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22.帰省③

━━クリスマスの朝━━


「それでは、行ってきますね」


「ああ、行ってらっしゃい」

「今日は冷えますから、しっかり着こむのですよ」


「わかってますよ。もう子どもではないのですから」


 静かな、そして幸せな空気が国中を包むクリスマスの日。


 毎年そうしているのと同じように、私はコートを着込んで一人家を出た。


 父トビアスと母マグダレーナもまた、毎年そうしているのと同じように私を見送るのだった。


 クリスマスは家族で祝うものだ。父と母ももちろん大事だけれど、私にとって大切な事は、妹と一緒にこの日を祝うことだった。



◇◇◇◇



「クリスマスおめでとう、アンナ」


 クリスマスにまでお墓参りをする人は少ない。広い墓地を見渡しても、目に入るのは数人。


 静かな街の墓地の一角。妹が眠っているその場所で、私は去年と同じようにこの日を祝って、そして祈りを捧げた。


 頭に浮かぶのは、栗色の髪をきれいに伸ばした、活発で誠実な女の子のこと。お互いがお互いにとって人生の大半で、これからも手を取り合って一緒に生きて、そして一緒に老いていくのだと疑いもしなかったあの頃のこと。


 その幸福な日々は過去のものではなかった。毎年この墓地を訪れて、その事を確認していた。


 それは今でもそうなのだけれど、しかし今年は少しだけ違っていた。


 墓地にプラタナスの木が多く植えられていることに気が付いたのは、今年になってようやくだった。


 木の棺桶が地中でどの程度保つのかは分からないけれど、妹の墓石のすぐ後ろにも、もしかしたら妹を吸って力をつけたのかもしれない大きなプラタナスの木が、その飴玉のような実を枝から垂らしている。


 去年までは気にも留めなかったその木が、今年は新鮮な意味を持っていた。


 妹との思い出で満たされていた私の心の奥の部分が、今は少しだけ違っていることを思わずにはいられない。ソフィーの傍にいた時間が、彼女との生活が、自分でも気が付かないうちに私の心の多くを占めるようになっていた。


 それは妹を忘れたのではなくて、死を受け入れて、そして前へと進むことができるような、なにかあたたかい祝福を受けているような、そんな気持ちになった。


「(私は、彼女のことを……)」


 そうして私は毎年そうしているのと同じように妹と一緒にクリスマスを祝って、しかし今年はそれに加えて、妹が生きた証のその石と、全てを見守る大きな木に口をつけ、「また来年」とそれだけ言って墓地を後にした。


 それが、私のクリスマスのお祝いの全部だった。


 ソフィーからの三通目の手紙が届いたのは、クリスマスの翌々日のことだった。



◇◇◇◇



愛するレギーナ、


 クリスマスのこの日、あなたが傍に居ないことをとても残念に思います。ここではクリスマスに加えて、今日結婚式を挙げる方々を村をあげて祝福しています。


 わたくしはというと、クリストキントになることもなく家に留まり、煌びやかな冠をかぶった新婦さんの姿を思い描き、村中に響く教会の鐘の音を聴いて、いつか愛する人と一緒になる日の事を、そして遠くエアランゲンにいるあなたのことを考えています。あなたが故郷で何をしているか、何を食べているか、何を考えているのか。わたくしのことも、ほんの少しは思ってくださっているか。そんなことです。


 我がままを言いたくはないのですが、あなたからの返事がないことが、わたくしにとってどんなに辛いことか、分かっていただきたいのです。割れるような頭痛とひどい風邪には、あなたのお返事が何よりの薬であることをご存知でしょうか。


ソフィー



◇◇◇◇



 私は慌てて手紙の返事を書き上げ、遅くなったクリスマスプレゼントと共にアニオール村のソフィーに向けて送ったのだった。


 それにしても、私がクリスマスの日に墓地で祈りを捧げて、ソフィーのことを想った時、彼女もまた私の事を考えていたのだろうか。そう考えると、なにかとてもしあわせな心持になるのだった。

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