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27.年明け①

視点が主人公レギーナさんに戻ります。

 故郷エアランゲンを発って一日半。


 馬車に揺られる間も、道中の宿でも、ずっと考えていた。


 彼女の事。私の想い。そして三年の任期が終わった後の事。


 一人で各地を転々としながらなんとか食いつなぐ未来の自分の姿を思うと、寂しくて、胸が苦しくて、ふるふると涙が出そうになる。


 家庭教師でいる限りずうっと続くかもしれないこの寂しさにたった一人で上手に向き合っていくなんて、果たしてできるだろうか。


 長く家庭教師を続ける人間は少ない。続いて十年。父がいい例だ。多くの人にとって、家庭教師は、より安定していて、そして名誉ある職業への通過点に過ぎないのだ。


 では、私は……


 生まれ持った性が、そういった職業への道も、彼女との未来も閉ざしている私は、どうすればいいのだろう。


 女性には産みの苦しみが、男性には労働の苦しみが与えられていると言うけれど、でも私は、私の苦しみは……


 そんなことを考えて、私はアニオール村に帰ってきたのだった。



◇◇◇◇



 雪が薄く積もった村は美しかった。


 このささやかな降り具合は、豪雪地帯であるバイエルン南部と海沿いのプロイセン北部のちょうど中間に位置するこの地方おなじみのものだ。


 雪と泥の混じる村道には数人分の足跡が残されていて、人影はない。あたりはしんとしている。しんとしていて、でも人の生活は家々の中で続けられていて、私だけが外に投げ出されていた。


 下宿先に荷物を置いた後、私の足は自然とアルトハウス家の屋敷に向かっていた。


 屋敷の入口で、ちょうどアウグステさんと鉢合わせた。一日の仕事を終え、家に帰るところのようだった。


「お久しぶりです。アウグステさん」


「あら、ジニィちゃん。早かったのね。いつ帰ったの?」


「たった今です。こちらでは、何かありましたか?」


「そうねえ、特別なことはなかったけれど、それでもいろいろあってね……」


 村の様子はどうだったかとか、教会ではもう復活祭の準備が始まるだとか、ソフィーの体調はどうか、とか。おしゃべりなアウグステさんの話題は尽きることがない。


 私がこれから旦那様とソフィーに挨拶をしに行くのだと聞くと、しかしアウグステさんは何かを言おうとしたまま言葉が続かず、少し目を泳がせて、決まりの悪い表情を浮かべるのだった。


「……ええと、その事なんだけどね、ジニィちゃん」


「はい?」


「アニィちゃんはきっと心の準備が必要だろうから、今日は会わないであげて?」


「……心の準備、ですか?」


 詳しいことを聞いても、授業の時に会えば分かるからと、ニコリとするだけ。


 村に帰ってきたこの足でソフィーに会いに行けないのは残念だったけれど、アウグステさんの言葉を受け入れて、私は旦那様の書斎へと向かった。

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