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25.帰省⑥

「じゃあ、頑張るのだよ。レギーナ。健康には気をつけなさい」

「将来の事も、しっかり考えるのですよ」


「わかっています。父様、母様」


 両親との時間はあっという間に過ぎ去って、故郷を離れる日がやってきた。次にここに戻ってくるのは来年のクリスマスになるだろう。


 それまでの一年間がいいものになるよう祈りながら、私達三人は今にも出発しようとする馬車の前で強く抱き合った。


「じゃあ、また一年後に!」


「ええ、元気でいるのですよ!」


 馬車に乗り、離れていく私を見送る母の瞳は赤く、涙が浮かんでいた。私の健康を、将来を、人生の幸福を心から望んでいることが痛いほど伝わってくる。


 そんな優しい母に、そして父にも。これからも心配をかけさせ続けることを申し訳なく思った。


「行ってきます、母様!父様!今年は、もっと手紙を書くようにします!」


 そうして私は故郷を後にした。



◇◇◇◇



 ごとごと、ごとごと。


 村へと向かう馬車の中で、私は故郷で過ごした日々を思い返し、なによりも明日からのことを考えずにはいられなかった。


 そうすると、正直な思いが胸の奥底から込み上げてくるのだった。


「(彼女はどうしているだろう。これまでの手紙を、彼女はどんな気持ちで書いたのだろう……)」


 いい家庭教師に向けて、彼女は手紙を書いていたのだろうか。


 ひょっとして、彼女は私とおんなじ気持ちなのだろうか。


 大切な存在だと、思っているのだろうか。


 もしそうなら、どんなにしあわせなことだろう。


 でも、現実の厳しさは私がよく知っている。


 三年の家庭教師の任期が過ぎた後、彼女は私との日々を『いい思い出』として胸にしまって、そしていつかは誰かと結婚してしまうのだろうか。


 ……きっと、そうなのだろう。それがソフィーにとっての幸せで、そして私は一人ぼっちになるのだろう。


「(……それまで、まだ二年半もあるじゃないか)」


 それが先延ばしにしかならないと知りつつ、私はそう自分に言い聞かせるしかないのだった。


 明日にはソフィーに会える。そして彼女との新しい年が始まるのだ。


 ひとまずは、それでいいじゃないか。


 そうして私は、今朝届いたソフィーからの新しい手紙を開いた。



◇◇◇◇


愛するレギーナ、


 お手紙と、クリスマスのプレゼント、ほんとうにありがとうございます。あなたからのお手紙が届いたと知った瞬間、わたくしは大急ぎで封を開け、読み終わった後も、何度も何度も、新しく届いたあなたからの知らせであるかのように目を通しています。


 そして、わたくしのために、あなたの英語の辞書と小説を下さるなんて。素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます。わたくし、一生たいせつにします。


 あなたが村を発ってから、わたくしがいかにあなたから元気を頂いていたのかを改めて認識さられます。できることならあなたと一緒にエアランゲンへと向かい、ご両親の元でしっかりと休養をとられているかどうか、妹様との静かな時を過ごされているかどうか、そんなことをあなたのとなりで一緒に分かち合いたいと思いましたが、それは過ぎたお願いですね。


 早く村に帰ってきてください、レギーナ。


あなたのソフィー



◇◇◇◇



『早く村に帰ってきてください』と、ソフィーは手紙の最後にそう記している。その言葉が、私にはとても自然なもののように思えた。


 私が家庭教師として彼女に寄り添っている限りは、この関係を続けることができるのだ。家庭教師でいる限りは。


 でも、その先は……

帰省編終わり。予定ではあと二篇あります。

そして今後、更新がゆっくりになります。書く時間があんまり取れそうにありません。


※追記

やっぱり残り三篇になりました。

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