4話 孤独な戦い
ブックマークありがとうございます。
意識が少しずつはっきりしてくる。
頬にあたる冷たい感触と一緒に、微妙にチクチクとする感覚で目が覚める。
どうやらうつ伏せで寝ていたようだ。
気絶ばかりしているような気がするが気のせいということにしておきたい。
「はあ〜」
ため息が出てくる。
せっかくの異世界だというのにステータスは低いし、いきなりの訓練でボコボコにされるしでいいことがない。
運50は当てにならないのかもしれない。
いつまでも落ち込んではいられない。
現状をまずは確認しなければ。
起き上がろうとすると体中に激痛がはしる。
「痛づッ!」
痛てええええええ!
腕を動かそうとしただけでこの激痛、起き上がるのはまず諦めるか。
指を動かすのも厳しそうだ。
現在はうつ伏せで左を向いた形で寝ている。
激痛のせいで身体を動かすのは無理。
目を動かすぐらいしかできない。
目の前には壁。
薄暗いが、少しゴツゴツした壁があることはわかる。
床も壁と同じくゴツゴツしている。
しかし、わかるのはそれだけだ。
目だけでは周りの様子なんてわかるはずがない。
仕方ないので首を右に向ける。
「ぐ…うううううううう!」
首を少し浮かせただけで激痛。
本当に勘弁してほしい。
右を向くだけで一苦労だ。
なんとか右を向くことができた。
そして、右にあるのは壁だ。
それ以外は何もない。
あれだけ痛みを我慢したというのに結果わかったことは右にあるのは壁ということだけ。
「はぁ〜」
また、ため息が出てくる。
壁以外に何かないのかよ。
何もないとかおかしいだろ。
おそらく召喚された建物の何処かの部屋だとは思うんだが。
ちなみに右を向くときに正面、つまりうつ伏せの今の状態から頭がある方にあたる場所も壁しかなかった。
残るは後ろ(足が向いている方)になるんだが、また痛みを我慢しなければいけないのか。
しかし、入り口はあるはず。
それ以外にも何かあると思われる。
痛みを我慢して足の方向を確認する。
「んぐうううううう…」
もう少し……。
左頬が床に擦れヒリヒリするが何としても確認したい。
そして後ろにあるものを確認できた。
壁ではなかった。
「はぁ……はぁ……」
体勢を戻し息を整える。
「はあぁ〜…」
そして、盛大にため息をついた。
なぜかって?それは鉄格子が見えたからだよ!
ここって牢屋じゃん!
俺が何したってんだよ!
怪我したやつを牢屋に入れて、俺に死ねってか!
ふざけんなあああああああ!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ま…いいか。
今すぐ死ぬわけではないし。
ここが牢屋で怪我をしており、只今ピンチ。
状況確認終了。
次は、これからどうするか…だよな。
そもそも、何故俺は牢屋に入れられたんだ?
考えられるのは、俺が勇者じゃないから?
弱い奴の面倒は見られない?不必要?
殺して処分するっていう手もあったはず。
それか、追い出しても良かった。
なのに牢屋。
追い出してうろちょろされると困るから?
なぜ?……異世界人の存在を隠したいから?
勇者召喚をしたことを知られないため?
なぜ?……。
わからないな。
情報が足らなすぎる。
もう少し情報がほしいな。
四つん這いになり、鉄格子の方へ向かう
「はぁ…はぁ…痛っ!」
痛みを我慢して鉄格子へ向かう。
両腕はプルプル震え、足はガクガク。
それでも鉄格子へと向かう。
少しずつ、少しずつ前へ進み。
鉄格子へとたどり着いた。
「はぁ…はぁっ」
「誰かー!」
鉄格子に掴まり、力を振り絞り叫ぶ。
鉄格子の向こうは薄暗く、自分の声が少し反響する。
「おーい!」
しかし、返事はない。
自分の声だけが虚しく暗闇へと消えていくだけだった。
「はぁ…はぁ…」
叫んだら、空腹感が押し寄せクラクラする。
鉄格子に掴まっていられなくなり、仰向けに寝っ転がる。
「はぁ…はぁ…やばいな」
怪我に空腹、しかも牢屋の見張りは居ない。
他にも牢屋はあると思うがここには俺一人だけらしい。
食事を運んできてくれればいいけど、望み薄かな。
牢屋に閉じ込めて、餓死させてもいいと考えているのだろう。
なら、殺さなかったのではなく殺せなかった。
殺す時間がなかったから、牢屋に放り込んだってところだろう。
……いや、それはおかしいな。
だめだ。空腹で頭が働かない。
今は休んで少しでも怪我を回復させるか。
空腹が邪魔をするがなんとか眠ることができた。
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・・・・・・
・・・
『HP自動回復(微)を覚えました』
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・・・・・・
・・・
「ふぁ〜…腹へった」
目が覚めると腹が食べ物を要求してくる。
怪我はまだ少し痛むが回復しているようだ。
今日も激痛を覚悟していたが、思いの外回復していて助かった。
さて、あとは食べ物なんだがどうするか。
立ち上げると、空腹による目眩がする。
駄目もとで鉄格子の向こうへ呼びかける。
「おーい!誰かいませんかー」
返事なし。
餓死上等。
いやいや、まだ諦めるのは早い。
誰か来るのは期待するだけ無駄。
それ以外で食料確保、またはここからの脱出。
鉄格子を蹴ってみる。
ガンッ!
もっと蹴ってみる。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
鉄格子はびくともしない。
鉄格子の破壊は無理そうだな。
それ以外で脱出できそうな場所を探す。
部屋中を見回すと、鉄格子とは反対の壁の上方に明かりが入ってくる小さな窓がある。
窓には鉄格子が縦に二本。
少し登れば手が届きそうだ。
「外に誰かいるかもしれない」
早速登ってみることにした。
壁はゴツゴツしていて、登れなくもない。
「よっと」
鉄格子に手が届き、二本それぞれに掴まる。
窓の大きさは、横が肩幅より狭く高さは顔がギリギリ入らないほどの大きさだ。
ここから出られるとは思っていなかったが、念の為大きさを確認。
外の景色は、まず地面に雑草が所々生えており、10mぐらい向こう側に木々が生えている。木々が邪魔してそれ以上向こう側は見ることができない。
空は青く雲ひとつない晴天だ。
肝心な人はというと、いない。
話し声も聞こえない。
「誰かー!」
呼んでみたが、やっぱり人はいないようだ。
召喚された部屋や、訓練場があるような建物なら見回りしていそうなものだが、ここには見回りはこないのか?
牢屋があるから見回りはあるはず、ならたまたま今は見回りがない時間ということだ。
そのうち来るだろう。
鉄格子から手を離し、着地する。
登ってみてわかったのだが、ここの牢屋は地下にあるらしい。
見回りが来るまで時間もあることだし、部屋中の壁や床を調べ隠し扉的なのがないか確認する。
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・・・・・・
・・・
そんな都合のいいものはなかった。
当たり前だよな。
仕方ないので、床に座り小さい窓を睨むかのようにジッと見回りが来るのを待つ。
・・・・・・・・・・・・
とにかく待つ。
・・・・・・
待つ。
・・・
来なかったorz
空が茜色に染まり日が沈む。
空腹が限界だった。
やばい…マジ餓死る。
「カァー」
かぁー?ふと顔を上げると小さな窓からカラスがこちらを見ている。
この時俺の頭はあまりの空腹でおかしくなっていたのだろう。
脳内ではこのような変換が行われていた。
カラス?→トリ?→ニク?→ヤキトリ!
「ヤキトリー!」
叫んだのと同時に壁にダッシュ!
壁を蹴りジャンプ!
手を伸ばしカラスをチャッチ!
カラスは急に叫んだもんだからビクッとして、逃げるのが遅れた。
おかげでヤキトリを手に入れることができた。
「やったー!飯だー!!」
ヤキトリを高々と掲げ、喜びで涙した。
そして気付く。
火がないことに。
悲しみで涙した。
・・・・・・・・・・・・
「カァー」
ショックで掲げたまま固まっているとカラスが鳴く。
「そういえば、こいつ全然暴れないな。」
目の前にカラスを持ってきて観察する。
カラスだ。
黒い。
しかし、元の世界で見たカラスより一回りデカイ気がする。
目も紅し。
いつの間にかカラスも俺を見ている。
見つめ合う俺とカラス。
カラスが仲間になりたそうに(ry
なんていうものは出てこない。
当然選択肢も出てこない。
ま…もし出てきていたとしたら
▶はい
いいえ
当然『はい』を選ぶけどさ。
だって、火ないし。食えないし。
カラスだからモンスターではないけど、そういうの憧れるでしょ?
『ブラックバードをテイムしました』
「はいいいいいいいいい!?」
新しい仲間が増えました。
鎌はまだ先になりそうです。
牢屋ですからね?手に入らないんですよ。