冬枯れ時失せた霞みの庭に揺れる一輪の哀れなそうび(=薔薇)の棘に見惚る
第九話は、森サイドです。
秋が終わり、冬のやってきた庭は寂しい。
でも、人間は一日に数分でも外の空気を吸わないと
酸化がすすんで寿命が縮んでしまうから、ヒトにとって庭は必要なのだろう。
枯れた庭を見回すと、なぜか一輪だけ、薔薇が弱弱しく咲いていた。
じっと見つめていると、カメラを持ってきた山田の声が背後からする。
「君みたいだ。」
これが僕だって?僕は振り返って山田を睨む。
山田が笑う。
「棘で身を守りながらも、綺麗に咲くことは諦めない。僕なら、棘で身を守るなんて面倒だから、最初からこんな目立つ花は咲かせないもの。森君は誇り高き一輪の薔薇だよ。」
山田は優しい。
優しい山田がどんなに褒めようと
たった一輪で咲いているその薔薇が僕には哀れに思えた。
でも、君が褒めてくれるなら。
君が応援してくれるなら、僕は誇り高く咲いてみようかな。
それがどんなに寂しいことでも。どんなに哀れであっても。
少しだけ、そう思えた。
「背景、ちょっと寂しいかな。あ、でも、こうすると、うん。森君、ちょっと右によって。そうそう。薔薇がちょうど入るようにしたいんだ。」
そして、出来上がった写真は山田と僕と薔薇のスリーショットだった。
デジカメの小さい画面の中。
やっぱり哀れな薔薇を見て、僕は思った。
さっきのあれは、やっぱり訂正しよう。
僕は“山田の庭に咲く”一輪の薔薇でありたい。
たとえ、それが冬枯れの庭であっても。
山田に見惚れてもらいたい。
山田の隣でなきゃ、僕には意味も価値もない。
外の空気を吸わないと身体が酸化する云々は、森君の思い込みで、なんら科学的根拠に基づいてはおりませんので、悪しからず。