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10.ベルリンでの休暇①

 ━━授業が始まって、五ヶ月━━


 季節は冬。待降節の時期。


 他の街へ、旅行に出るということ。


 かつてそれは限られた人間にだけ許された特権だったけれど、今日、そんな贅沢が市民にも広まってきた。


 アルトハウス家もまた、クリスマス前の一週間ほどを首都ベルリンで過ごすことになっていた。ソフィーの体調も良い。遠く東プロイセンに留学に出ているご子息を除いて、三人で休暇を取ると聞いていた。のだけれど。


 困ったことになった。ソフィーが私の同行を望んだのだ。


「お父様、ベルリンへの旅行ですが、わたくし、レギーナと一緒に行きたいです」


「……はい?」


 旦那様がお帰りになると、ソフィーは突然そう切り出した。


 聞き間違いかと耳を疑う私をよそに、ソフィーは続けた。


「それが駄目なら、わたくしは村に留まろうかとも思います」


 ソフィーのその突飛な言葉に、私はもとより旦那様も驚いて目を丸くした。


「レーフェルド君を?いや、そんないきなり……」


 旦那様は顔をしかめたけれど、前々からソフィーに『ご褒美をあげなくては。望みがあったら言いなさい』と言っていた手前、断るに断れないようだった。


 さらに畳み掛けるように、ソフィーは旦那様に近づいて、上目で見つめてその手を取った。


「お父様もお母様も、ベルリンではご用事だっておありなのでしょう?」


「いや、まあ、そうだが……」


「わたくし、レギーナと一緒なら退屈しませんもの。お父様、お願いです」


 結局、滅多に無いソフィーのおねだりに、旦那様は折れてしまったのだった。


「……レーフェルド君がいれば、お前を預けられるか……よろしい。宿に空きはあるか、聞いてみることにしよう」


 その前向きな返事に、ソフィーは喜びで旦那様に抱き着いたのだった。


「ありがとうございます!きっとですよ!」


 ソフィーが置いてきぼりになっている私の方へ振り向いて、輝く笑顔を見せたのは、その後ようやくのこと。


「ね?レギーナも、いいでしょう?」


「ベ、ベルリン、ですか……?」


「大きな街に行くのは初めてのことですし、レギーナがいればわたくしも心強いのですが……都合は良くなかったでしょうか……」


「そ、そうですね……」


 正直に言って、都合は良くなかった。問題なのは旅費だった。


 馬車代、宿泊費、食費に雑費……と頭を巡らせていると、私の考えを見透かしたかのように、旦那様が口を開いた。


「馬車には空きがあるはずだから、そちらは私の方で持とう。少し早いが、クリスマスの特別な提案と受け取ってくれたまえ」


「は、はあ……」


「その代わりと言ってはなんだが、この子の面倒を見てもらうことになるがね」


「……そうなりますよね」



◇◇◇◇



 結局、宿には空きがあった。自分の為というよりも、ソフィーの為に、私も同行することになった。


 宿泊費とその他の費用は払えない額ではないけれど、それは思わぬ出費となることは間違いがないのだった。


「お、お金が……貯金が……」


「レギーナ、ごめんなさい……わたくしの我がままで……」


「い、いえ、大丈夫です。私も大都市ベルリンを一度は見たいと思っていました……」


 そうして決まった小旅行は、私とソフィーにとって忘れられない思い出となるのだった。

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