5.授業①
━━授業初日━━
「レ、レーフェルド様……?」
「はい、お嬢様。今日から三年間、よろしくお願いします」
いよいよ今日から授業が始まる。
家庭教師としての第一歩。入念に準備をして、気合を入れて来たつもりだったのだけれど。
先週の顔合わせの時には笑顔を見せてくれた女の子が、今は少し警戒したふうで私を見つめている。
「どうか、されましたか?」
私の問いに、アンネソフィー様は緊張した風で答えた。
「い、いえ、すいません。レーフェルド様のお召し物が、随分違っているものですから」
そう言って、アンネソフィー様は私を見た。
アルトハウス家の品位を落とさないように、という夫人からの助言を聞き入れた私は、先週の顔合わせの後、大学時代を過ごしたハレ市に戻り、少ない蓄えを切り崩して、大急ぎで洋服を新調したのだ。
白いブラウスにダークグレーのベスト、ラペル付きのジャケット、それから色の合ったパンツ。
一見男性の服装にも見えるけれど、これがナポレオンの国から伝わったトレンドの一つ、なのだそうだ。
靴まで揃える金銭的余裕はなかったけれど、初仕事のため奮発していい服を仕立てたつもりだった。
「お嬢様のために新調したのですが……似合わないでしょうか……」
はっきり似合わないと言われたら私も傷つくというものだけれど、彼女の返事は私を安心させた。
「い、いいえ!あの、とても、とても素敵だと思います」
そう、恥ずかしそうに言うのだった。その自然な言葉は、彼女が他人を尊重して、不必要に品定めするような人間ではないことを示していた。
道徳的であること。
それは今後の授業において、ひいては彼女の人生においても、最も重要な事柄だった。
「ありがとうございます。お嬢様も、可愛らしいですよ」
「そっ、そんなこと……」
これまでの十三年間の人生で少なくとも百回は聞いたであろうその言葉に、アンネソフィー様は頬を赤く染めたのだった。
彼女とならうまくやっていける。心からそう思った。




