相互的意識下で刹那ずつ歪み出した致命的欠陥クインテット
第五話は山田サイドです。
昨日、サークルの同級生と飲みに行った。
森君は来なかった。
そこで、森君の噂を聞いた。
会社でひどい虐めを受けてたって。
今、僕の家にいるなんて言えなくて、僕は黙って聞いていた。
会社で虐めなんておかしいけれど、森君なら有り得るかもしれない。
僕が言うのもなんだけど、森君って変わってるから。
そう言われれば、森君は僕の家に来たときから、ちょっとおかしかった。
最初の何日かは客間で寝てたのに、いつの間にか、僕のベッドに潜りこんでくるようになった。
僕は追い出そうと何度か試みたけれど、追い出しても、追い出しても、森君は来るんだ。
それで一緒に寝るようになったのだけど、森君は毎晩、うなされるんだ。
起こそうとしても起きなくて、その内静かになる。
毎晩うなされてるくらいだから、きっと森君自身も思うところがあるだろうに、何も言わないから、僕も何も聞けない。それに、森君は後ろから、肩をたたくと、すごく怒る。最初に怒られたとき、そんなこと気にする奴だったかなぁ?と不思議に思ったくらいだったけど。森君は必ず、僕の背後にまわってくることに気づいた。要するに、僕に背後をとられたくないんだ。
会社から帰ってきた僕はその日疲れていて、ちょっぴりいらいらしていた。だから、台所で食事の準備をしながら、僕の背後をこそこそと動き回るのがうっとうしくて、僕は森君を怒鳴りつけてしまった。「邪魔だからっ!どっか行っとけよっ!飯なら、出来たら持って行ってやる!」
森君は黙って、家を出て行った。バタンと音がしたその後。テーブルにきれいに皿が並べられていた。
森君、ごめん。
僕らの周りには雑音が多すぎる。
耳障りな音たちは重なり、共鳴しあって
五重奏みたいに、あとから後から追いかけてくる。
どんなに美しい音楽も要らない。
二人だけの世界だったらいいのに。
森君、ごめん。
森君は優しいのに、僕は森君の優しさの理由を疑ってるんだ。