修行
その夜、氷の牢獄の中にグリゴリーはいた。
外から加えられた冷気が壁である氷に伝わり、部屋全体の温度が下がっている。
息を吐くと氷になって音をたてて落ちた。氷国出身であるはずのグリゴリーでも裸一貫でこの空間にいるのは苦しかった。今までの人生で感じられなかった凍傷を、彼は経験していた。
本来ならばこの修行は石造りの部屋を造って中に人が入り、それをしばらく燃え続ける炎の中に設置するという今回とは真逆のものだ。なぜあえて逆にしたのかというと、これはコンスティションを鍛えるための修行だからだ。火の窯に入るものは氷を生成して耐えるのだが、グリゴリーの場合は炎ではなく、ブラダィヨーが集めた百以上の人のコンスティションによる冷気を自分の力で消していく。
二時間ほどして限界を感じ始めた。肉体が変色し始め、自分の意志で動けなくなってきている。目の前の景色が歪んでいた。
歪んでいた景色に色の変化があった。色さえもおかしく感じ始めたか。グリゴリーが弱った自分を笑っていると。銀色の光は声を出した。
「久しぶり。あの子は元気かな?」
「お前は……」
聞き覚えのある声に気付くと、光は人の姿になった。マルコがそこで武器を持っていた。
「こんな地獄みたいに寒い場所で、十二将軍抜きやるなんてあんた馬鹿だね~」
新たな将軍が就くと、必ず行われている慣習であった。
新将軍に対して、今いる将軍が若いものから順番で一対一をするのだ。将軍には戦闘力も求められる。よって相手をする全てが国でも上から数えた方が早い強敵たちだった。基本的には最初の一人に負ける。ごくまれに二人目や三人目に行く、そして歴史でも五指しかないのが三人抜きだった。
「おれっちも入れて、今は四人の将軍がここにいるからがんばって」
「ああ。そうだな」
不意打ち気味に、グリゴリーは飛び蹴りを放った。
躱され、鉄板で頭を叩かれる。
「遅い。やっぱりこんなかじゃきついって~」
倒れるグリゴリーの上で、そんな言葉が聞こえた。
修行は続いた。牢獄にいる時間を増やし、冷気を増やして、将軍と戦っていく。
三日後。
四人の将軍が牢獄から出て地べたに倒れていた。
「向こうに有利な環境とはいえ、あれほど疲労していた相手に持久戦で倒されるとは……」
「ただの馬鹿だと思ってたけど、あの人すげ~わ。前代未聞の四人抜きよ。しかも別の修行をしながら」
グリゴリーはまだ牢獄の中にいた。外から冷気を発する人たちは交代制で、今や合計十二時間に及んでいた。
体はもはや氷そのものだった。凍って硬質化した皮がはがれ、血が垂れ落ちていた。
そんな状態でもグリゴリーはコンスティションを使い続けた。
修行前の彼では、ありえない所業。男子、三日会わざれば刮目して見よとはまさしくこのことだった。
一皮むけたグリゴリーは、想い人の自由を掴むため、かつての強敵たちへより鋭く磨き上げた牙を突きたてることを誓う。




