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#38 飛んで。

 俺が説明を終えて一息吐くと、佐瀬(させ)は納得の相槌を打った。


「へーえ……なるほど。道理でそんなにレベルが高いわけね。427ってあれじゃない、ラスボスの二倍もあるじゃない? 何だかウチが頑張ってたのが無駄になった気分だわ……」

「そんなことねぇだろ。レベルが上がればそれだけHP上限とかだって上がる訳だし、単純に死ににくくなる。だから利里(りり)も少しでもレベルは上げといた方が良いぞ」


 急に話を振られた利里が、ぴくっと肩を震わせてこくこくと何度か頷いた。しかし実を言うと、俺の話の中には俺自身ですら納得していない点が一つある。もし二人がゲームをよくやる人間だったなら気付くはずなのだが……まぁいいか。

 俺は質問が重ねられる前に、それまでより少し身を乗り出した。


「次は俺から質問な。ここどこ?」

「ノーザリア帝国リーベンゴッツ領タームの町北の森」


 お、どっかで聞いたことがある国名だと思ったら、確かアトラールの北にある国じゃん。同じ大陸なら御の字とか思ってたけど、思った以上に近かったな……。


「まぁいずれにせよ、出来るだけ広範囲の地図が欲しいな。ああ……でもそのタームの町ってのは、町長さんが激おこぷんぷん丸かもしれんのだっけ」

「でも夏風、あんたそんなに強いんだったら皆やっつけちゃえば良いじゃない。そうしてくれるとウチらもありがたいし」


 確かにそういう意味ではまったく問題ないのだが、俺としても、出来るだけ人間とは戦いたくないという思いがある。


「……んー、別にあいつらに直接何かされた訳じゃないからなぁ。お前らと違って俺には戦う理由が無ぇんだよ。やっぱ他の適当な町に行って探すわ」

「でも、タームの町以外だったら30キロは離れてるわよ? 直接行った事は無いから聞いた話だけどね」


 言いながら西の空を指差す佐瀬を見つつ、俺は顎に手を添えて軽く計算をしてみる。30キロ。リアルワールドで例えるなら大体、東京駅から幕張といったところだろう。だが今の俺にとってはその程度、学校の通学路と大して変わらない。


「30キロなら、5分ちょっとってとこか」

「は? 何が?」

「何がって……所要時間だけど」


 っていうか、その女子高生特有の『は?』って地味に傷付くんだよね。他人と会話するのがそもそも久しぶりだから尚の事……。まったくよー、『え?』とか『ん?』とかもっと可愛く言えないの? それにしても最後にニッコリ顔文字がくっ付いてたときの怖さは異常。

 そして今まさに、佐瀬(させ)が浮かべていた表情もそんな感じだった。真面目に答えろよ♪ みたいな顔をしていた。超マジなんだけどな俺……。


「信じらんねぇならそれでも構わねぇよ。取り敢えず俺は別の街に行く。そんでどっかの店で地図を買って、アトラールに帰る」

「帰るって、夏風あんたね……。最初に神様も言ってたでしょ、最低でも2000キロは離れてるって。運良くそれぐらいだったとしても何ヶ月かかるか分かったもんじゃ――」


 肩を竦めて呆れ半分に首を横に振る佐瀬の言葉を遮るように、俺は立ち上がってコートを翻した。


「あー……もう、説明すんの面倒くせぇわ。とにかく俺はもう行くぜ。まぁ佐瀬は結構戦えるみたいだし、利里さえ人質に取られてなけりゃ俺が居なくても何とかなるだろ。あと、あそこに山積みになってる宝箱の中身、全部お前らにやるよ」


 俺が言いながら、クレーターの真ん中に積まれた宝箱の山を指差した。俺とともにダンジョンから排出された『未発見宝箱』である。

 しかし予想に反して佐瀬はあからさまに不機嫌そうに首を捻った。


「いや意味わかんないんだけど……」


 えー……何だよこいつ。もっと喜べよ。さては、あれだけの魔石があれば国すらも買えてしまうレベルのお金が手に入るってのを分かってねぇな? それにしてもあの量、いったい何イリスになるのやら。俺はもう十分持ってるからなー。主に魔物からドロップした分が。


「可能ならお前らも連れて行きたいとこだけど、流石にそれはきついからここでお別れだ。じゃあな、死ぬなよ」

「は? いや、ちょっ――!?」


 捨て台詞のように言うだけ言うと、俺は二人に有無を言わさず地面を蹴った。

 クレーター状のダンジョン跡地を猛スピードで駆け下りて行く。だがそのフォームは多分、傍から見ればかなり可笑しげなものだろう。なんせ両腕を後方にピンと伸ばし、同様に手の平も後ろへ向けているのだから。

 腕の中を先端へかけて熱い何かが伝わっていき、手の平からシャボン玉のような半透明の球体――魔力球が射出される。

 それが手の平から離れるかどうかというところで――。


 魔力球が破裂した。

 その直後、新たな魔力球を生成。爆発。間髪容れず、更なる魔力球を生み出し――。そうして止めどなく背を押す爆風によって、俺の体はいとも容易く宙に浮いた。

 魔力球を連続バーストさせることによって空を飛ぶ。これが俺が二年かけて体得した技だ。細かい方向転換は困難なものの、真っ直ぐに飛ぶだけなら時速200キロは軽く出せる。


 勿論誰にでも簡単に出来ることじゃない。前提として膨大な魔力と、魔力コントロールの技術、そして己を襲い続ける爆発の衝撃に耐え得るだけの、莫大なHPが無くてはならない。だからきっと、この世界で空を飛べるのは俺だけ……。

 青い空と白い雲、彼方に聳える山脈に、眼下に広がる広大な森林。頬を撫でる爽やかな風が心地良い。あの空間では味わう事の出来なかった爽快感が爪先から脳天まで突き抜ける。同級生二人が瞬く間に小さくなっていく。


 ――ようやく……ようやく帰って来た。あの、ただひたすら一直線に進むだけの岩壁に挟まれた世界から。


 魔力の揺らぎを一直線に引きながら、西の彼方へと飛翔して行った。



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