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#33 彼女らの生活と。

「魔石~~!! 魔石はいかがですか~~!! 一人一粒、千イリスですよー!」

 朝妃は手にした麻袋を高く掲げながら、そしてもう片方の手の人差し指と親指で隙間を作りながら、声を張り上げる。すると近くにいた主婦らしき女性が、財布を取り出しつつ近寄って来た。


「お嬢ちゃん、魔石をおくれ!」

「はい! 千イリスです」


 女性から千イリス銀貨を一枚受け取ると、朝妃も麻袋の中から魔石――BB弾ほどのサイズの緑がかった結晶――を取り出して、受け渡し用の小袋に入れる。女性に袋の中身をしっかりと確認してもらってから、口を閉じ手渡した。


「お買い上げありがとうございます!」

「この大きさなら、二ヶ月は安泰だよ。しかしこれで千イリスだなんて、気前が良いどころの騒ぎじゃあないよ? 本当なら1万はしてもおかしくないだろうに」

「いえ! 私たちは儲けるのが目的じゃないので」

「私たち……?」

「あ、はい。二人で活動してるんですけど、そのもう一人の方がダンジョンへ魔石の調達に行ってるんですよ。あたしは戦うのがあんまり得意じゃなくて、こうやって売る方に徹してるんです……」


 朝妃が、我ながら情けないなーと思いつつ苦笑交じりに説明すると、お客の女性は予想に反して感心したように腕を組み三度ほど首肯してみせた。


「若い女の子が戦いが得意だなんて言ったら、そっちの方が驚きさね。良いんだよ、戦いなんて苦手で。けど、まだ王都にも腕の立つ攻略者様がいたんだねぇ。知らなかったよ」

「あはは……実は、最近まで騎士団に所属してたらしいんですけどクビになっちゃったみたいで……それで今はただの攻略者としてやってるんだって言ってました」


 朝妃はこれまでにも、お客さんと何度か似たような会話をしていたが、大体そういう設定にしてある。

 どうやら一般国民には『アトラール王国第五王女という存在が無くなった』ということは知らされていないようで、また、シェーラの名前こそ知れど、元々王位継承順位が低かかったためか彼女の顔まで覚えている国民はほとんどいなかったのだ。


「あらま、それはお気の毒にねぇ」

「でもまぁ、本人は気にしてないみたいですし心配ないですよ。……それじゃああたしは、売らなくちゃいけない魔石がまだたくさんあるのでこれで失礼しますね!」

「ああ、引き留めちまって悪かったね。魔力が切れたらまた頼むよー」

「はい、ご贔屓にお願いします!」


 去って行く女性を一礼して見送ると、朝妃はまた踵を返して、『魔石はいかがですかー!』と声を張り上げながら歩き出した。




 三ヶ月に一度、国から魔石が支給される。しかしそれは規定値以上の税を納めている世帯に限られ、それ即ち、富裕層のみが魔石を得られるというものだった。つまり、王都に住む一般庶民の大多数が魔石の恩恵を受けられていないのだ。

 ゆえに朝妃とシェーラの始めた活動は王都民から大変喜ばれる結果となった。


 実のところ、数日間働いてみた結果、シェーラは一般的な仕事には向いていない事が分かった。当然と言えば当然なのかもしれないが、客にへりくだって接するのが下手で、皿洗いもまともに出来ず、料理も作れず……という有り様。

 なのでシェーラは、エイルを含む《王立攻略組》がダンジョンへ赴く際に同行する以外は留守番。その間朝妃は近くの飲食店でバイトをする、ということに決めたのだった。




 昨日、一昨日と、シェーラが調達してきたおよそ二百人分の魔石は、ものの数時間で売り切れてしまった。

 オレンジ色の陽光が斜めに差す街を歩いて、空になった麻袋を提げて宿へ戻ると、シェーラは部屋にはいなかった。で、どこかから聞こえてきた気合の入った掛け声に、窓から外を覗いてみれば、折角休みの日だというのに呆れたことに彼女は宿の裏手で鍛錬に励んでいた。


「シェーラちゃーん! 夕ご飯行こー!」


 呼びかけるとシェーラは剣を振る腕を止め、朝妃の方を振り仰ぐ。それから額に浮かんだ汗を肩にかけた手拭いで拭って、軽く手を振ってみせた。

 暫くして部屋に上がって来たシェーラは、剣を壁に立てかけるとふぅと短く息を吐いた。


「今日は早かったですねアサヒ」

「うん、城を出てからこの一ヵ月で、あたしたち結構有名になってきてるっぽくて、離れた地区からわざわざ買いに来てくれてる人とかもいてさ。すぐ売り切れちゃった!」

「それは良かったです。……あと、食事の前に先にシャワーを浴びても構いませんか?」


 若干申し訳なさげに尋ねたシェーラ。よく見ると、鍛錬の時はいつも着用しているノースリーブが汗でぴったりと体に張り付いていた。もともとモデルのような抜群のスタイルがやたら強調され、同じ女子の朝妃でさえ思わず目が行ってしまう。

 豊かな胸元に目をやりつつ、同時に謎の敗北感を覚えながら、朝妃は何度か小さく首肯した。


「うんうん、そだね! あたしも別にそんなお腹空いてるわけじゃないし……」


 そのとき言いかけた言葉を遮るように、ぐぅ~~と朝妃のお腹が空腹を主張した。思わず顔を赤くする朝妃だったが、その様子を見たシェーラは弱く微笑むとバスルームへ向かった。脱衣所の扉を閉める際、顔を覗かせて。


「なるべく早く出てきます」

「う、うん……ごめん」


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