平穏安寧静泰な日々の上で刻一刻と肥大化した脳内爆弾のリミットへの祝福
第十話は山田サイドです。
僕はその写真を見ると、自然と顔が綻んでくる。森君が嫌がるから、僕は写真立てを自分の部屋に置いた。冷蔵庫に貼ろうかとも思ったけど、これも森君が嫌がりそうだからやめた。
あれから、毎日が幸せだ。だからといって、僕らの状況が変わった訳ではない。
森君は、僕の家に転がり込んできたただの居候で、大学時代からの友人。
最近は森君もずいぶん、落ち着いてきた。
昨日なんて、気づけば、僕、森君の後ろから肩たたいてたし。
とりあえず、背面恐怖症はなくなったんだ。よかったね。森君。
それに、最近。森君は頻繁に出かけてるみたい。
結構、忙しそうだ。
きっと、森君は新しい生き方の模索を始めたんだ。
僕にはわかる。
森君が僕ん家という救難テントを出て行く日も近いことが。
森君はここで終わる人じゃない。
きっと、ここから飛び立っていく日がくるだろう。
そして、一度飛び立てば、彼は二度とここへは戻ってこないだろう。
リミットは確実に近づいてる。いつか、終わりがくるだろう。
でも、それまでは、ここにいよう。
ここが森君と僕の家だから。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
僕らは家族でもないし、恋人でもない。
それでも一緒に暮らした。
一緒にご飯を食べた。主に、僕が作って。君は食べる人で。
初めて、用意を手伝ってくれたとき、僕、本気で感動した。
その後、同居人なら、当たり前のことだって気づいたけれど。
部屋はいっぱいあるのに、一つのベッドで寝た。
そのことで、最初、言い争ったよね、窮屈だって。
あの時は安らかな睡眠を妨害する森君を本気で怒ったけれど、今なら笑える。
ほかにも、他愛もないことで喧嘩したね。
雨の中出て行った森君を一晩中、待ったこともあった。
その後食べた南蛮漬けは、なんだか味がよく分からなかったよ。
そして、この写真。
僕にとって、最高のプレゼント。
僕らがここで暮らした、確かな温もりを写真が教えてくれる。
大丈夫。
この写真があれば、君が離れていくのも怖くない。
そして、その日がくれば、僕は笑顔で祝福しよう。
森君の脳に、僕の笑顔が刻みこまれるように。
<おわり>
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