20.帰省①
━━ベルリンでの休暇の後、アニオール村━━
ベルリンから村に帰った次の日。
クリスマスを目前にして、私は今度こそ本当の休暇を頂いて故郷エアランゲンへ帰郷する。
ソフィーが見送りに来たいと言っていたのだけれど、冬の早朝の空気に震えながら馬車を待つ私の元に姿を現したのは、しかし屋敷の女中、アウグステおばさん一人だった。
彼女は村の出身で、恰幅と面倒見のいい方だ。もう長いこと、ソフィーの世話を含めた屋敷の仕事全般を任されているそうだ。
「おはよう、ジニィちゃん(※レギーナの愛称)」
「おはようございます、アウグステさん。ソフィーは来ないのですね」
表情の豊かなアウグステおばさんは、私の挨拶に申し訳なさそうな表情を作った。
「それがね、実はアニィちゃん(※アンネソフィーの愛称)、体調を崩してしまって。きっと旅行の疲れだと思うのだけれど」
「それは……」
旅行中、ソフィーと私は毎日ベルリンの街に出かけた。本人も知らないまま、疲れが溜まっていたのかもしれなかった。
「彼女は、大丈夫ですか」
もしベッドから出られないほど弱ってしまっているのだとしたら、それは付き添い家庭教師である私の責任でもあった。
「それがね、熱はあるのだけど、でもどこか元気そうなのよ。クリスマスマーケットが綺麗だったとか、ジニィちゃんがかっこよかったとか、旅行のことを楽しそうに話してね」
そう言って、アウグステさんは目を細めた。
「そうですか……大事には至っていないのですね」
「ええ、慣れない旅行で、疲れていたのね。それで……」
そう言って、アウグステおばさんは外套のポケットから一通の封筒を取り出した。
「いくらなんでも、外を歩かせるわけにはいかないでしょう?私が外出禁止にしたの。そうしたらあの子、大急ぎでこんなものを書いたのよ」
「手紙、ですか」
私が知る限り、それはソフィーが書いた初めての手紙だった。
アウグステおばさんが私にその封筒を手渡すと、どうやら馬車も到着したようだった。
「それじゃあ、アウグステさん」
「ええ。来年も、あなたがアニィちゃんといい関係を続けられる事を願っているわ。それじゃあ、いいクリスマスを」
「ええ、では、また来年に。いいクリスマスを。それからソフィーにはお大事にと」
そうしてアニオール村を出発した私は、ハレ市からエアフルト市に向かい、そこで一泊。明日には故郷エアランゲンに到着する予定だ。
エアフルトへ向かう馬車の中で、私はソフィーの手紙を開いた。
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愛するレギーナ、
手紙というものを、初めて書きます。急いで書きますし、もしかしたら読みにくい部分もあるかもしれませんが、そこは目を瞑ってください。本当はあなたの出発を見送りたかったのですが、体調を崩してしまって行けそうにありません。許してください。代わりに、アウグステおばさんにこの手紙を届けてもらおうと思います。
こうして筆を取るのも、あなたへの感謝を紙に残るかたちで表したかったのです。ベルリンへ一緒に来てくださり、本当にありがとうございました。それだけ、伝えたかったのです。もしよろしければ、迷惑でないなら、これからの二週間もあなたに手紙を送ろうと思います。
アンネソフィー・アルトハウス
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