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#30 これからの。

 バタバタと階段を駆け上がってくる騒がしい音が、部屋の外から響いてきた。あたしとシェーラちゃんは何事かと扉を見やり、突然の訪問者を待つ。

 日が沈んだ後で時間もそれなりに遅い。だから本当なら警戒するべきなのかもしれないけれど、このタイミングであたしたちのところへ来る人間は限られていた。

 バァン!! という激しい音を立てて乱暴に開かれた扉の前に、ゼェゼェと肩で息をするエイルちゃんの姿があった。


「ちょっと二人とも、どういうことなの!?」


 エイルちゃんが驚くのも無理はない。だって、つい最近までチヤホヤされていた《窓の使徒》と一国の王女だった者が、城ではない場所に寝泊まりしているのだから。

 ここは《野うさぎ亭》。アトラール城下町に構える一宿屋だ。


「エイル、一度落ち着きなさい。まずはお前がダンジョン攻略から無事帰還した事を祝いましょう。岳都マウンタのダンジョンは初めてだったのでしょう? 実際に行ってみた感想はどうでしたか」

「ダンジョンの中なんて大体どこも同じだよ! 確かに見たことないモンスターはいたけど……――ってそれより! なんで帰ってきたら二人がこんな所にいて、しかもシェーラが王籍離脱しちゃってるの!? いったい何があったらそうなっちゃうのよ〜〜!!」


 捲し立てたエイルは、被ったフードを更に深く引っ張りながらへなへなと床に座り込んでしまった。

 そんな彼女にあたしとシェーラちゃんは顔を見合わせ、シェーラちゃんは諦めたように溜息を吐いた。


「……分かりました。お前がいなかった一週間少々の間の事を話しましょう」







 国王様があたしを城から追放したこと、そしてそんなあたしと共に城を出たことでシェーラちゃんが王族ではなくなってしまった事を、エイルちゃんに話したのだった。


「――というわけです」

「…………そっか……ならしょうがないかもね……。きっと私がシェーラの立場でも同じことしてたと思う」


 ベッドに腰かけて話を聞いていたエイルちゃんが、ばたーっと後ろに倒れ込みながら言う。けれどあたしはやっぱり納得がいかなかった。


「全然しょうがなくないし……。あたしちゃんと、あたしの為にそこまですることないって言ったのに……」

「それは違いますアサヒ。確かに、一人じゃ何も出来なさそうなお前を放っておけないという理由も勿論ありますが、決してお前の為だけにしたことではありません。あくまで私が望んで選択した結果です」

「あ、うん…………えっ!? シェーラちゃん今すっごい失礼なこと言ってなかった!? さらっと!」

「気のせいです」


 バッサリと否定されてしまった。そっか、気のせいか……。うーん、う~~ん? なんか上手いこと躱されてる気がするんだけどなぁ……まぁいっか。

 あたしが腕を組んで首を捻っていると、エイルちゃんがぱっと体を起こして、心配そうな眼差しをあたしとシェーラちゃんに向けてきた。


「でもさ、二人とも。これからどうするつもりなの? 特にお金の事とか」

「しばらくはこの宿を拠点にして、生活資金を稼ごうと思っています。アサヒと二人で適当に仕事を見つけるつもりです。あとは、エイルたちが王都のダンジョンに潜るときは私も同行させて貰えるとありがたいですね。現時点で私の取柄と言えば戦えるということぐらいですから」


 というシェーラちゃんの返答に、エイルちゃんは、あはは……と力無く呆れたような微笑みを浮かべた。


「シェーラってしっかりしてそうに見えて、そういうところは意外と考えなしだよね……。うん。でも、分かった。シェーラがそのつもりなら、私も王宮治癒魔法師を辞めようかと思ってたけどやっぱりやめるね」

「……辞職するつもりだったのですか……。思い留まってくれたようで良かったですが」

「だって、責任を取るべきはシェーラじゃなくてむしろ私の方だもん。なんでいっつも、私に何の相談もしないで色々勝手に決めちゃうのかなぁ、ホントに! ……取り敢えず私は今日は一旦お城に帰るね。流石にちょっと疲れちゃったよ……肉体的にと、驚きで」


 最後に付け加えられた一言を聞いたシェーラちゃんは、耳が痛いとでも言いたげに苦笑を零した。

 ベッドから立ち上がって部屋を出ていく間際、エイルちゃんはおもむろに振り返ってあたしを見た。とても申し訳なさそうな沈鬱な顔をしていた。


「でも、アサヒちゃんが元気になってて良かった。実は私ずっと気が気じゃなかったの……。くどいかもしれないけど、改めて謝らせて下さい。本当にごめんなさい」

「ううん。あたしの方こそ――」

「違うの」


 謝ろうとしたあたしの声を、エイルちゃんが遮った。その表情も、声音も、謝る前よりも更に沈んでいく。

「宝箱を見つけたとき、本当はトーマくんはやめとこうって言ったの。なのに私はそれを無視しちゃって……」

「知ってたよ」

 今度はあたしがエイルちゃんの言葉を中断させる番だった。服の裾をぎゅっと握り込んでいた彼女は、信じられないとでも言わんばかりに目を大きく見開いている。


「……え?」

「シェーラちゃんから聞いたの。ミミックっていうのは、触れなければ襲ってこないんだけど、冬馬がそんなのに興味を示すはずが無いから、きっと開けようと言ったのはエイルちゃんだろうって。でもエイルちゃん達の目的はそもそも宝箱から魔石を取ることだから、判断を間違ったことは仕方が無いってこともちゃんと分かってる」


 あたしの話を聞いていたエイルちゃんの瞳に涙が溜まっていく。でもそれを悟られまいと懸命に瞬きで誤魔化し、溢れる前に服の袖で拭っていた。『ごめんなさい、ごめんなさい』と繰り返し呟いていた。

 あたしが口を閉じると、エイルちゃんは一度鼻を啜ってから笑みを零した。


「アサヒちゃん……私、二人をちゃんと見守ってるから」

「うん、分かった」

「……明日も来るね」


 最後にそう残して、彼女は部屋を出て行ったのだった。それからしばらく、シェーラちゃんは口を開かなかった。もしかしたらあたしを気遣っての事だったかもしれない。

 でもその静けさにどこか心地の悪さを感じていたあたしは、そういえば、と口を開いた。


「シェーラちゃんシャワー先浴びる?」

「アサヒの後で構いませんよ」

「分かった」


 相槌を打って、あたしはアイテムストレージから取り出した服をベッドに置く。お城の物なので外を歩くには些か豪華だけど、部屋着にするには問題は無いだろう。

 すると脇でその様子を見ていたシェーラちゃんが、くすっと含み笑いを漏らした。


「見かけによらず抜け目がありませんね。そして想像以上に強くてたくましい」

「でしょ。ちゃんとシェーラちゃんの分もあるから安心してー……って、今の褒めてた?」

「……ところで話は変わりますが、アサヒは働いた経験があるのですか?」

「あたし? あたしはうーん、バイトなら何度か」


 シェーラちゃんが言葉の意味が分からないと言った様子で首を傾げたので、あたしは慌てて補足説明を添える。


「バイトっていうのは、えーと、ちゃんとした仕事じゃないんだけど、予め決めた期間だけ働く……みたいな」

「なるほど。では明日からはアサヒが私の師になりますね」

「ええ!? あたしが!?」

「はい。私は生まれてこの方、一度として働いたことがありません。ですから学ぶべきことが山ほどあるでしょう。ご教授願います、アサヒ」

「う、うーん……が、頑張るよ……」


 あれれー……なんでこんなことになっちゃったんだろ……。うん、でもまぁ仕事のイロハなんてきっとどの世界も同じだよね、たぶん。えーと何だっけ。ほーれんそー? ちんげんさい? こまつなだったかな……。

 ……よぉし! 明日から頑張ろう!


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