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比較的短い文の為、すぐに読めると思います。
不快に思われた方はBackをお願いします。
人はなぜ、人を殺すのだろう。
人はなぜ、擁護するのだろう。
千夏は、傍聴席の席に座って、被告人席を見つめていた。刑事裁判第102号室。
容疑―――殺人。
証人席には、憔悴しきった様子の女性が立っている。
千夏の周りには、記者が隙間なく座っていた。必死にメモを取る人々の中、千夏は広げたスケッチブックに、イラストを描いていた。
描かれているのは、男性の姿。髭の生えていない、端正な顔立ちだった。
「―――以上で、証人への証人質問を終わります」
誰かが言った。
その声を耳にしながら、私は次のページをめくった。
「では、被告人は前へ」
声が響くと、イスから男と刑務官が立ち上がり、彼を誘導する。
―――…。
「―――被害者を殺害したのは、あなたで間違いありませんか?」
「はい」
声は、控えめだった。
「動機は…何ですか?」
「特にありません」
傍聴席から、僅かにざわめきの声が響く。
「動機が、ないのですか?」
「はい」
「動機もないのに、なぜ殺したんですか?」
「見てて…イラついたので」
私は、スケッチブックに描きながら、鉛筆の力を強くした。ポキっと芯が折れた。
「では何故、被害者を殺害するのに、生き埋めという方法をとったのですか?」
「一番、楽だったから…」
「楽、とは?」
「血が着いたりしないでしょ?手間かかるのが嫌だったんですよ。…でも。やりすぎだったと思ってます」
私は睨むように顔を上げ、被告人の背中を見つめた。
―――やりすぎ。
この日は、最終審理。彼は、事件当時大学生だった。それから2年。
求刑は―――10年。弁護士が付き、更に刑は軽くなる。司法取引とはならないものの、当初から正直に話していること、反省しているとみなされており、8年以下とみられている。
だが私は、それが耐えられなかった。
亡くなったのは、当時私と同じ年だった、女性。
何の落ち度もなく、被告人と友人関係だったという。なぜ、そんなにも簡単に犯行に及んだのか。
私は、徐々に筆圧が高くなっていくイラストを見つめた。
―――――――――――――――――…。
裁判長は判決を言い渡した。
「主文。被告人を、懲役7年とする」
傍聴席の大半の記者が、駆けだして行く。私は、イラストを見つめ、そうして、被告人の背中を見つめた。弁護士たちは、ほっとした表情で、淡々と書類を見ては頷いていた。
読んで頂きありがとうございました。