早朝の逢瀬1
――突然だが、私は釣りが好きだ。
静かに波打つ水面を見るのが好きだ。生き物が元気よく跳ね上がり、落下したあとに広がる波紋を眺めるのが好きだ。そこに釣り餌をつけた釣り針を投げ入れて新鮮な魚を捕まえるとなんともいえない充実感を感じられる。
釣りという行為は私の癒しのひとつであり、楽しみであり、食料を得る手段のひとつ。
生前から「おじさんくさい趣味」と言われてしまうもののひとつであるが、釣りに楽しさを見出してしまったのだから他人に何を言われようと仕方がない。
お母様に知られたら卒倒しそうなので密に楽しむ。街で買いそろえた釣り道具一式をもって激流の川と呼ばれる、ノエル王国でも淡水魚が取れる釣りスポットへ向かった。
――ただいまの時刻早朝時で4時である。
釣りというのも奥が深く、川釣りは流域によって釣れる魚の種類も変わってくる。例えば下流は流れが緩やかで水がよく溜まりやすい。そして水草や石といった障害物も多く小魚が多い。釣り初心者が簡単に始めるのはこの下流からともいわれている。
対して上流は流れも速く水が澄んでいる分、なかなか警戒心が強い魚がごろごろといる。その変わり、釣って食べてもおいしい種類も多いので釣れたときの達成感もまた格別だ。
私が目指すのはもちろん上流に住むの魚を釣ること。この世界の魚が生前の魚と種類も生態もちがうのであろうが、まずはどんな魚が生息しているのか見てみたい――。
「ついたー!......やっぱり早朝ともあって誰もいないわね」
早朝は川の流れも格段と緩やかで人気もないため、澄んだ川の水面には色とりどりの魚が生息してた。持ってきていた魚の種類が載った本を片手に釣り糸を仕掛ける。
手頃な大きな岩に腰をかけてから釣り糸が引くのを待つ間、対岸の奧。誰もいない生い茂った木々の隅々まで視界に移す。
......うん。やっぱり誰かが隣にいたほうが楽しい。特に個人的な体験だが、川釣りの大半は待つことが多い。警戒心が強い魚ほどおいしいものが多いので隣に人がいてくれた方が話相手にもなるし。
けどこの世界で果たして趣味で釣りをする人は何人いるのだろうか。
これまた個人的な偏見だが、貴族のほとんどは自分の領地の敷地内からでないし、出るとしても用事があるときだ。余興としいておこなうとしても敷地内で狩猟をおこなうくらいだろう。実際お父様と一緒に狩猟に連れて行ってもらったことがある。
そう思えば私的には狩猟の方が苦手だ。血生臭いし愛玩動物としても愛でられる点もあるので心が痛くなる。同じ陸に住む生き物だからだろうか。
動物性の肉に関しても、食べられることは食べられるし、個人的にも好きではあるが、とって捌けるかといわれればまた別の話だろう。
――釣り竿から垂れる釣り糸はまだ引く気配はない。
他に思い出せる話題はないだろうか。かれこれ30分は経つ。釣れるまでは先が長いことだろう。
......さて持ってきた図鑑でも見ようかな。
持ってきた魚の図鑑を手に取ろうとしたとき聞き覚えのある声をかけられた。




