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#03 大変そうだけど。

 取り敢えずメインメニューを閉じてそれから周囲を見回そうと顔を上げた時、不意に背後から肩を叩かれた。まさか異世界に来ていきなり人に絡まれるとは思っていなかったので、内心ちょっとビクつきながらおもむろに振り向く。

 が、そんな必要は全然無かった。


「あ、やっぱり冬馬だ」

 と俺の顔を見た途端、すぐ背後にいたその女子の表情がぱぁっと華やいだ。一方の俺はというと、無駄に緊張させていた肩の力を抜いて一つ溜め息を零す。

「なんだ、朝妃あさひか」


 服は俺と同様に質素で飾り気のないもの――制服に依拠(いきょ)しているのか、下半身はズボンではなくミニスカート――だったが、茶色っぽいショートヘアと睫毛の長いパッチリお目々は、まさしく見慣れた幼馴染のものだった。

 すると一体何が気に入らなかったのか、朝妃がむっと頬を膨らませる。


「何だとは何だ! 折角こんな美少女が迎えに来たのに、その態度はないんじゃないの?」

「自分で言っちゃうところがもう美少女じゃないんだよなぁ……」


 なんか悔しかったので反射的にそう返したものの、確かに一般的な観点からして朝妃が可愛いことは認めざるを得ない。

 容姿やスタイルは言及するまでもなく、性格もちょっとおバカで残念なところはあるが良い悪いで言えばめっちゃ良いし、一歩間違えたら今頃プロポーズしちゃってるまである。まぁ実際は保育所からの長い付き合いの所為で恋愛対象として見らんねぇんだけど。


 でもとにかく、真の美少女は自分で自分のこと美少女とか言わないの! ……ところで真の美少女って何。

 するとそこで俺が美少女の真理について思いを馳せるよりも早く、朝妃がぱっと俺から距離を取った。腰の後ろで手を組んで、軽く腰を折りながらにぱっと笑う。


「それにしてもパートナーが冬馬で良かったぁ~~」

「そうか? 自慢じゃないが俺は頼りになんねぇぞ。ちなみに、俺はもっとこう――少年漫画の主人公並みに頼りになる奴がパートナーだと嬉しかった」

「ひどっ!? しかもうちのクラスにそんな人いないし!」


 だってそうじゃーん。可愛いだけの女子とか使い物にならねぇじゃーん。こいつ絶対いらん事するもーん。いやマジで。

 下手をすると、帰り道に『タイルの白いとこ以外は全部マグマ』とか言ってぴょんぴょん跳びながら下校した挙句、足を捻挫して、俺が背負って家まで送ってく事態にもなりかねない(経験談)。

 まぁあんまり仲の好くない奴と組まされるよりか幾分マシだけど。


「ってか別に、頼りになるとかそういう意味で言ったんじゃないんだけど……まぁいっか。……それで? あたし達これからどうすれば良いの?」

「あのなぁ、俺だってこのよく分からん状況にたじたじだっつの。そんなん訊かれたって答えられるわけ無いですやーん」

「その喋り方どしたの」

「え、そこ食い付くの?」


 別に今のは流してくれて良かったんだけどな……。話は変わるが、何で関西人って関東人のエセ関西弁聞くと不機嫌になるんだろうな。関西人の雰囲気が伝染してつい口を衝いて出ちゃっただけなのに……。

 中学時代、関西弁の人に道を訊かれた際にノリで関西弁で答えたらちょっと怒られた時のことを思い出しながら、俺は腕を組んで再度の溜め息を吐いた。


「まぁ何にしても、最優先にすべきは情報収集だろ。このアナザーワールド? について分からん内はどうしようもない」

「オッケー! そうと決まれば早速聞き込み調査だ!」

 と何やら意気込んで胸の前でこぶしを握る朝妃に、俺はジトっとした視線を向ける。


「お前、ちゃんと分かってる? いきなり『この世界はどんな所ですか?』って尋ねるつもりじゃねぇだろうな」

「えっ、ダメなの?」

「逆に何がダメじゃないのかこっちが訊きたいわ……。そんなド直球、タッちゃんでも投げねぇぞ。逆の立場になって考えてみろよ、自分だったら変な人だと思うだろ」

「ああ……そっか。っていうか、タッちゃんて誰?」


 ……あれぇ? まさかのジェネレーションギャップ? いや同い年だろ。

 うーん、幼少期から親父の部屋に遊びに行ってた弊害(へいがい)がまさかここで出るとは……。この分だとこいつ、憧れの女子キャラランキング一位のあの南ちゃんも知らないんじゃないの? 因みに二位・三位はラムちゃんと不二子ちゃんね。……ジェネレーションギャップだなこれ。


 まぁその話はどうでも良いとして、わざわざ聞き込みをせずとも多少なりとも推測できることはある。

 俺はもう一度、宙に指を走らせて再びメインメニューを呼び出す。そこには先ほどと変わらぬ、幾つかの見慣れた単語が並んでいた。


 【アイテム】【装備】【ステータス設定】などなど……。更には視界左上端の【Lv:1】という固定表示。その隣には【300/HP】の薄めのフォントと共に、緑の横棒が表示されており、同様に、その下にも青い横棒と【100/MP】なる表記がある。それらはどこへ顔を向けようとも、常に視界の同じ場所にあり続けている。


 もはやゲームだ。


 ここまでくると異世界というより、VR世界の方がしっくりくるほどだった。

 そしてHP・MPやステータスなる概念が存在するという事は――すなわち町の外では、命を削る展開、つまり《戦闘》が待っている事を示唆(しさ)している。何との戦闘かって言うと、それは当然、怪物とか魔物とかモンスターとか。下手すると母ちゃんまでいるかもしれん、何それラスボス。

 とまぁそれらの事実と先ほどの神様の言葉から類推するに、『来たる決戦に向けての1年間、ここアナザーワールドで戦いそして強くなれ』ということなのだと思う。


「フッ……」


 と我知らず零した不敵な微笑みに、朝妃が訝しげに俺の顔を覗き込んだ。けれど今更朝妃にどう思われようと知ったことではない。

 ようやく異世界トリップという超常展開への実感が体中を満たし始め、俺の心は今までに感じたことの無いほど期待に打ち震えていた。


 異世界? 戦闘? 上等だコラ。


 小5の頃から憧れ続けた世界だぞ。ビビってなんかいられるか。

 一体何の為に、常日頃からイメトレに励んでたんだ?

 一体何の為に、学校の柱に思い切りパンチして拳を赤くしたんだ?

 一体何の為に、小中の修学旅行で買った木刀を家の庭で振ってたんだ?

 それはいずれ俺にも訪れると信じていた、この日の為だろう。


「――やってやるよ。必ず生き残って……超デカいのを倒してやろうじゃねぇか」


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