夢の果てを越えた現の夢の果てにある境目のない現をこそ夢見る
第二話は森サイドです。
実験室ってすごくいい。
真っ白な白衣もいいし、金属とかガラスとか無機質な感じも、とてもいい。
僕は実験室にいたかった。
だから院まで行ったし、がんばって就活もしたつもり。
でも、4月になって僕がいるのはオフィスだった。
実験室じゃなきゃ、どこも意味ないのに。
現実世界で、僕はもう十分にひどい目にあってる。
それなのに、夢でも僕は怖い思いをする。
あの上司がべたべた僕の身体に触ってくるんだ。
にたにた笑う脂っぽい顔も、すぐにうわずる怒鳴り声も、あの上司の全てが嫌いだった。
夢だと分かっていても、気持ち悪い。
あんまり気持ち悪いから、言ってやった。
「いい加減にしろっ!この馬鹿!」
みごと上司を撃退!ざまあみろ。
僕も結構、やるんだぞ。
すると、場面が変わって、山田が自分の家の玄関で笑ってる。
これはまだ大学生の頃の話だ。
サークルの奴らがつれだって、合宿という名目で山田ん家にどやどや押しかけた。
僕も後ろから付いていく。
だって、山田の家に興味があったから。
僕を見つけた山田はちょっと意外そうな顔をするけど、すぐに笑って迎えてくれる。
「あ、森君。来たんだ。入れよ。」
楽しかった。
夢の果てで、僕は幸せだった。
実験室はすごくいい。だけど、君の家もすごくいいと思った。
朝。目覚ましがジリジリいうと、山田が手をのばして、それを止める。それから山田は五分ほど、必ず二度寝する。その五分間、うつろな意識の中で、僕は山田の体温を隣に感じながら、さっきの夢のつづきを見る。夢か現か、そこには境目がない。そして、そんな現実こそ、僕が欲しいと夢見るものなんだ。
君には黙っていよう。
君のところへ行きたくて、家賃を滞納してたこと。
まさか、本当に追い出されるなんて思いはしなかったけれど。