この世のリアルを映し出し色を成して照らし出されたネガの世界
第八話は森サイドですが、途中から会話のみとなってます。
ネガに写った像だけがリアルだった。
楽しいという色で彩色された記憶を僕はじっと眺めていた。
山田が僕の手の中を覗き込む。
「サークルで合宿行ったときの写真だ。」
「楽しかったから、持ってる。」
「僕もいっぱい持ってるよ。PCに沢山入ってる。見る?」
「うん。」
パチッ。カタカタ。
「ああ、これだ。」
「山田、変な顔。」
「わざとだよ。その方が後で見たとき、面白いだろ?」
「うん。変な顔。」
「森君もあんまり写ってないね。」
「うん。写真は嫌い。魂をとられる。」
「何を、江戸時代みたいなこと言ってるの。」
「ねえ、合宿の写真も面白いけど、僕のお気に入り、見せてあげるよ。」
カタカタ。カタカタ。
「これ。卒業式のときに撮ったやつ。」
「覚えてない。」
「えーっ。人に頼むの、大変だったんだから。」
「僕、横向いてる。」
「僕はちゃんと言ったよ。一緒に写真、撮ろうって。」
「知らない。」
「もうちょっと、こっち向いてくれたら、最高だったのに。でも、これ唯一のツーショットだよ。」
「……」
「いいでしょ?」
「……」
「森君、聞いてる?」
「プリントして。」
「えっ、これ?」
「うん。それ。」
「じゃあ、ちゃんと現像に出す。」
「……」
「大丈夫。ネットで注文しとくから。後で自分でコンビニに取りに行ってよ。」
「じゃあ、それお願いする。でも、今ほしいから、やっぱりプリントして。」
「普通紙しかないけど。」
「いい。それで。」
カチャカチャ。ポチ。
ジーッ。カタカタカタ。ジーッ。
プリンターから紙が吐き出される。A4の紙の四分の一ほどが色に染まっている。二人の大学生が黒いリクルートスーツを着て、卒業証書の筒を片手に立っている。一人は少し横を向いて無表情に。一人は正面に向って、満面の笑みで。
「ねえ、森君。 まだ、、怒ってる?」
「……」
「ごめん。僕、うすうす気づいてた。森君がここに来たときから。でも、森君、行っちゃうでしょ。問題が解決したら。僕のことなんて、見てくれないと思ったから。僕、森君にいてほしかったんだ。」
「……」
「姉夫婦が渡米してから、寂しかったし。僕、森君にすごく感謝してる。だから、許してほしい。」
「怒ってない。君は悪いことなんてしてない。僕が勝手に来て、勝手に君の生活を掻き乱してるんだ。なのに、この間は怒鳴って、僕こそごめん。」
「僕、まだ、ここにいてもいい?」
「もちろん。好きなだけいたらいいよ。食費いれてくれるから助かるよ。それに、森君、家事うまくなってきた。あ、前から気になってたんだけど、働いてないのに、お金どうしてるの?」
「今までの貯金。小学生の頃からお年玉とか、全部貯めてた。」
「森君、意外と堅実だったんだね。」
「……」
「ねえ、森君。これから写真撮らない?」
「なんで。」
「仲直り記念。セルフタイマーでツーショット。どう?」
「山田がそうしたいなら。」
「僕がしたいなら?」
「付き合ってやる。」
「やったぁ。どこがいいかな……家の中はあんまり綺麗じゃないし……そうだ!庭にしよう!僕、カメラ探してくるね。」