44.家庭教師②
『どうすればこれからもあなたと一緒にいられるのか』
それは、とても、とても難しい質問だった。
彼女と私が一緒に生きること。できることなら、二人で何処かへ逃げるのではなく、周囲から認められて一緒に生きること。
心の中には描いていたけれど、夢は夢だ。夢だから、こういったことが外国では小説の題材にもなるのだ。
そこに至るまでの、そしてその後に待っている現実の障害。それは、十四の彼女には想像もできないだろう。
私の幸せのために、彼女は不幸になるかもしれない。十年後、後悔させてしまうかもしれない。両親や、周囲との関係も悪くなるかもしれない。それが不安だった。
「もう一度、考えてみてください。今、何を選ぶかによって、あなたの未来が決まるのですよ。ご両親のように幸せに暮らすことだって……」
私がそう言うと、ソフィーは答えた。凛とした、意志の強い声だった。
「お父さまやお母さまと同じようにならなければいけない、というわけではないでしょう。幸せのかたちは、一つではないのですから」
「それは、そうですが……」
「あなたと一緒なら、二十年後も、三十年後も、わたくしはきっとしあわせで、あなたを好きで居続けるでしょう……あなたはどうなのです。レギーナ?あなたはわたくしと居て、不幸ではないですね?」
確認するように、ソフィーは聞いた。大事な人が勇気を見せてくれたのだ。覚悟を決めなければならないのは私のほうだと悟った。
「私も、あなたと一緒にいたいと思っています。さもなければ、私は一生しあわせではないでしょうから」
ソフィーは、満足そうに微笑んだ。
◇◇◇◇
短い夜を過ごした下宿部屋を出て、二人で手をつないで屋敷へと足を進める。これからのことを、二人で生きる道を模索しながら。
「ソフィー、どうすれば一緒にいられるか、と聞きましたね……」
「ええ」
「私も、いろいろと考えなければなりません。屋敷で待っていてください。授業は中止になっていますが、御見舞いがてら、会いに行きますから」
屋敷の門を潜ると、ソフィーは入り口の扉ではなく庭の方に回った。
昨日の夜、ソフィーと会った場所。村道とは生垣で区切られていて、白い机と椅子、そしてプラタナスの大きな木が生えている。辺りが明るくなった今、そこに見慣れない物体があるのに気が付いた。
「……梯子、ですか?」
庭と二階の部屋の窓を繋ぐ梯子が立てかけられていた。
「昨日の夜、アウグステさんが準備しておいてくれたのです。……お父さまとお母さまには、外に出るところを見られたくはないですから」
そう言って、彼女は梯子に手をかけた。
「では、レギーナ。今日また会いましょう」
「ええ、待っていてください。……梯子は、私が元の場所に戻しておきますね」
慎重に、一段一段ゆっくりと梯子を上っていく彼女を見送って、二人で頑張ろうと、私はそう心に誓った。
そういえば、アウグステさんはどこまで知っているのだろう。ソフィーのこと。私のこと。そして、私たちのことを。




