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#01 死んではいないらしい。

冬馬とうま……夏風冬馬(なつかぜとうま)よ、目覚めるのじゃ」




 俺の名を呼ぶ声で目が覚めた。ゆっくりと瞼を開ける。寝起きであるにも拘らず何故か意識ははっきりしており、妙に目が冴えていた。


 白。


 それが俺の目に飛び込んで来た光景である。別にペットの名前とかじゃない。

 壁も天井も床すらも無く、明るいはずなのに影が無い。どこまでも無限に広がる純白に、ぽつんと俺一人だけが座っていたのだ。取り敢えず立ち上がってはみたものの、特に何が変わる訳でもなかった。


「どこだここ……」

「ここは世界の狭間はざまじゃよ」


 ぽつりと零した独り言に返してくる声があった。しわがれた、それでいて優しさも含むどこか安心感を伴った声音だ。振り向くと、真っ白なボロ切れを(まと)った一人の老人がいつの間にかそこにいた。

 右手には木から削り出して作った簡素な長杖(ちょうじょう)。蓄えられた真っ白な顎鬚(あごひげ)は、魔法学校の校長か何かかとおもってしまうボリュームだった。何ブルドア先生?

 一見かなりみすぼらしい姿をしたそんな老人に、俺は胡散臭さを隠そうともせず尋ねる。


「……で、俺はなんでその世界の挟間とやらにいるんですかね?」

「それは勿論、死んだからじゃ」


 万事においてリアクションが薄い、とクラスでも定評がある俺ですら驚きを隠せなかった。目を丸くしたまま無言でいると、老人が更に言葉を継いだ。


「覚えとらんかの? お主ら、修学旅行にてバスでの移動中に事故に遭ったんじゃよ」

「あ? あ、あー……」


 確か曲がりくねった山道を走行中だったか。バスが大きく横揺れした後、天井と床が入れ替わったと意識するや否や凄まじい衝撃に襲われ――……というのが俺の最後の記憶だ。

 そうか……死んだのか。うーん、なんか実感湧かねぇな……。しかし俺が本当に死んだのだとすると、今俺の目の前にいる老人の正体は? という疑問が浮上してくる。まぁ大体予想は付くけど。


「ってことは、お爺さんは神様か何かですか」

如何(いか)にも」


 老人が胸を張って少しだけ誇らしそうに答えた。なんだよ、ナメック星人じゃねぇのかよ。


「そうですか。……っていうか、てっきり死んだら天国か地獄に行くもんだと思ってましたけどね、俺は」

「いや……わしの言い方が悪かったかもしれんな。お主らは、厳密には死んではおらん(・・・・・・・)のじゃよ。実は今現在、お主を含むクラス全員が意識不明の重体で病院にて集中治療を受けておる。……だが正直、もはや人の手でどうこう出来るレベルではないのじゃ。だからお主らの命は、わしの手によってギリギリで繋ぎ止められている、というのが現状かのう」


 神様は言ってから、ほっほっほっと何やら愉快そうに顎鬚を撫でた。

 えっ、今のって笑い話だったの? おいおい、ブーム過ぎた一発屋芸人の方がまだ笑えるぞ……。そんなんじゃダメよ~ダメダメ、もっとワ~イルドにラッスンゴレライをLOVE注入しないと。いや、そんなの関係ねぇな。

 そこでふと新たに浮かんだ疑問を解消するために、俺は更に質問を重ねた。


「なら何で俺はここにいるんですかね?」

「そう、それが本題なのじゃが……しかしなんのことはない、ただの暇潰しじゃよ」


 神様は鼻をほじほじしてから小指の先にくっ付いた物体を息で吹き飛ばすと、そんなことをさらっと答えた。

 己の耳を疑うほど至極単純な回答に、俺は目を数回ぱちくりさせる。それから本当に聞き間違いではなかっただろうかと思わず聞き返した。


「はぁ?」

「だからただの暇潰しじゃて。こう見えても凄い暇なんじゃよ、わし」

「……俺達はそんな事のために、神様に殺されかけたってことですか」

「え? いやいや勘違いせんどくれ。わしは何もしとらんからの。神の役目は基本、世界の監視なんじゃ。元来その世界に存在するものが起こす事象なぞ知ったこっちゃないわい。断じてあの事故は偶然(・・)じゃ。神に誓えるぞ。……あ、わしが神じゃった」


 テヘッ♪と、不二家の前に立ってても違和感ないぐらいお茶目に舌を出した。

 そのすっとぼけ具合にいい加減イラッと来た俺は思わず軽く舌を打ってしまう。すると神様もそれが聞こえたと見えて、悪びれるように咳払いを挿んでから少しだけ背筋を伸ばした。


「そうなると暇で暇で仕方が無くてのう……。ずっと見てるだけというも退屈なんじゃよ。お前さんもその気持ち分かってくれるじゃろ?」


 確かに分からない事もない。まぁ時間さえあれば色々妄想してる俺的には、暇が苦痛だと思った事ねぇけど。取り敢えず頷いて肯定の意を示すと、神様も満足げに頷き返し更に続けた。


「そこでな、お主らにゲームをしてもらいたいのじゃ」

「……ゲーム、ですか」


 それはアレだろうか、赤と緑のちょび髭兄弟とその仲間たちが車乗ったり飛んだり跳ねたりする類のアレだろうか。だとしたら俺の独壇場だな。コンピューターゲームにおいて俺に勝てる人間などうちのクラスには存在しない。

 でも何故か《人生ゲーム》と《大富豪》と《回り将棋》は弱いんだよなぁ。なんなのその出世できない運命……。


「今からお主らを異世界に送り込む。お主らにはそこで生活してもらうだけじゃ。これといって気を付けるべき事は無いが、基本的な目的としては、《生き残ること》といった所かのう」

「いやいや抽象的過ぎんでしょ……。簡単に言っちゃってくれてるけど、何だよそのサバイバリッシュなゲーム。超絶面倒くさそうじゃねぇか」

「ほっほっほ、詳しい説明は後でちゃんとするから安心せい。それに、最後までクリア出来たら元の世界に帰れるだけでなく、何でも願いが叶うというご褒美付きじゃぞ。どうじゃ、やる気が出たじゃろう」


 神様がもっさり顎鬚の下で得意げにニヤっと笑って見せる。だがその言葉を聞いた俺の頭の中には、状況がイマイチ呑み込めていないことによる不安感が未だ居座っていた。


「……やる気も何も、話が突飛すぎてだな……」

「ならば取り敢えずは一旦、お前さんを舞台となる世界へ転送しようかの。百聞は一見にしかずじゃ。自分の目で見た方が早いじゃろ」

「いやおい、最低限の説明ぐらいは――」

「ではゆくぞ~~~~……」


 神様が気合を入れるように深呼吸をして、杖を高々と掲げた。

 おい聞けよ。あんまり無視されると、思わずタイガー&ドラゴンのサビを歌い出しそうだからマジで聞いてくんないかな。俺の話を聞け~っ!

 けれど神様がそんな俺の心の叫びに耳を傾けることはなく、俺に向かって杖を振るった。


「――……ほいっ!」


 杖の先端から稲妻にも似たライトブルーの閃光が迸る。同時に俺の周囲が青一色で染まり、直後、視界がフェードアウトした。


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