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君と僕  作者: 春乃苑香
6/10

烏鷺の惑い紛れる雨露の濡れ夜に辿る迷いの迂路の行き着く先


第六話は森サイドです。


ジャケットだけ羽織って、家を出た。

外は、雨が降っていた。

傘を持って出なかった僕は、だんだん濡れてきた。


僕が悪いんだから、仕方ない。



閉店間近のデパート。

雨をしのぐためだけに入ったはずなのに、

気がつけば、僕は買い物してた。


君が好きな南蛮漬けとか。

君が好きなブリー・チーズとか。

ついでに僕の好きなデンマーク・チーズも買おう。


それから それから


半額のトランクスを見つけた。

あ、これ。君がいつも着けてるブランドだ!

有名ブランドだからね。僕でも知ってるよ。

自分に買ってみよう……これ、元値は結構、高いんだね。



それから それから


ああ、雑誌も買おう。

今月号はたしか天体特集だ。

天体の話、好きなんだよね。



それから それから



それから それから



僕はおもちゃコーナーまで来ていた。

今、僕の目の前に並んでるのは

クラシカルなゲームたちだ。

トランプやウノといった様々なカードゲームと

ボードゲームを小型化したやつ。

旅行とかに持っていく、あれだ。


僕はあまり、いや、全然遊んだことはないけれど。


最近はこんなに小さくて、安くて、色んなのがあるんだな

僕は感心して眺めていた。

そして、それは僕の目にとまった。

囲碁――”烏鷺うろの争い”ともいったっけ。


  烏と鷺

  カラスとサギ

  黒と白

 

とっさに、僕は

相容れぬ君と僕のことを思った。


 

  君はいつも明るくて、社交的で。

  僕にはないものを全て持ってる奴だった。

 

大学のとき、そんな君を僕は羨ましいと思ったことはただの一度もなかった。

僕も君にはないものをたくさん持ってる自信があった。


 

  でも、今。

  僕は何を言えばいいだろう。



分かってたけど。

知ってたけれど。

持ち物の価値は同じじゃない。

多く持ってればいいってものじゃない。


君がもってるものが、社会では評価され

僕の持ち物は評価されなかった。

それは君のせいではないけれど。

口惜くやしくって、君を恨まずにはいられない。



大学の頃。

何に対しても執着のない君は、白かった。

何の裏もない君の表情や発言に、僕は薄っぺらな白を見ていた。


腹に一物いちもつある僕の方が

よっぽど人間らしい、と心のどこかで思っていた。

 

 

  深みのある黒は、薄っぺらな白を凌駕するはずだった

 

 

はずだったのに……

かつて薄っぺらな白だったものは

社会という空を美しく飛翔する一羽のサギに化身し

深みのある黒だったはずの僕は

社会という空に嫌われ、飛ぶこともままならない。

 

  そして、今。

  僕は何を言えばいいんだろう。

 

僕は囲碁セットをもってレジへ行った。

君と囲碁をするところを想像すると、ちょっと笑えたから。

 

僕は追い出されたとこなのに、

もう、君のところへ帰れると思ってる。

君と普通に会話して、君と普通に家で過ごすことを考えてる。

僕は皆が言うように、どこか、可笑しいんだろうか。



デパートに蛍の光が流れ始め

僕はデパートを後にして、雨の中へ。


なぜ、傘を買わなかったのだろう。

ああ、そうだ。

僕は馬鹿なのだっだ。


コンビニで傘を買う。

ジャケットに財布が入ってて、本当ヨカッタ。


雨の中を歩いてると、弱虫で何も出来ない自分を

いよいよ、はっきりと感じる。


いっそのこと、

君も、この雨で、汚く黒くなってしまえばいいのに。

 

 

僕は真夜中になっても帰れず、駅や大学の辺りをグルグル歩いた。

 

君の家は迂回したはずだった。

なのに、行き着く先はやっぱり、君の家で。


 

僕はそっと、ドアを押してみた。

鍵はかかってなかった。

 

 

「おかえり。」

君は寝ないで待っていた。

 

そして、君は

雨に濡れてる僕も、

冷たくなってる僕の夕飯のことにも触れず、

ただ、僕の手に持ってるものを指差した。


「何、買ってきたの?」

僕の買い物袋を覗き込む。

あーとか、わーとか言っていた君の声が、最後の紙袋でとまる。

何だろう?って顔してる君。

「どちらが勝つのか烏鷺うろの争い。」

包みを開いて見せると、

「えーっ、僕、囲碁なんて出来ないよ」

不思議そうな顔をしてる君がいた。

 


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