金髪美女、拾う
やがて食事を終え、女性自身について二人は話し始める。
「それであんた。何でうちに倒れてたんだ?」
板で補修してある天井へ目線が送られる。
女性は気まずそうに口を開いた。
「ごめん。よく分からなくて。記憶もあのベットで寝ていたところからあたりで」
「そうか。じゃあこれからどうするんだ? 家にでも帰るか?」
「家……家? ぼくの家、どこだろ?」
「何?」
詳しく尋ねる前に、女性は独り言のように呟く。
「というか、ぼく誰なんだろ? 自分の名前も思い出せない。どこで何をしていたかも分からない。なんでここにいるのかも全く分からない」
「嘘だろ?」
「本当だよ! 何も、何も頭の中にないんだ!」
「……どうやら本当みたいだな」
返事をする女性は真剣だった。
先程までの様子を見る限り、その台詞は騙すことが目的のものではないということは分かった。
氷国では誰もが一度は見たことがあるほど育てられているコオリカブ。国外のものでさえ知識ぐらいはあることを、この女性はまったく知らなかったのだ。
グリゴリーは少し考えてから、言った。
「記憶の欠落か。聞いたことはある症状だが……考えたところで素人の俺ではどうにもならんな。とりあえず怪我の様子を見て、村の医者へ診せに行こう」
「うん……」
頷くが、その表情は悲しげなものであった。
少しの間、二人は暖炉の前で何も言わずにいた。
時間も経って現状に慣れ始めたのか、女性はすっかり元気になっていた。
安心したグリゴリーは、話しかけることにした。
「怪我の状態はどうだ? 」
「痛いかな。すごい痛い」
「どこらへんが?」
「こことこことこことこことここと……ここ」
「いっぱいあるな」
全身をくまなく指さす女性。
「歩けるか?」
訊くと、女性は立ち上がる。
足を床に置いて、体を起こす。
「ぎゃぁあああ!」
「ユキヒョウの鳴き声みたいだ……」
「いぁ、いぁ」
椅子に倒れこむと、放心したようにか細い声を出す。
頭を掻いた後、グリゴリーは溜息を吐いた。
「仕方ないけど、しばらく様子見だな。せめて走れるぐらいには戻ってもらわないと、村には行かせられない。その間はうちで面倒見ることにするよ」
「ごめんね」
「いいさ。それで寝室だが、あんたはさっきまで寝てた部屋でいいよ。俺は元々あっちだから」
「分かった」
「それじゃあ朝早いからもう寝よう。あんたも怪我が早く治るようにいっぱい寝た方がいい……じゃあ、おやすみ」
「何それ?」
「ん? あー、おやすみは寝る前の挨拶さ。人と会ったり、一緒にいる時は必ずしなくちゃいけないもの」
「何で挨拶っていうのをしなきゃいけないの?」
「それはな……」
女性から質問されて、改めて記憶を失っていることを突き付けられる。
グリゴリーは苦い顔つきになる。
「当たり前だからさ」
「当たり前って?」
「えーと」
頭を捻って、どう説明すればいいのかを考える。
使う言葉を模索しながら、話す。
「みんながしてること」
「みんながしてるから、しなきゃいけないの?」
「そう。みんなと同じことをしないと、人間は独りになっちゃう」
「……独りになっちゃ駄目なの?」
「……駄目さ。絶対になっちゃ駄目だ」
最後だけ、厳しい口調になるグリゴリー。
ようやく分かったのか、縦に真っすぐ女性は頷く。
手を挙げる。
「分かった。おやすみ!」
「ああ。おやすみ」
明りを消して、二人は別々の寝室で睡眠を取った。
明日からどうなることかやら。
不安で天井を仰ぐグリゴリーだった。




