絶対なる神に無償の慈愛を求めると言う驕った過ちをも称う
第三話は森サイドです。
「どこへ行ってたの?」君が尋ねる。「教会。」僕が答える。
「へえ。そんなものが近くにあったんだね。」「大学の近くだよ。知らなかった?」
「何かをお願いしてきたの?」「うん。」
「えっ、ほんとに?!どんなこと?」
「もう苦労しないでいいように、無償の慈愛をお与えください、って祈ってきたよ。」
君が、という主語を抜いたのは僕のエゴ。
絶対なる唯一の神?
無償の慈愛?
そんなもの、元々どちらも信じていない。
ただ、君のいない君の家にはじっとしていられなくて。
だからといって、何をする気にもなれなくて。
勝手知ったる大学周辺だからと、散歩を始めたら、知らない路地にたくさん突き当たった。
教会なんてのがあった。
目に入ったら、扉を押してみたくなった。
扉が開いてたから、入ってみた。
入ると、話しかけてくる人がいた。
その人は色んなことを僕に言った。
その人は話が上手くて、僕はちょっとその気になってしまった。
他人のために祈ろうなんて、ちょっとした気まぐれだった。
僕のもつ感情はただの驕りで、すぐ他者に縋るのはただの過ちだ。それなのに「それ、いいねっ。僕も今度、お願いしてこようかな」なんて、君は明るく笑って言えるんだね。
こんな僕なのに。本当に、君は僕の全てを、認めてくれる。君は気づいてないかもしれないけれど、教会になんて行かなくたって、君という神に僕は救われてるんだよ。
君が苦労しないように、やっぱり明日もお祈りにいこうか?
うん。
苦労させてるのは、僕だ。