⑩夜会開始
――夜会開始時刻。
色とりどりのドレスを着こなす女性の姿とモノトーンの衣装を着こなす男性の姿。
上品に、されど楽しそうに各々が同じ時を過ごし、親睦を深めている。あるものは上質なワインを片手に。あるものは部屋の隅に設置してある椅子で休み一流の音楽家の演奏に耳を傾けている。
アーテル家の夜会には合計15の家名の人たちが参加してくれ、その中には王族であり、私の婚約者とその姉の一人も参加していた。
今回この夜会に招いたのはこの国の第3王女のエリザベスという。エリザベスは私より2つ年上だが幼い頃からの付き合いということから仲良くさせてもらっている。
エリザベスは若草色の流行りの華美であり上品があるドレスを翻し、こちらへ歩いてくる。
「ごきげんよう、ミリアーナ。元気?」
「ごきげんようエリザベス。見てのとおり元気よ」
「そう?よかった最近公務で忙しくてなかなか会えなくてごめんなさいね?」
「そんなことないわ。それに私も学園生活で忙しいし......」
「あら、学生が忙しいのならいいことじゃない。私たちが生まれる前は戦争がどこかしこで起こってたんだから。それより、最近下町には降りていて?贔屓にしている鍛冶屋さんが――」
エリザベスは年頃の女の子より少し大人びているというか、会話選びのセンスがおばさんくさいが、それが私には心地いいのだ。
エリザベスと会話に花を咲かせていると白と金の華美な衣装と装飾を揺らし、これまた不機嫌そうな表情で口を開いた。
「――姉上。いつまでこんな女と話をしているのですか」
会話に水を差すような低い声音に私の心は平穏ではなくなる。それはエリザベスも同じだったようで、手に持っていた扇子を口に当てて言葉を返した。
「あら、アシュリー。女性の会話に割り込むなんて礼儀がなっていないのではなくて?それにミリアーナはあなたの婚約者。まずは挨拶をすべきでしょう」
「この嫌味な女に交わす挨拶などありません。仮にあるとすればそれは彼女を罵る言葉だけです。そもそも俺はこいつと結婚する気は…...」
「黙りなさい。王族ともあろう人間が礼儀以前に挨拶ひとつもできないとは恥を知りなさい。ここはアーテル家の主催の夜会であり上流階級の人間しか招き入れない場でもあります。その方々たちの前で醜態を晒すつもりですか?」
「......ミリアーナ嬢、ご機嫌麗しく存じます」
「――王子殿下もったいなきお言葉です」
エリザベスの一喝でしぶしぶと口と体を動かすアシュリーの姿にそんなに私のことが嫌いなんだなぁ…...。と自分のことなのに客観視する。
心は不思議と冷静だ。さらに表現するなら凪のようだ。それくらい今日の私はアシュリーに対してなんとも思えなかった。
エリザベスが隣にいてくれるおかげだろうか。アシュリーは挨拶をそこそこに私と一緒にいたくないと言いたげに口を曲げると早々に私から距離を取る。
エリザベスは深いため息をひとつつき、給仕していたアンのトレーに乗っていたノンアルコールのシャンパンを受け取った。
「ごめんなさいね愚かな弟で。根が純粋な分、関わる人間が悪いとすぐに感化されちゃうから」
「いいえ。気にしてないわ。誰だって嫌な相手が目の前にいたらああいった態度を取りたくなるのも当然もの」
「ミリアーナ......。あなたはいい女なんだからそんなマイナスなこと言わないで頂戴。この私があなたをいい女だと認めてるんだから」
「ふふふ、ありがとうエリザベス」
話に区切りがついた頃、照明が落ち会場に設置してある檀上に照明が集中する。お母様とお父様が檀上に上り、落ち着いた色味の衣装とスワロフスキーが照明で照らされ、きらびやかにされど優美に衣装が反射する。
「ご来場の皆様方、本日は我がアーテル家の夜会にようこそおいでくださり感謝いたしますわ。小規模ではございますが今宵は日々の疲れやしがらみなど忘れ、ぜひお楽しみくださいね」
お母様が一通りの挨拶を済ませると会場が拍手で包まれ、灯りも当初の明るさに戻る。
そして檀上には音楽家たちが入れ替わりに集まり、一斉にゆったりとした曲調の曲を弾き始める。
お母様といえば、檀上から降りる際、表情には出さなかったが不安気な視線が料理が置かれた机に向いていた。




