作でお母様、私の順に親愛の印として手の甲にキスをする。
その姿はまるで御伽噺にでてくる王子のごとく優雅で可憐だった。
手から伝わる逞しさは王子というにはいささか勇ましい印象も感じ取れるが。
「――さて、いつまでも外にいても冷えるだろう。春といっても昼を過ぎればまだまだ寒いからな」
「ミリアーナ王子を部屋に案内して差し上げて」
「はいお母様」
挨拶はそこそこに。王子を滞在する部屋に案内するべく、数人の使用人をつれて案内する。
その関、最低限の会話はするけど王子から私に話かけることはなかった。
……人と話すの苦手なのかな?
「案内感謝する」
「とんでもございません。殿下、よろしければ今日は歓迎の宴を用意しております。すこし体を休まれてから参加しませんか?」
「……いや、今日は移動で疲れてへとへとなんだ。失礼とは承知だが今日のところは休ませてもらうよ。また明日からよろしく頼む」
「承知しました。ぜひ我が家だと思って旅の疲れをいやしてくださいね」
クリフォード様は案内を済むと私たちに礼の言葉を紡ぎ、人払いをする。
自慢ではないがうちの料理はノエル王国の中でもトップクラスの料理人が作っているものだ。他国からこの日のために取り寄せた食材の数々で料理を作ったのにもったいないなぁ……と思いつつ、私は夜ごはんを食べるために広間へ向かった。




