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#07 ダンジョンで迷子。

 次に視界が戻ったとき、足元の床がいつの間にか消えていて、最初に感じたのは一瞬の浮遊感だった。


「どぅわっ!?」


 そんな悲鳴とともに、俺は地面に顔からすっ転んでしまった。その拍子に手放した剣が地面に落下して、金属音を響かせる。


「きゃっ!」


 間髪容れず、可愛げな悲鳴を零しながら覆い被さるように倒れてきた朝妃に、俺はブギュエッと無様に押し潰される。が、不思議なことに痛みはあまり感じなかった。あと、背中になんかフニフニしたのが当たってますねハイ。


「あ、ごめん!」


 朝妃が咄嗟に謝って、ぱっと俺の上から退く。自分の背中から重みとやわらかい感触が消えるのを感じながら、俺はその事を少々残念に思いつつ体を反して身を起こした。尻を地面に付いて足を投げ出した恰好になる。

 うーん、でももうちょっとふよーんってなっても良かったんじゃないの? いや高二の平均とか知らないけどさ。だから取り敢えず俺は、朝妃の方へ向き直るとまずグーサインを突きつけてやった。


「まだ成長途中だぜ、きっと」

「うるさいしっ!」


 朝妃が胸を隠すように両腕をクロスさせて、瞳を若干潤ませながら咎めるような視線を向けてきた。ははは、複雑なお年頃なんですね。だから同い年だって。


「はー……それにしてもどこだここ……」


 少し前にも、あの純白の世界で同じようなセリフを吐いた気がするが、今回は自力で答えが導き出せそうだ。

 ぐるりと首を巡らせると、そこは普通に洞窟だった。ゴツゴツとした岩壁には等間隔で篝火(かがりび)が並び、それが照らし出す洞窟は少し先で折れている。僅かに湿った石畳の床がちらちらとオレンジ色に瞬いていた。

 その光景に俺は、自分がダンジョンにいるのだということを即座に理解した。


「……つーことは、ワープしちゃったのか俺ら……」

「え? なにそれ」

「さっきのあの部屋あったろ。あれがワープ部屋だったんだよ、多分。知らんけど」

「うわテキトーだ……」

「確定的な情報が無いんだからしょうがねぇだろ。取り敢えず、ダンジョンに潜るのが目的だったんだから結果オーライじゃねぇの。まぁ回復薬みたいのがあるなら、そういうのも買い込んでおきたかったけどな……」


 そんな緊張感に欠ける会話をしながらも、俺は細かく背後をチェックしていた。がしかし、一向に追手が現れる様子が無い。

 その理由は不明だが、しかしこうして改めて考えてみると、封じられていた扉を無理矢理開けたのって結構マズかったんじゃないの? という気もしてくる。もしかするとあのワープ部屋には何らかの問題が存在し、衛兵達はそれを恐れて追って来ないのではないか。


 ――いや。

 その推測の正否を確かめる手立てがない今、これ以上の思索は時間の無駄だろう。いずれにせよ、長時間を同箇所に留まっているのは危険だ。事実がどうあれ、一旦この場を離れる必要がある。

 俺はよっこらせと立ち上がると、数歩先に横たわる自分の剣のもとへ歩いて行って、軽く腰を屈めた。


「朝妃、それ持っといてくれてサンキューな」

「あ、うん」


 差し出した手に鞘が返され、俺はそれに拾い上げた剣を滑り込ませた。

 鞘の両端から伸びる革ベルトに体を通し、うまい具合にフィットするよう長さを調整する。その後何回か身体を動かしてみて背負った鞘が動かない事を確認した俺は、一度大きく頷いた。


「よしっ、行くか。……つっても当てはねぇけど。取り敢えずその辺を彷徨ってみるしかねぇな。マジでここがダンジョンなら、どんな危険があるか分かんねぇから、お前も神経尖らせとけよ。そんで、ちょっとした違和感でもいいから何か感じたらすぐ言え」

「らじゃっ!」


 気持ちのいい返事をして、朝妃が額の辺りにビシッと手を添えた。……うん、やる気十分なのは良いんだけどね、それは敬礼じゃなくて《見渡すポーズ》だぞ幼馴染よ……。


「ああ、そうだ。モンスターと遭遇しない内に、魔法とか特技の使い方とかも覚えとかねぇとな……。朝妃お前、魔法出せるか?」

「できる訳ないじゃん」

「だよなぁ……。んじゃま、メインメニュー開いてみそ」


 言われるがまま、朝妃がメインメニューを呼び出した。アナザーワールドへ来たばかりには【????】と表示されていた欄に、【会得済み魔法一覧】なる文字列がある。ちなみに俺の方は【会得済み魔剣技一覧】。

 先ほど武器を正式に買って、手に取ったときにこの項目が出現したのだ。その時気になってはいたのだが、まぁ状況が状況だったためにゆっくり確認している余裕が無かったという訳である。


「あ、これか」


 朝妃がそこを素早くタップすると、メインメニューに重なるように新たなウィンドウがポップアップした。当然ほとんどの項目が無記載だが、上から幾つかはその限りではない。


 【火属性下位魔法《レッド・スフィア》:火炎の圧縮球を生成、及び射出する。詠唱終了後、対象へ杖を振り下ろすことで発動。】


 最上欄に、技名とともにそんな説明書きがあったものの、しかし神様の異世界レクチャー同様、なんとも中途半端でアバウトだった。


「詠唱って何!?」

「いいから落ち着け。一番下見ろ」


 と朝妃にウィンドウの最下部に目をやるよう促した。そこには追加の記述が添えられている。


「あ、ほんとだ。えっと……《魔法名称を思い浮かべることで詠唱開始》――って、だから意味分かんないし!」

「文句ばっか言ってないで試してみりゃ良いだろ。取り敢えずこの《レッド・スフィア》ってのをイメージしてみろよ」

「うーん……よく分かんないけどやってみる……」


 と、朝妃はおもむろに目を瞑る。眉根を寄せてうんうん呻っていたが、数秒ののち不意に「あ」と声を上げた。


「なんか頭の中に文字が浮かんできた……」

「だったらそれを口に出して読んでみろ」

「あ、うん。えーっと……ファイア・コンプ……レッ、ション・スフィア……トラック・シュー、ト?」


 中々にたどたどしいスペル詠唱だった上、ラストなんか疑問形になっていたのだが、それでも大丈夫らしい。朝妃が最後のワードを口にすると同時、彼女の手にする片手杖が赤みがかった輝きを(まと)った。


「わ! 杖が光った! ねぇ見てこれ! すごくない!?」


 と、その場でぴょんすか跳ねながら、自慢げに杖を目の前に突き出してきた。それを俺は静かに片手で制しながら、一つ溜め息を零す。


「うるせぇよ、その程度ではしゃぐな。光る杖ならドンキとか遊園地でも買えんだろ」

「……えー、そういう言い方するとさぁ……なんか冷めるじゃん……」

「お前のテンションなんか知るか。はよ撃て、はよ」

「もー、冬馬ってほんとつまんないよね! ……じゃあいくよ――」


 と、俺のことを軽くディスりながら、朝妃がやる気満々に杖を掲げた。

 ――だが、杖が振り下ろされる寸前。

 俺は咄嗟に動いていた。彼女の腕を掴んで魔法の発動を中止させるために。驚きと同時に、いくらか不満げな表情を見せる朝妃だったが、俺は自分の唇に人差し指を当てるジェスチャーをして静かにするよう伝えた。


 なにゆえ俺が突然そのような奇行に走ったのか。


 それは、視線の先――つまり朝妃の背後に気配を感じたからだった。

 よくよく目を凝らすと、篝火に照らされた壁にゆらりと黒影が浮かび上がっていた。まだ角を曲がった先にいるので主の姿は拝めないが、影だけでも相当の巨体であることが窺い知れる。


 ――早速出たか……。


 まだ距離はかなりある。だが戦闘に慣れていない今、いきなり接近戦に持ち込むのは無謀だろうという気がした。そしてもう、遠距離攻撃の手段ならある。

 朝妃の武器に片手杖を選んだ過去の自分に、そして逸早く朝妃に魔法の使用方法を覚えさせた自分に、俺は密かに賛辞を送った。


「朝妃、あの影、見えるか」

「……うん」

「多分もうすぐあそこからモンスターが出てくる。そしたら俺が合図するから、撃て」

「分かった」


 小さく頷いたのを見届けてから、俺は朝妃から離れた。邪魔にならんよう数歩分だけ距離を取って、影の動向を見守った。

 ゆら、ゆら、と次第にその面積を広げてゆき――。

 壁の端に本体のシルエットを視認した。


「今だ!!」


 俺の合図。

 朝妃が振り下ろした杖の紅の残像が宙に映える。

 彼女の眼前に突如として光の膜が同心円状に現れた。静かに回転するそれを形作っているのは、無数の微細な文字の連なり。中心から陽炎が吹き出し、うねり、収束し、一瞬にして真っ赤に燃え盛るバスケットボール程の熱塊となった。

 そして――。


 ぼっ! という低い破裂音とともに火球が撃ち出された。周囲の空気を焦がして飛翔し、緩い螺旋(らせん)を描きながら巨大なシルエットへ襲い掛かる。直後に響く爆発音。

 膨れ上がったエフェクト光が洞窟内を染めると同時、標的が瞬時に火だるまと化した。


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